表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

序章

序章 「蒼い光」


 脇腹に何かが押し当てられた圧迫感を感じた。

「え……?」

 見ると、ナイフが突き刺さっていた。

 顔を上げると、男が二人。丁度、夕日を背にしているためか、顔は見えない。

 そのうちの片方が、脇腹に刺さっているナイフの柄を握っていた。

 痛み、というのはまだこない。冷静に判断出来ているようだが、それでも痛覚等は混乱しているのだろう。

 捻られたナイフが、傷口を広げる。

 その後で、身体の内側をからナイフが引き抜かれた。その時の違和感が出て、初めて激痛が駆け抜ける。

 途端に、鮮血が噴き出す。それと同時に、虫唾が走るような感覚と共に、痛覚が刺激される。

 反射的に手が傷口を押さえたが、触れた瞬間に激痛が走り、自分の間違いに気付く。

 前屈みの状態で、耐え切れず膝をつくと、頭上から声が降ってきた。

 明らかに日本語ではない言語が耳に入ってきた。

 混乱していて、何語なのか聞き取る事も出来ない。

 と、視界に入っていた男の手が、振り上げられた刹那――

「――!」

 強烈な衝撃と共に、身体が舞い上がった。

 突風に吹き飛ばされたように、身体が宙に浮き、数メートル離れた道路の上を転がり、うつ伏せで止まった。

 咳き込むが、その衝撃で脇腹に激痛が走り、手で押さえ、全身に走る鈍い痛みに再度悶える。

「がっ…はっ……っ」

 数回荒い息を繰り返し、男達の方へ視線を向けた。

 今の突風のようなものは一体何だ。

(何だよ、あいつら……!)

 その光景は異常だった。

 男達の顔はほとんど見えないのに、目だけが不気味に光を帯びているのが判った。

(何だよ、これ!)

 声にならない抗議の声を、頭の中で廻らせる。

 今日は、高校の風紀委員の臨時委員会によって下校が遅れたのだ。そのためもあって、帰りは急いでいた。

 日は沈んだ直後で、山の端はまだ仄かに明るい。だが、それ以外、既に辺りは暗く、人影はない。

 特に、高校から家の間にある、ここ、サイクリングロードは周囲の民家とは離れていて、この時間帯は人を見る事は稀だ。

 丁度、高校と家の中間辺りで、この二人組みと出くわした。最初はただの散歩をしている人かと思い、意識していなかった。

 だが、すれ違う瞬間に刺されたのだ。

 通り魔かと思ったが、こんな異常な通り魔なんて聞いた事がない。外国人で、目が発光する二人組みの通り魔なんて。しかも、妙な突風を操ると言うのも常軌を逸している。

(……殺される)

 力を振り絞り、立ち上がろうと身体に力を込める。

 が、全身に走る鈍痛と、脇腹の激痛がそれを阻害し、上手く動けない。

 背中を嫌な汗が伝い、恐怖感が今になって込み上げてくる。今まで冷静でいられたのが奇跡だとでも言うように。

 心臓が早鐘のように鳴り、身体が震える。

 このままだと殺される。混乱する頭の中で、それだけははっきりと確信していた。だから身体を動かし、少しでも抵抗したかった。

 まだ、死にたくはないのだから。

 ――本当に死にたくはないのですか?

 不意に頭の中に響いた、自分の意思とは全く違う声。

 その声で、急に意識が冷静さを取り戻す。

 どこからか、女性の声が再度問うてきた。

 ――それとも、このまま、死にたいのですか?

(死にたいもんか…!)

 奥歯を噛み締め、懸命に身体を起こそうとする。

 全力を振り絞り、痛みと恐怖を訴える身体に鞭を打って。

 ――それが、あなたの全力ですか?

(全力だよ、十分……!)

 どこか冷めたような響きが声に含まれた。

 これが全力でなければ、何だというのか。怒りも混じった意思が、声に応える。

 ――いいえ、あなたには力がある。

 否定する声が、響く。

 ――解き放ちなさい、生きたいのであれば。

(何――)

 刹那、視界に光が満ちた。

「――が?」

 閃光に満ちた視界は元のまま、男達二人を捉えている。

 映像が直接頭に流し込まれたら、そうなるのかもしれない。視界は普通なのだが、それに被さる、脳が処理する情報には、真っ白な光に包まれた世界が映し出されている。

 白だと思っていた光に、蒼い光がある事に気付いた。その蒼い光は、白い光と混ざり合い、それでも混ざり切らずに蒼い光のまま、白い光のままで流れ、視界のずっと遠い場所から溢れ出ていた。

 光の奔流で構成された空間の中にいるような感覚。

 ――さぁ、目覚めなさい!

 声と共に、視界が光に満ちた。

 蒼と白、判別出来ない程の眩しい輝きに包まれた瞬間、意識が途切れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ