表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1・巨人


悪くない目覚めだ。

ベッドでカラダを起こす。手足もちゃんと動く。


「サンゴ、起きた?着替えてからメインフロアに来て」



部屋のスピーカーから声が聴こえた。

素敵な声の持ち主だな。クリアで、どこか懐かしさを感じるね。


おっと、僕はハダカじゃないか。

手近にあった服を着る。早く声の主に会ってみたいね。


とっとと部屋を出る。

すると即、出会えた!すばらしいね。


「私はナナミ、この観測班の主任になったよ。よろしく」

「ああ、こちらこそ!」



うん、効率的で、理想的な初対面じゃないか。

そう満足しつつナナミの顔をよく見ると……


なんでだろう、とても感情的な印象を受ける。

他に何と表現すればいいんだろう。全く判らないね。


でも、その表情はすぐ引っ込んだ。

キリッとクールな表情になってる。

ナナミかあ、ますます好感が持てるよ。


「早速だけどサンゴ、あなたには職業選択の自由があるよ」

「ああそうだね。これからどんなライフワークに取り組もうかな」


「私としては、サンゴに巨人観察業を手伝ってもらいたいんだ」

「お安いご用さ!……でも、えっ、巨人観察?」



まあナナミがリクエストしてるんだから、僕はそれに応えたいね。

でも巨人観察については、ノウハウが全然無いね。ノーアイデア。


「巨人の特性を多角的に研究するためのフィールドワークだよ。このエリアでは地表生活グループの観察を担当してるけど、実務にはリスクも大きい為、手放しでは勧誘できない面もある」


「ふーん?」



僕は相槌を打ったね、とりあえず。

正直に言えば、ナナミが解説してる姿に、見惚れてたんだよね。


ナナミの話し方は、とっても理知的。

喋りながら時折り動かす、手の平のジェスチャー。


お喋りを鑑賞してたら、ナナミはハッとして咳払いをしてる。

そんな仕草も素敵だよ、ナナミ。


「サンゴ」

「なんだい、ナナミ?」


「多分、説明するよりも()ず、実物を見てもらった方が簡明だと思う」

「ああ、そうだね!」


「ちょっと待ってね」



ナナミは背を向けて、メインフロアを歩いていく。

歩く後ろ姿にも、ぞくっとしちゃうね。我ながらスケベだね。


フロア中央部にはモニターや制御パネルが集中している。

見たことない形の装置もあって本格的。さすが観測船といったところだね。


ナナミは椅子に腰掛けてパネルを操作してる。

操作と連動して、モニターに流体のイメージが表示されていく。


「よし、今なら船外に出ても平気だよ」


「……ふーん?」

「天井に乗降ハッチがあるのが判る?ロックを解除してみて」

「ああ、任せといてくれ!」



どれどれ、天井は。

あるね、いかにも気密性に優れた丸い扉が。

これを開ければいいんだね。


ええとロック、ロック解除っと。

ステップを登り、天井から一段凹んだ扉の周りを探ってみる。

このレバーかな?たぶん間違いないから全開だ。おりゃ!



「サンゴ、丁寧に扱って」

「そうかい、任せて!」


「船体がダメージを受けてるから、そろそろ乗り換えが必要なの」

「ふーん?おっこれ2重ロックか、こいつもオープンッ」

「サンゴ、丁寧に」


2重ロックを解除すると、扉はスライドしていく。

すると外気が渦巻きながら、僕を呑み込むように侵入してくる。

けっこうな圧力差じゃないか。



「外へ出る前に、腰のフックとハッチを接続するの。忘れないで」

「ああ勿論さ!」



ええと、腰のフック、フック……

ああ、服にフックがあって膨らんでるね。標準装備なんだね。


これを扉にひっかけて、よしこれで安全だね。

さあ外界へレッツゴー。


「サンゴ」



まだ見ぬ外界の景色を、僕は見届けるっ!


見た、確かに見たけど景色がぐるーっとひっくり返った。

おいおい、気流が激しいじゃないか。安全じゃないねこれ。


逆さ釣りになった僕は、フックのおかげで一命を取りとめた。

船体とつながった部分から、ケーブルが伸びてる。


「サンゴー、大丈夫?」


「あー、もちろんさー」



ケーブルをひっぱってハッチまで戻る。ナナミの隣でひと息ついた。

けっこうハードだね、観察業。


「あれが巨人だよ」


「ああ、えーと、どこ?」


「……あなたの目の前。視界すべてが巨人だよ」



気流の強さにまだ慣れなくて、足元がおぼつかない。

ナナミが隣から腕を出して、僕と支え合うポーズで船上に立ってる。


そして目の前の景色は、一色に染まっている。

グレー、灰色にブラウンが混じったような、そんなカラーだね。


これが巨人か、もっと派手なもんかと期待もあったんだけどね。

でも、なかなか上品なカラーリングだと思うよ。悪くない。


でも……これって巨人?

ただの景色、なんだけど。


「空を見上げて、サンゴ」

「うん?」



ナナミが言うなら、見上げるさ。

見上げる。上を見る。()りかえって真上を見てる。


そこに、景色の切れ目を発見する。

色が変わってる、その上は……これ靴下か。


つまり視界一杯に見えてるこのカラーは、靴か。

もう限界いっぱいまで見上げてるのに、まだまだ上がある。

これが全部、巨人の脚部なのか。


「私たちと巨人のサイズを比較すると、全高にしておよそ4万5千倍」


「ふ、うん……」

「体積では、約100兆倍のスケールギャップがあるね」



ふふ、ふ。

100兆かい。100兆倍かい?


なんだい?その幼稚なイメージの数値は?

僕はもう、笑いをこらえきれない。


目の前の光景、完全に常軌を逸してる巨人のサイズ。

馬鹿げてるのに、それがホントに、リアルに目の前にある。


大笑いだよ。なんだよ巨人って。

余りにスケールが違い過ぎて、怖くもなんともない。

だってあれが生きてるとしても、こっちに気付くわけない。


ただただ、笑うしかないよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ