胡蝶
学生生活において部内恋愛は禁忌とされている。
これを犯した者は、部活に最悪の災厄を招き、学生生活には暗雲をもたらすと言う。
しかし、パンドラの箱の底にも希望があるように、この禁忌にも希望が残されている。
そのまだ見ぬ希望を求め、僕は禁忌を犯そうとしていた。
僕はその事を誰にも相談できないでいた。友達の大学生活まで巻き込む事など出来るわけがない。
他の部員には悪い事をしている自覚はある。もしかしたら、僕の一つの失敗で彼らの居場所を奪ってしまうかもしれない。
僕の背には、これからの大学生活と、部員の居場所が、重く圧し掛かっていた。一人が背負うには重すぎる責任。彼女に思いを告げる前から、心が折れてしまいそうだった。
なぜ、そこまでの思いをして、彼女に告白をしなければならないのだろう。
変化を望まなければ平和で居られるのに。
僕は戦地に向かう兵士のごとく、約束の場所に向かう。もちろん、災いを起こすためじゃない、平和を守るためだ。
戦地となる場所には一輪の花が咲いていた。僕は一匹の蝶だった。
花の香りに誘われるように、僕は彼女に近づいて行く。
「大事な話があるんだ」
僕はそう切り出した。
彼女は静かに笑顔を返す。
「僕は君の事が好きだ」
僕は禁忌を犯した。
その先に僕の望む希望があるかも分からない。
僕は彼女の返事を静かに待った。
彼女の口が動く、世界から時間が無くなったと錯覚するほど、時間がゆっくりと流れる。
その日を境に、僕も彼女を部活に現れる事は無かった。
結局、禁忌を犯せば報いは受けなければならない。
「部活に居られなくなったんだから、責任は取ってもらうよ」
僕の隣の彼女が言った。