表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神隠し物語  作者: 白江
5/11

05 ゴキブリホイホイ

 その後凜さんに起こされ即刻またカウンターへ。その途中で聞いてみた。


「なんでまたカウンターなんですか?それより痛覚あるとはいえ死なないんですし外を見てみたいんですけど。」


「もう少し待ってろ。猫又が案内してくれるから。今あいつにはお前の噂を流してもらってるから戻ってきたらな。」


「そんなことしたら此処にたくさん妖怪が来るんじゃないですか?」


「もちろんそれが狙いだ。集めて情報収集する。此処に私が居る限り並大抵の奴なら大きく動けないし、なにより自分で動くよりむこうから来てくれた方が助かる。」


 それで見つかりやすいようにカウンターというわけか。


「猫又さんが噂を流している間に他の奴が契約して裏切る可能性もあると思いますけど。」


「あいつとの契約は三つ。」


 指を三本立てる。


「一、お前を殺す。これは終わり。二、お前がこの世界で一人で動ける程度に情報を与える。三、お前を鍛える。この三つは契約してるから必ず守る。他は知らん。」


「三つ目の意味は?」


「そのまんまだ。お前を鍛えてもらう。私は立場上此処から動けない。故にお前には基本的に一人で動いてもらうことになる。そうなると力が必要だろう?」


 これから大変そうだなぁ、と遠い目。


「ということで頑張ってくれたまえ囮君。」


「ういー。」


 僕はカウンターにある席に向う。まだ血の匂いが消えていない。必然、あの時の光景が頭をよぎり胸から込み上げてくるものを必死に抑えた。これが日常になるのだ。慣れろ。慣れるしかない。一つ深呼吸し席に座る。落ち着いてあたりを見回すともう凜さんはいない。


「お前が噂の人間か?この血の匂い…お前だな?」


 さっそく来たよ。猫又さんが出て行ったのはついさっきだぞ。外見は小さな鬼の様で頭に一本角が生えている。内心もう恐怖は微塵もなく、この場をどう対処するか冷静に考え始めていた。とりあえず話しかけよう。そして実行。


「っつ!?」


 しようとしたらなんか逃げてった。そして凜さんに捕獲されてた。


「一人目捕獲完了。」


 そう言って獲物を持ってきた。とてもいい笑顔だった。その眼は、どうだ言った通りだろう、と言っている。捕まった奴は、ごめんなさい離してください、とか言ってる。笑顔で奥に歩いていく凜さんの後ろ姿を合掌で見送った。そしてため息一つ。


「何だこれ。」


 その後も何匹もやってきてはすぐに凜さんに捕獲されていった。そのたびにいい笑顔で獲物を持ってくるのでむしろそっちが怖かったがゴキブリホイホイにゴキブリが入っていた時の主婦の様な感じだろうかと思うと笑えてきた。来る奴みんなに憐れみの眼差しを向け始めていた頃、猫又さんが戻ってきた。


「やぁ。もういいだろうと思ってね。結果はどうだい?」


「もうゴキブリホイホイ状態ですよ。あるいは撒き餌とか。」


「それは凜さんも大喜びだろう。それでなんだけど。」


「?なんですか?」


 眼がギラリと光る。あっこれは…、と思った時には胸に細い腕が刺さっていた。血が口に込み上げごぼごぼと鳴る。尿も垂れ流され血と合わさり気持ちの悪い匂いが鼻につく。前の時は痛覚が飛んでくれたのに今回はいくらたっても無くならない。なんかデジャヴ…ついさっきもこんな感じで細い腕が僕の体を貫通していたんだよな。あの時は背中だったからよかったが今回は相手の、猫又さんの顔が見える。自分を殺そうとしている相手の顔を見るのはあまり気分がよくない。自分の中で永遠と思える何秒かの後に猫又さんが口を開いた。


「予想はしてたんだよね。死なないって広めたらやばいのが来るから言えなかったんだけど。痛覚はあるみたいだし申し訳ないと思うけどこっちも仕事だから勘弁してね。でもすごい生命力だよね。まさか心臓を盗ってもまだ息があるんとは思わなかったよ。潰さないと死なないのかな。」


 腕を引き抜く。支えを失った体は力なく倒れる。猫又さんを見ると手には心臓だと思われるものを持っている。なぜかまだ微弱に拍動している。あれが止まると意識がなくなって、気づけばまた生き返るのか…。だてに神様(代理)じゃないんだよな。


「悪いね。」


 それは僕に向けてではなく、部屋の奥に向けてだった。


「いや、気にするな。」


 奥から声が応えた。猫又さんはニヒルに笑い出て行った。奥からビチャッ、ビチャッと血と尿が混ざったものを踏む音が聞こえる。なんでくるんですか。汚いじゃないですか。ちゃんと僕が掃除しておきますから。口に出そうとしても声が出ない。頭を持ち上げて膝に乗せられ凜さんが優しげに見下ろしていた。こんな膝枕は嫌だなぁ。


「あーあ、また霊安室行きだな。まったく掃除する身にもなれよ。」


「…すいま…せん…。」


 やっとこれだけ言えた。


「まったくだ。やっぱりお前には力が圧倒的に足りないな。これから強くなってもらわないと。まぁ今は安心して寝ればいい。」


「…はい…、毎度…毎度…すみま…せん…。」


「気にするな。」


 これから強くなって、一人で自由に動けるようになって、凜さんや代理さんに迷惑かけないようにして、先代を見つけて、それで、どうしよう?先代さんを見つけたら、どうすればいいんだろう?まぁ今は考える必要のない事か。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ