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神隠し物語  作者: 白江
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01 現状把握

 僕は妹を傷つけた。結果家庭は崩壊し、帰る場所を失った。心には罪悪感が残った。


 僕は大切な、大切だった友達を傷つけた。結果人間関係が崩壊し、居場所を失った。心には後悔が残った。


 帰る場所を失い、居場所も無くなった僕は逃げるしかなかった。正当化するつもりはない。誰が悪くて、何が悪くて、どうしてこうなったのか、全て分かっている。僕だ、僕が悪いのだ。


 逃走はみじめだ。これ以上ないほどみじめだ。自分がしてきたことすべてに背を向け、自分をつくっていたものすべてに背を向けて、逃走。走って逃げる。行き着く先も分からずに、行き着く当てもなく、ただただ逃げる。


 気づけば見渡す限り木ばかりだった。いつの間にか森に入っていたらしい。上を見ると木々に覆われて空が見えない。だが覚えている限り付近にこんな大きな森なんてあっただろうか?それに、これほどの木々となると山の中に入ったのか?…そういえば家の近くに規模の小さい神社があったっけ。でもこんな大きな森ではなかったはずだ…。

 考えれば考えるほど分からない。どうやってここまで来たかも覚えてない。これぞまさに手詰まりだ。ここにきて逃げてきたことへの後悔がでてきた。ここまで来て戻れないよな、という変なプライドまででてきた。

 結局、もと来た方へ戻れば知り合いに会うかもしれない、と自分を納得させ、最悪木の根をかじるはめになる道を選んだ。なんてみじめ。これこそ逃走。

 その時、どこかでカサカサッと軽く葉が擦れる音がした。周りを見渡すがそれ以上音はしない。なぜかほほを汗が伝う。そして後ろから軽い衝撃があり、足から力が抜けていくのを感じた。立っていられなくなり前のめりに倒れる。催眠ガスか何かなのかろくに思考することもままならず意識が遠のいていくのを感じた。最後に蝶の柄の真っ赤な和服の裾と下駄が眼の端に映った気がした。


 気がつくと僕は布団の上だった。見たことのない天井に見たことのない部屋。どこか気品を感じさせる八畳ほどの和室。襖の向こうから声が聞こえてくるがよく聞き取れない。そして、すっと襖が開いた。


「気がついたな。呆けてないでさっさと起きろ。ああ布団はそのままでいいから。」


 狐の面を付けた背の高い人物が立っていた。体格から女性だとわかる。


「あの…ここは?」


「それも含めて説明してやるからこっちに来い」


 そう言うと戻って行ってしまった。僕はまだぼやける頭を振り立ち上がり部屋を出た。そこは応接室のようだった。奇怪なオブジェ多数と小さな机を境に椅子が一脚ずつ置かれている。向こう側に彼女は座ってキセルをふかしている。狐の面は、外していた。髪の色は黒で長くストレート。顔は整っていて見た目は十代後半から二十代前半といったところだろうか。彼女はこちらに気づくとニヒルに笑った。


「思った以上に元気そうじゃないか。頑丈なのか、慣れているのか、はたまたそもそもそんな感情自体無いのか。」


「いったい何の話ですか?それよりこれはどういう状況なんですか?今少し記憶がぼやけてて。」


 言いながら椅子に座る。正面に対峙すると威圧感がすごい。眼を見ていると吸い込まれそうだ。


「うん。それはだねぇ、私が君が近くの森で倒れているのを見つけて助けてやったんだ。」


「ああそういえば…。…助けていただきありがとうございました。お礼はします。それでは。」


 そう言って立ち上がる。本心はこの奇怪な空間から一刻も早く逃げ出したいだけだ。


「まぁ待て。結論から言うと君は帰れない。」


 何を言っているんだこの人は?そう思っていぶかしげな眼をむけるも依然としてニヒルな笑みをたたえているだけだ。心なしか最初より楽しそうだ。


「どうしてですか?」


「実は君に憑いている神様から探し物の依頼を受けてね、利害が一致したから依頼を受けることにしたんだ。」


「…は?」


 いろいろとおかしい。僕に神様が憑いていて、その神様がこの人に探し物の依頼をして、だから帰れないと?


「もう決まったことだ。契約で私が君の衣食住を受け持つことになった。これからこの店、よろずや凜で店員として働いてもらう。」


 本人置いてけぼりで話が進みすぎている。


「あなたと、僕に憑いているとかいう神様の利害が一致しても僕は関係ないじゃないですか。助けてくれた事に関しては感謝していますけど僕は帰らせてもらいます。」


「へぇ…。帰れるのか?」


「何言ってるんですか?僕にはちゃんと帰る場所が「ないんだろう?」


 言葉に詰まる。彼女の眼が妖しく光る。怖い。恐い。強い。


「私は君よりも君の置かれている状況を理解している。安心しろ、利害は一致していると言っただろう?それにお前も含まれている。彼女は探し物、もとい探し人を見つけたい。私も個人的理由からその人を見つけたい。お前は居場所が欲しい。ほら誰も損しないだろう。」


「…彼女?」


 必死に絞り出した言葉がこれだった。


「お前に憑いている神様だ。名前は自分で聞くといい。そうだ名前、名前を忘れていた。私の名前は凜。代々この店を継ぐ者に与えられる名だ。お前の名は?」


 深呼吸して落ち着け。落ち着いて考えろ。まだ分からない事だらけじゃないか。そして立っていたままだった事に気づき椅子に座りなおす。


「僕の名前は聖柄宴です。」


 さっきより落ちつけた分余裕もでてきた。このまま営業スマイルもできそうだ。


「よく言えました、と言いたいところだが宴、今後一切この店と、信頼できる奴以外に本名は言うな。これは重要なことだ。」


「さっきから気になっていたんですが、あなた何者ですか?平気で神様の話しするし、やけに僕のこと知っているようですし。」


「ああいい忘れてたな。私は狐だ。」


 ………ワッツ?


「それも九尾の狐だ。」


 ………ワッツ!?


「えっへん」


「いやいやいやいやなに可愛さアピールねらってんですか!?そんなことよりあの九尾の狐!?妖怪の!?」


 やっと余裕が出てきたと思ったらこのざまだ。…狙ってやがんのかこの人。


「そう。それでいろいろ納得いくだろう?」


 凜さんはクックック、と楽しげに笑っている。

 

 いろいろ?…僕の事やけに知ってる事とか、狐の面をしてた事とか、そういえば倒れる前なぜか森に入ってた事とか、神様を彼女って言ってる事とか?


「実は君が気がつくまで彼女と話してたんだ。因みにこの面は正装ね。聖柄宴を本名と分かったのも、君にあったごたごたを知っていたのも彼女から聞いていたから。彼女がなんで知っているかなんて聞くなよ?相手は神様で、それもおまえに憑いているんだからな。」


 深呼吸パート二。この状況を整理して考えろ。押されっぱなしでは駄目だ。


「…全然納得できませんが百歩譲ってあなたが妖怪だとして、僕を殺す気はないようですし、良しとします。他に納得いかないのがどうして迷ったかと、どうして僕に神様が憑いているのか、そして探し人とは誰なのか、なんですが…今僕は神隠し状態なんですか?」


「そうなるな。詳しいことは直接聞くといい。一応忠告だが、気軽に外に出るなよ?人間と見るや否や殺しにかかってくるかも知れんからな。」


「…肝に銘じておきます…。それで僕に憑いてるっていう神様にはどうやったら会えるんでしょうか?」


「夢の中で会えるだろ。まだ話さなきゃならん事は残ってるがまぁおいおいだな。そろそろ彼女に会って来い。待ちかねているだろう。」


 僕が次の言葉を言おうとしたときには思考に靄がかかったようになり自然と瞼を閉じていた。最後に


「安心して寝ろ。布団には運んでおいてやる。」


 と、やさしい声が聞こえた。



初投稿になります。至らぬ点も多々あるかと思いますが温かい目で見ていただけたら幸いです。

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