キャッチボール
俺は悩み事がある時、ひたすら走る。走るとだんだん冷静になるからだ。
卓士の発言を聞いた後、珍しく授業を全て受けた。いつもは教室にいるのが息が苦しいのに、一人でいるとどうにかなりそうだったからだ。
クラスのヤツらも俺に一々構うほど暇じゃないと気付けてバカバカしくなったし、俺自身成長出来た気がした。
けど、家に帰るとカバンを置いてすぐまた家を出た。汗臭い制服とかどうでも良くてイライラを弟にぶつけるのもしんどい。
「あー、暗すぎだろ自分。」
近くの公園のベンチに座って空を見上げた。さすがに梅雨だけあって今にも空は泣き出しそうだ。
「お、楓じゃん。」
懐かしい声に俺はのけぞる体勢から目線を落とした。
「なんだ。ヒロシか。」
「ひでぇ。つか、最近メールシカトしてるだろ。」
ヒロシは去年まで同じクラスだったダチ。賢く市内の私立に通ってる。俺より色黒で背が高く、ガッシリしていて熊みたいなヤツだ。正義感が強く頼りになる。だから、今の状況を相談したくない。
「パソコンとか、最近エロ画像しか見ねぇし。メールとかめんどくね?」
久しぶりのダチに泣きそうになる自分が情けない。ヒロシは黙って隣に腰掛けた。
「キャッチボールしようぜ。相棒。」
そんな悪意の無い自然な笑顔を見て心が軽くなる。ヒロシとはスポーツ少年団でバッテリーを組んでいた。俺は当たり前だが優秀なエースだったけどな。
「相変わらず野球バカだな。ま、俺もマイボール持ってるけど。」
学校帰りのヒロシの、スペアグローブを借りた。臭ぇけど、我慢すっか。
「味方だからな。」
ヒロシが小さく呟いたその言葉にとうとう涙が出た。と同時に
ポツリポツリと雨が降った。
「うし!楓。全力で来い!全部受け止めるからな。」
「…っくしょー。バカだよお前は!」
涙で視界が見えない。
バシッ。
暴れ球をヒロシは確かに受け止めてくれた。
どしゃ降りの中、2時間くらいキャッチボールは続いた。
ヒロシとの最後の試合の日以来に泣いたけど、また明日頑張れると思えた。
ダチ、いるじゃねぇか。バカだな俺。