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6・社会


「マイクリング開発者、の娘がアリサちゃんか」

「うん」



なるほどね。

僕はそれを聞いて、ほんの少し納得できたよ。


マイクリングってのは、すなわち僕やナナミの事だ。

僕らと関係が深いんなら、その重点観察とやらに指定されても当然だね。


でも、すべて納得できた訳じゃない。



「開発者って存在したの、マイクリングの開発者?」

「サンゴ、あなたは……社会通念こそインプット済みだけど、だけどね……あなたが知らない事も多いの」


「どうしたんだい?ナナミ?」



なんとなく、ナナミは言葉に詰まってる気がする。

僕としては、今の話題よりも、ナナミの変調が心配だね。



観測船は気流に乗って、巨人アリサの居室を漂っている。

とりあえず安全圏に、逃げ延びたって感じだね。


ナナミは、俯いている。

身体が少し震えてるように見える。心配だね。


「ナナミ」

「聞いて、サンゴ」


「……ああ」

「あなたが理解できるように、少し(さかのぼ)って話すよ」



ナナミは、もう顔を上げている。

決然としてる様子だ。



「まず、マイクリングの歴史について」


「おっ、レクチャーだね?」

「何とでも言って。初期のマイクリングは、ウイルス散布のため開発された」


「ウイルス、散布?」

「ウイルスと言っても、巨人たちが意図的にデザインした、ただ一種の強毒性ウイルスだよ。それを指向性を持って散布するために設計された極小アンドロイド、それが初期型のマイクリングなの」


「つまりそれ、巨人が巨人を殺すための武器じゃないの?」

「その通りだよ」



たしかナナミが以前、語っていたね。

巨人は愚かだって。大爆発するような道具も作ってたんだよね。


「まっったく理解不能だね、巨人てやつは」

「ともかく、ウイルス散布は効果的だったみたいで、それが巨人みずからを地表から駆逐し、地下都市へと追いやった、原因のひとつだよ」


「ここにいるアリサちゃん達は、地上生活グループだったよね?」

「うん。ごく少数の、昔ながらの生活者だね」


「ふん、そんな辺境で生き残ってるグループに、開発者がいるのか」

「開発者本人は、ここには居ないよ。アリサは娘だよ」


「そこも納得いかないね。開発者本人と、娘は、別の生物じゃないか」


「サンゴ、そこに巨人の精巧なメカニズムがあるの。幼体から成長し、子孫を残し、老いて死亡する。そのサイクルの中で旧来の生活意識と結びついて、複雑な行動様式から新しいアイデアを獲得する、それを私は巨人の”進化”と位置付けてるよ」



ええと、難しいね。

ナナミは知的だから、そのせいか言葉が難しい。


「うーん……言い換えると、アリサは将来、私たちマイクリングをバージョンアップできるかもしれない、そんな可能性を秘めているの」

「巨人のアリサちゃんが?」


「あくまで可能性だけどね。アリサの親、つまり開発者も、その可能性に着目しつつ、あえてこの地上にアリサを住まわせてる。私はそう推測してるの」


「でも僕は、まだ納得できないね。巨人を殺す小さなアンドロイドを作るって、そんな事する奴の娘が、信用できるかい?」

「サンゴ、まだ説明がつながってないの」



ナナミは熱心に話し続ける。

視線は、まっすぐに僕の方を向いている。

僕としては、ナナミがそうするなら、まっすぐに受け止めるね。


「散布兵器として製造されたのは初期のマイクリングだよ。サンゴ、私たちは現行バージョンなの」


「現行バージョン?」

「そうだよ。巨人たちも過ちに気付いたらしくて、ウイルス散布兵器から、今度はウイルス回収用にマイクリングを仕様変更したの。アリサの親は、そのプロジェクトを推進したメンバーなの」


「今度は回収役かい?僕らも大変だね」

「マイクリングは当初から、高度な自律性を与えられて設計された。それがウイルス回収の役割にも効果的だったし、思考能力を備えているマイクリングは巨人社会との積極的な関わりすら、可能になっていった。それが私たち、現行バージョンなんだよ」


「巨人社会と、関わる?」

「とても説明が難しいんだけど……」



ナナミは、額に手を当てて悩んでる。

僕としては何か手助けがしたい。ナナミの役に立ちたい。


そんな時、操作パネルからメール着信のアラームが鳴った。

センターからのメールかな?




「……サンゴ、これが私なりの”関わり”だよ」


「えっ?」

「ちょうど、アリサから返信が届いたよ。見て」


「あ、アリサちゃん?」



どういう事だい?巨人アリサ・5歳とメールしてるの?

そんな事が物理的に可能なんだろうか。相手は100兆倍なんだけど。


思わず僕は、モニターのホログラムを確かめた。

そこには巨人アリサが、座り込んでる。

そして……巨人サイズのタブレットを、ポンポン叩くような姿勢。


「見て、サンゴ」



今度は、ナナミの示したメール文面を確かめる。

それは、見慣れている通常フォントの文字列。


〈どてにはれんげの花がさいてるよ ななみとみにいきたいな〉



これが、アリサちゃんからのメール……


信じがたいね。まだ、状況が呑み込めない。

僕はナナミを見返してみる。


ナナミは、クールな表情だね。

そして、とても決意を持ってて、何かに耐えてるような。

他に何と表現すればいいのか、僕には判らないね。


「巨人と、私たちのメールフォームを接続する権限をセンターから受け取ってる。アリサとのメール交換は”歴代”の私が自発的に担当してるんだよ」



歴代の私?……歴代のナナミ……


「……ナナミ」

「どうしたの、サンゴ?」


「何だか調子がおかしいんだ。このボディって、疾病とは無縁のはずだけど」


「サンゴ、それはきっと、あなたが現行バージョンだからだよ。だから」



ナナミは、僕の手を取った。


「その変調は異常じゃないの。だからサンゴ、誇りを持って」


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