小熊のパンダに変われば皆んなから可愛がってもらえるかな
「シャオシャオとレイレイが中国に帰ったら、もうパンダさん見られなくなっちゃうわね」
生真面目な体育座りしながらパンダ返還のニュースを見てるユウタにそう告げる。
ベビーカーに乗っけてあげられるときからお天気のいい春と秋の年二回は上野動物園にパパを足して三人でお出かけしてしてきたから、来年1年生の年長さんは少し大人びた冷静な顔でパンダのいなくなる1月末を述懐してるのだとばかり思っていた。
まだまだ述懐なんて言葉はしらなくても・・・・・
きみの心中で双子のパンダにいろいろを話しながらサヨナラしてるのを述懐と呼ぶのだと少し男の子っぽさが増したひとりっ子の我が子を抱きしめながらそれを告げてあげたい。
「ぼくっ、駆除って、嫌いなんだ」
ユウタはそれを唐突に言った。
なんだか身勝手な甘いムードに浸ってた母は少し気恥ずかしくなる。「なによ、いきなり、くじょなんて」と、慌てたのを急に場面展開したユウタのせいにして、駆除をひらがなで置き換えながら探りをいれる。
ユウタ君はモミジ組の年少さんたちの面倒も見てくれるとってもいい子なんです。
けど・・・・・と困った顔でお迎えのわたしの顔をうかがいながら次の言葉をどう選ぼうか迷ってる高梨せんせいの小顔が浮かぶ。美人ではないが、困った顔してる理由をこちらが見つけてあげなきゃと思わせてるのがすぐに伝わるから、送迎の分担を仰せつかったパパたちには人気がある。
「すみません、また保育園のクウキ乱しちゃって」
先回りしてそれを言うと、口角をあげてた高梨せんせいの顔が和らいだ。乱すなんてとんでもないと言ってはくれるが、いろいろの苦情の真ん中はそれだ。ユウタを前にしてのいまでいままでのいろいろを並べるのはやめておくが、シンフォニーのエンドロールなのにプロローグのドラムを持ち込むような唐突を言い出したり、やらかしたりする。
「駆除って、クマさんたちのこと殺すことだよね」
少し繋がる。昨日の夕食のとき、クマのニュースを見てて怒っていた。ケージ式のワナに掛かった子グマ一頭にお揃いのキャップを被ったジイさんたちが寄ってたかって蜷局を巻いていたから、その後のことを駆除の一言で包んだアナウンサーに食らいついたのだ。
中国に連れていかれる双子のシャオシャオとレイレイとゲージの罠をかけられた子グマがユウタの中でひとつに回っている。体長1メートルに満たない3頭を真ん中にその2倍3倍の数した黒服の中国人とサファリジャケットのジイさんたちがかごめかごめして回ってるのがわたしにも見えてくる。
この子を産んだ親だもの、この子を育てた親だもの、この程度のテレパシーくらい身につけたからといたって超能力とまでは呼べない。
なにか見つけたように、ユウタが弾んだ。
「クマさんたち、半分白くなってパンダに変身すれば、皆んな可愛がってあげるんだ」
さっと翻ったユウタが納戸の中に全身を潜り込ませ白ペンキと刷毛を持ち出すより先にわたしはユウタの前に回り込む。
「だいじょうぶ、ママに任せて。ユウタがそんなの持ち出さなくなって、ママが何とかしてあげるから」
そして、わたしは空に向かって願いを送る。
雪よ、降ってきて、と。
ゲージに閉じ込められた子グマの背中を大きな白いまんまるで染め抜いておくれ
親からの離れた剝がされた子グマの顔を残った黒毛が可愛いたれ目で縁取られるよう、白粉をふくようにメイクしておくれ
絶滅した九州を除いた日本列島にいる1万頭の子グマたちを皆んな皆んなが可愛いというパンダに替えておくれ、と。




