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第7話 6人の6番目

 13:00。


「なんだ? 赤い点……だけ?」


 ジャストきっかり13時。がちゅりが落ち着くのを待ちながらマップを眺めていたら、島中央の少しだけ南に赤い点が写った。


 サーチからはまだ1時間しか経ってないが……赤い点……色が違う事に何か関係しているのだろうか……?


「あ、あては……ある、よ?」


「あて?」


 僕につられて上げた顔は、もう死にたがりの顔では無かった。


「ど、同士諸君、の、動きなら、手に取るように、わかるよ……今回のサーチ、で、割れた……場所は西北西……雷雲直下、の、大森林……ふっ、人里遠い森、に、わざわざ集まる、バカ陰キャ共、だね」




 ゴロゴロ……


 黒雲が稲光に輝く。それだけが光源となってしまった深い森の中。マップが無ければとてもここまでは来れなかっただろうけど、日がすっかり落ちてしまった今、これ以上の行軍は危険だろう。


「あ、いるよ3人」


 ラストチャンスとばかりの索敵が、ギリギリ範囲内にその姿を捉えた。




「おっチャレンジャーじゃん!」


「…………ふん」


 暗闇の中僅かに見えた姿に声をかけると、チャレンジャーこと茶連慈愛ちゃれんじあは、引き絞っていた弓を下ろした。


「……索敵持ちは誰だ?」


 煙の臭いは風に香るが、索敵の位置共有に加えて、いいタイミングの稲光がなかったら発見は困難だったろう。


「私」


「あ、じ、じあちゃん……へへ……」


「…………ふん」


 弓を担ぎなおし、木から降りてくるチャレンジャー。大和撫子長い黒髪が、激しい動きに揺れ踊る。


「後の2人は?」


「…………来い」


 きーぼーやがちゅりの鍛え抜かれた肉体もそうだが、前を行くチャレンジャーのがっしりとした足腰は、大地を切り開いていくような安心感を与えてくれた。


 人が数人入れるかといった、巨岩と土の隙間を利用しただけの開放的な洞窟。その入り口に焚火が炊かれ、大きい女子と小さい男子が暖をとっていた。


「ボカP!」


 僕はフードを目深に被った小柄な少年に近づいた。


「鼻どうしたのおかっぱ? 髪サラサラじゃぁん……解像度、たっかいなぁ…………」


 アングラな曲ばかり書いてるボカPは、フードの下に大きなヘッドホンをつけて、隈だらけの虚ろな目でぶつぶつ言っている。


 小枝を添え木にして蔦で固定しただけの鼻と、僕の髪を手漉きながら。


「現実逃避の達人め……! いい夢見ろよ」


「年一の夢……年一の夢……」


 突然の異世界。彼にはキャパオーバーだったのだろう。今はそっとしておこう。


「ネクロマンシー!」


 僕はもう一人の級友。大きい女子に抱き着いた。


「しししし」


 が、腕が脇腹までしかまわらない。大きいというには大き過ぎる仰天デブ。それが、ネクロマンシーこと根倉マンシー。何人のハーフかは誰も知らないし、何キロあるのかも誰も知らない。


 というか、自走出来ているのが奇跡みたいなもので、普通の体重計じゃ両足に一つずつ乗っても振り切れるらしい。


 だが、彼女は何故か清潔感が抜群だし、常に柔軟剤のいい匂いがするので、抱き枕性能は全一だ。男子女子問わず、テーマパークの着ぐるみくらい抱き着かれてる。


 包容力はキングベッド級。リピーターも後を絶たない。がちゅりとオタクも一緒に抱き着いたが、後1人、詰めたら2人はいけそうだ。


「ありがとうチャレンジャー。流石良い仕事をするね」


 オタクが言ったように、じめじめした暗いところが大好きな陰キャ2人。ボカロオタクと死体オタク。


 サバイバルオタクという意味ではチャレンジャーも同類だし確かに寡黙だが、彼女は誰にでも分け隔てなく手を差し伸べる聖人。


 サーチで粗方を察し、ど陰キャ2人をキャリーしてくれたのだろう。洞窟周辺には簡単な道具が揃い始めていた。


「凄いね……」


 その手腕と精神に、感嘆の意が漏れる。


 チャレンジャーはそんな僕らを手のひらで制すると、


「……整理する」


 焚き火に照らされた雅な顔に、全員の意識が集中する。


「6人寄るにはいささか手狭。私達は、一刻も早く安定した拠点が欲しい」


「拠点かぁ……って言っても難しいよねぇ場所選び」


「いくらじあでも魔物の生態まで明るくはないよね? うっかり縄張りに作っちゃたりしたら……」


「だ、大丈夫、でしょ? じあちゃん」


「保証はできない。が、確信はある」


 3人に見つめられても動じぬその顔に、僕達もそれ以上の追求は一旦辞める。


「一体どこに?」


 チャレンジャーはマップを開いて一点を指した。


「ここだ」


 その指は、12時のサーチから1時間毎に発せられるようになった謎の赤い点を指していた。


「これは島中央南の平野部で多少の動きはあれど概ね留まっている。つまり、クラスメイトからの信号、ビーコンの可能性が高い」


「確かに、イベントやボス戦のマークよりかは、何らかのスキルかシステムを利用したクラスメイトの一手という線の方が太いね」


「今のところわかり易い目印はこれだけだ。それに位置もいい。集うには絶好の条件。時機に皆集まってくるだろう。そこで、」


 そういってチャレンジャーは皆を見回した。


「我々は、今直ぐここを発つべきだ」


「「!?」」


「今直ぐぅ!? 強行軍で合流出来たばっかだしぃ、何より夜だよ!? お先真っ暗!」


 がちゅりが慌てて反論する。


「さっき言ったが、皆ここに集まってくる。ならば先行者利益だ。真っ先に到着して、我々の役割を示す」


「先行者利益?」


「役割?」


「…………ふん」


 疑問を浮かべる僕たちに、彼女は木の枝で地面に絵を書き始めた。


「集団行動で最も恐れるべきは、役割を持てないことだ。どれだけ絆があろうと、村八分の危険性は常に付き纏う。だからこそ、混乱に乗じて確かな基盤を築く」


「う〜ん……この世界はシビア、バケモンシビア……友情が負けちゃう瞬間もある、とは思うよ? でも今直ぐ出るのは余りにリスキーだよ。流石に朝を待つ方がいいんじゃない?」


 がちゅりの意見は賢い意見だ。正解の意見と言ってもいい。ただ、正解が必ずしも最善とは限らない。


「サバイバルとは、どれだけ危険を犯さないか、だ。命大事に。生存が最優先」


 言いながら、彼女は持っていた枝をパキッと折った。その子気味のいい音が、僕達の命の儚さを表しているようで。


「実際安牌だ。ただ、メンツが揃った」


 5人の顔をそれぞれ見回し、


「良いカードは出せる時に出すべきだ。私はゲームメイクがしたい」


 その力強い瞳には、確かな説得力と合理があった。


「気持ちはわかるよがちゅり。特に僕達は慎重さを欠いて失敗したばかり、不安にもなる。でも、消極的選択は、信条に反するね!」


 がちゅりと、そしてチャレンジャーと目が合い、ふたりでまたがちゅりを見つめた。


「…………そう、これは勝つ為の一手」


 そう言って、寡黙なチャレンジャーが初めてニヤリと笑った。


「挑戦だ……!」


 挑めるなら積極的に挑む。


 やっぱり、チャレンジャーは面白いやつだ。




***




 白い空間でスキルを選び終えた組小蝶くみおちょうは、見知らぬ街に立っていた。


 異国情緒漂う街を探索するなり意味不明な状況に慌てふためくなりするより早く、小蝶は柄入り黒紋付の懐から漆塗りの煙草ケースを取り出し、14ミリのセブンスターを燻らせた。


「……ふぅ……」


 突如現れた小蝶に驚いた町人が徐々に遠巻きに集まってくる。


「……ふぅ……」


「どこのもんじゃいわれぇい!」


 チンピラ風の鳥男が嘴が触れそうな距離まで凄みにくる。


「……ほ……ほ……」


 も、ほの口にして煙の輪っかを宙に浮かべていた。


 煙草が半分を過ぎた頃には、手に槍や弓を持った鳥兵士達に囲まれていた。


「まず何者だ? どうやって侵入した?」


 敵意むき出しの詰問に、小蝶はハイライトの無い大きな黒目でそれを見つめた。


「……生まれは日本、名は小蝶。出ていくと言えば見逃してくれるのかい?」


「無理だな。そもそも翼を持たぬ身で出入りなど出来はせんはずだが?」


「すぅ……ふぅ……そうかい……」


 小蝶は短くなったセブンスターを見つめ、


「すぅぅぅ…………ふぅぅぅ…………」


 フィルターぎりぎりまで深く吸い切った。濃白が谷風に揺蕩い、最初からそこには無かったかのように消えた。


 厳しい顔で携帯灰皿に吸殻をしまうと、蟹股に足を開いて腰を落とした。そして、深いスリットから覗いた白磁のような太腿を思い切りパチンと叩き、力強い目で鳥兵士を睨んだ。


「やれぃ!!」


「心意気や見事!!」


 ズバァ……!


 赤い花が一凛、街頭を彩り、じき失せた。




***




 雷鳴轟く大森林を北に抜けるのは不可能と断じ、一度東へと抜け、北から流れる川沿いに北上。完全に森を抜けてから中央平野部へと足を踏み入れ、マップが示す赤い点目指して北西へ進んできた。


 損害は軽微。チャレンジャーとがちゅりのダブル索敵のお陰で魔物との接敵は最低限に抑えた上で、ネクロマンシーの呪詛魔法で魔物除けの呪いをダメ押しに使用したからだ。


 これが酷かった。


「新鮮な空気だぁぁあああああ!!」


「神よ、おいしい空気に感謝申し上げます」


「空気ありがとぉぉおおおおおおおおお!!」


 これが……本当に酷かったな……とこけた頬を突き合わせながら臭気からの解放に狂喜乱舞したのを思い出す。


 そして、出発から3日後の午前9時現在。


「ビンゴォ!」


 新たなクラスメイトとの再会に、一早く気づいたがちゅりが駆け出した。


「てんびん委員長じゃん! 賭けには勝ったみたいだね!」


 マップを確認していたチャレンジャーも、


「…………ふん」


 マップを閉じてそれを追った。


「岡野さん。茶連さん。勝さん。皆さんもお久しぶり」


 事務的な笑顔で迎えてくれたのは、我らが委員長、天王寺敏悟てんのうじびんご。ここ異世界にあってすら一切着崩さずカチッと制服を着こなし、センター分けの短髪をこれまたかちりと纏めた好青年だ。


「成程、この面子ならば納得です。しかし茶連さんがいるにしては少し遅かったのでは? と私は思います」


「僕が最南東スタートだったからね。南東組で集まってから来たんだ」


「であれば、早かったと褒めるべきでしょうか。早かったですね」


 にこりと事務的に微笑みかけてくれるてんびん委員長。


「根倉さんもよく頑張りました」


「しししし……私は“まだ動けるデブ”……」


「……委員長」


「はい、何でしょう」


 談笑もそこそこに、チャレンジャーが呼びかけた。


「……私達は何番目だ?」


「6番目ですね。こっちです」


 6番目という数字に、チャレンジャーは何とも言えない反応を見せたが、僕はというとそうではなかった。


 これだけ急いだというのに、僕らより早かった奴が初期の3人を除いて2人居る。勿論元から近かったのかもしれないけど、そんなことは関係ない。


 ただその事実に、わくわくしていた。


【Tips】茶連慈愛ちゃれんじあ 愛称:チャレンジャー

・思想、テーマ

 大自然をこの身一つで生き抜く。これぞ本質的な人間の姿。

 誰かを助けた経験こそが最大の財産であり、その蓄積こそが器だ。


・キャラクター

 親父がサバイバル好きで、幼少のころからキャンプやサバイバルによく同行していた。

 中学からは自分でサバイバル研究会を立ち上げて活動していた。

 豊富な知識と巧みなロープワーク。

 ナイフを握ればクマをも恐れぬ胆力を持つ。

 親切で、押しつけがましくない。

 作中屈指の聖人だが、生きる事への執着が凄まじく、必要とあらば殺しも厭わない。

 レンジャーとして慕われるほどの正義感を持つ。


・口調

 寡黙。

「…………ふん」

「……ついてこい」

「……条件をつけよう」


・容姿

 大自然が育んだ恵体。

 黒髪ロングの正統派美女。

 雅な育ちの良さ。

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