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神隠し物語  作者: 白江
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06 訓練

 眼を開ける。いつも通りの部屋。体に異常が無いか確認し立ち上がる。さすがにもう大丈夫だと判断されたのか凜さんはいない。とりあえずカウンターへ行ってみよう。襖を開け入り組んだ道を歩く。途中で狐を見つけたので手を振ってみると逃げられた。まだ慣れるのに時間が必要なようだ。カウンターにつくとキセル片手の凜さんと猫又がいた。


「やぁ。相変わらず元気そうで何より。」


「…どうも。」


「そんな警戒しないでよ。仕事なんだしさ。それに警戒する相手を間違えてるよ。俺は契約には忠実だしね。」


「警戒も何も二回も殺されれば誰でもこうなりますよ。」


「そうなのか、同じ奴を二回も殺した事がこれまで無かったから知らなかったよ。」


 しれっとそんな事を言う。むかついたが勝てないので黙っておく。


「起きてきたところで話を進めるが、とりあえず頼むな猫又。私はまだやることが残ってる。」


 凜さんはそう言って店の外へ出て行ってしまった。


「ああ。任せろ。」


「いや何がですか?僕は今ここに来たばかりなんですけど。」


 猫又は懐から布に包まれた物を取り出しこちらに投げてよこす。いきなりだったのと予想外に重く少しよろける。


「開けてみろ。」


 そう言うので包みを開ける。中には均等な大きさの短刀が三本入っていた。両刃で鞘はない。


「これは?」


「基本メイン一本サブ二本。これからの成長によっては追加を考えてやる。」


 猫又は質問を無視し店の外へ出て行く。短刀を包みのまま抱えて慌てて追いかける。庭の方へ周り、真ん中辺りで立ち止まり振り返る。


「定番で悪いけど、それで俺に傷をつけてみろ。」


 これが鍛えるってやつか。恨みをぶつける相手を間違えているのは分かっているが、これまでのストレスで乗り気になってしまう自分がいた。


「…分かりました。」


 包みの中から一本取り出し他の二本を包みのまま下へ置く。右手に持ち左手の親指の平へ軽く当てると簡単に皮膚を切り裂き血が出てきた。痛みはあるし血も出ているから模造刀ではない本物だ。それも切れ味が抜群に良い。何度か素振りをして体に馴染ませる。猫又との距離は三メートルから四メートルほどか。そしてゆっくりと正眼へ構える。


「準備はいい?」


「は…っ!」


 い。と言えなかった。いわせる気が無かった。口を開く瞬間にはもう動き出していた。超低空姿勢からの回し蹴り。僕を二回も殺した時と同じ動き。今回は距離があったのと三回目だったので思考が追いついたが避けるにはもう遅く腕を前でクロスさせる。それでも衝撃を殺しきれず蹴り飛ばされ倒れた。すぐさま起き上がり敵を確認、するには体が追いつかず起き上がる前に右手の短刀を蹴り飛ばされた。


「動きを見れたのなら防御ではなく回避を優先しろ。最悪防御することになっても衝撃を逃がすようにしろ。今の場面は自分で後ろに飛ぶ事ができたはずだ。」


「そんなこと言われても体がついてこないですよ。」


「無意識で避けられる様にならなきゃだめだ。ほらさっさと立てよ。続きだ。」


 手を貸す気はない様なのでまだしびれる両腕を酷使して立ち上がり短刀を拾い、また正眼へ構える。

猫又との距離は心なしかさっきよりも短い。


「その構えもそうだが、一本だけじゃなくていい。できるなら三本使ったっていい。自分にあった形を模索しろ。」


「そうですね。でも今はこのままで。」


「そうか。」


 深呼吸し相手の全体をみる。そして高速で動く。今度はきちんと知覚できる。またさっきと同じ下段だ。正眼の構えから右足を引きそのまま素早く切っ先を下へ。タイミングは合っている。突き出された右腕を身をよじりかわしながら斜めに切り裂く、と思った。だが現実は腕を切り裂くどころか空を切り、あげくスピードを乗せた回し蹴りがメギッという嫌な音を立てて右肩へと当たり吹き飛ばされる。


「ぐぅ…なんで…。」


「動きは見えていたようだけど焦りすぎだ。それに頭で考えているから柔軟に対応できていない。その様子だとどうして避けられたのか分かっていないだろう。今俺はタイミングを合わせられたからそれをずらしてやっただけだ。よし、次だ。」


 次だ、と言われても今の蹴りで間違いなく右肩は折れただろう。右腕の感覚はもうなく動かせない。


「なにを呆けている。左手があるだろう。」


 ここまで来たらもうどうにでもなれだ。左手に短刀を持ち替え何度か握り馴染ませる。利き手では無いのでうまく動かせないだろうがもう気にしない。猫又はさっきよりも近い。


「ほらほら早くしろ。どうせ死なないんだし多少無茶しても大丈夫だろ。」


「そうですね。どうせ死なないですし。」


「それはもっと無茶苦茶してもいいという意味か?」


「いえ勘弁してください」


 その後二人で噴き出してしまった。これで時間稼げたらいいなーという淡い期待もあったが残念ながら終わらせてくれなかった。その後凜さんが帰って来るまで続き、結果右肩と肋骨三本、左親指の骨折で終了となった。最終的に猫又との距離は一メートルほどにまで短くなっていた。反応速度は上がったはずだし、左手も動くようになった。代償は自分の事を考えると無いに等しいだろう。因みに今回は傷どころか当てることすらできなかった。今後に期待、とだけ言って猫又は帰って行った。ニヒルな笑顔を張り付けて。


「おうおう手酷くやられたな。まぁ死ななかっただけましか。」


「そうですかね。こんなぼろぼろですけど。」


 そうおどけて見せる。凜さんは気持ちの悪い笑みを浮かべている。


「そういえばさぁ、その傷どうやって治るんだろうなぁ。」


「さぁ?いつも起きたら治ってますし。」


 なんか悪寒が。


「そうかそうか。ところでさぁ、今時間とかお金とか余裕ないんだよねぇ。」


「はぁ、そうですか。では僕は帰って寝させてもらいまっす。」


 何が言いたいのか分かった。故に逃げなければ。


「どこに帰るか分かってるのか?」


 うわぁ…。微笑みが怖いよ…。恐怖だよ…。


「…霊安室…でしたっけ?」


「言いたい事は分かるな?」


「分かりません!」


 ダッシュで逃げる、がすぐに捕まる。


「すまないと思ってるよ。」


 わざとらしくヨヨヨと泣く真似をする。あきらめた方がいいか…。次に起きた時はまた布団の上か。

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