3・道具
良く寝たな。コンディションは上々だ。
食事の時は、酔っ払って醜態をさらしてしまったね。
でもまあ、段々と慣らしていけばいいさ。
起き上がってベッドルームを出る。
僕は早速、メインフロアに入る。
ベッドルームを出れば即、メインフロアだからね、快適だな!
そこではナナミが情報端末を操作してる。
ずっと寝てないんだろうか。
巨人観察業に、ひたむきに取り組んでいるね。
ナナミが座ってる隣に、もう一つ椅子がある。複座型だね。
そこで僕は、大きな発見をしたよ。
情報端末を利用すれば、巨人観察業について高速学習ができる。
会話による学習よりも、バツグンに効率的なんだよね。
でも僕は、高速学習をあえて無視する。
何でだろうね?
その答えは単純明快。
ナナミと仲良くなりたいからさっ!
まあ正直に言えば、巨人観察業はそのための、手段?
だからナナミとお喋りしつつ、学習したい。我ながら冴えてるね。
「ナナミ?」
声をかけてみる。ナナミは背を向けて、情報端末を操作してる。
こっちに気付くと、椅子を回して半分こっちを向いてくる。
「サンゴ、気分はどう?」
「そうだねえ、悪くないね」
「どう、レクチャーの続きをしても大丈夫?」
「ああ勿論さ!」
ナナミは喋りながら、観測モニターをチラッと確認してる。
う~ん知的だね。
そんなかんじで、レクチャーの続きが始まった。
「巨人ハルナが着火器具を使ったの、覚えてる?」
「勿論さ。ついさっきの事のように覚えてるね」
「火に続いて、巨人の特性をあらわす要素が、すでに話題に出てるの。判る?」
「ん?ええっと」
「着火器具、つまり道具を使うという事実だよ」
「ああ言われてみれば、そうだね」
「巨人は多彩な道具を操るの。石や弓矢、縄」
「ナワ?」
「植物由来の繊維を束ねたものだよ。使い方も、とっても多彩」
「ああ、縄ね。原始的な仕組みのファイバーケーブルだね」
そこまで話した所で、ナナミはちょっと考える仕草をしてる。
それからすぐ、お喋りを再開する。
「サンゴ、猿ってわかる?」
「もちろんさ!」
「蟻は?」
「アリだね、わかるよ」
「ナゲナワグモは?」
「……わかるね」
「やるじゃないサンゴ」
けっこう詳しいね、僕。
生物のイメージが浮かぶ。ナナミの話題について行けてるね。
いけてるね、僕。
ナナミは手で、投げ縄を振り回してる。
実際には素手だよ、まあ真似事だよね。
そして振り回した縄を、僕に向かって投げつけてきた。
「いやあ、捕まったな~」
ナナミはにっこりと笑う。
チャーミングじゃないか!
そのあとすぐ、また妙に感情的な表情になって、すぐクールになってる。
その態度、ほんとミステリアスだね。ますます好きになっちゃうよ。
「ナゲナワグモは、体内から粘着糸を出して投げ縄を作る。それを操って獲物を捕らえるの。つまりナゲナワは体内で生成されてるから、厳密には道具使用とはいえない。けれど巨人以外にも、ある種のサルや鳥、アリなど、道具を使う生物は多数存在する」
「ふむ、ふむ」
「つまり巨人=道具利用と断定するのは、説明不足って事だよ」
「だったら、道具をキーワードにして巨人を考察するのは、間違ってるね?」
「そうとも言えないんだ。巨人の特質は、道具利用の”多彩さ”にあるの」
そこまで喋ってから、ナナミはモニターの方を向く。
「サンゴ、見て」
モニターの手前にある、立体映像。巨人ハルナが映ってる。
「ハルナの周囲に、道具があるの、わかる?」
「……ああ、近くにノコギリがある、その奥にあるのは、家?」
「正解だよ。ノコギリは木材を加工するための道具、家を作るのに役立つ」
ナナミはレクチャーを再開する。
なんというか、ナナミって巨人が好きみたいだね。熱心だねえ。
「安全な住居を作るためのノコギリやチェーンソー。チェーンソーを作るための金属・プラスチック。それらを生成するための工場。工場を建てるためのトラック。トラックを走らせるためのエンジン、エンジンを製造するための……」
ナナミは指を立てて、ひとつひとつ例を挙げてる。
僕は説明を聞いてるというより、ナナミのキレイな指に見惚れてたね。
「……こうして多彩な道具を幾つも組み合わせて、巨人は安全な家、そして生活圏を確保してきた。正確には”確保した気”になっていたの」
「した気に、なっていた?」
「例えば巨人は、原初的な道具・石を使って叩いたり、切ったりして加工に役立てる。それだけなら建設的だけど、投石する事で巨人は武器を獲得したの。投石から発展してスリング、弓矢、ボウガン、大砲……最後にはボタンひとつで、生活圏をまとめて破壊する装置まで発明したの。ほんと愚かだよね」
「ああ、それは非効率の極みだね」
巨人、自分の首を締めてるじゃないか。
自爆が趣味なのかもしれないね。悪趣味だよね。
あとナナミって、巨人が好きなのかと思ったけど、実は嫌い?
熱心なレクチャーの締めくくりに、ナナミは謝ってきた。
「ごめんなさい、少し冗長になっちゃったかも」
「いいんだよナナミ、素敵なレクチャーだったさ!」
「そうだといいけどね。私も、少し眠ろうかな」
「ああ、そうするべきだね」
僕はすかさず、ナナミを支えてベッドルームへとエスコート作戦開始。
我ながらスケベで、抜け目がないね。
「平気だよ」
……たったひと言で、作戦は失敗に終わったね。
まあ、ネバーギブアップだね。
それで問題となったのは、ナナミ就寝後だよ。
つまり簡単にいうと、僕、ヒマになっちゃたんだよね。
他にやる事もないから、情報端末でも触ってみようかな。
とりあえず、データベースを漁ってみよう。




