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第5話 無知無知サーチ

***




 ザッ


 あぁ……冷たい……


 ザッザッ


 全身が……凍えてしまいそう……


「……ぉーぃ……」


 どれだけ震え続けても一欠片の熱も生み出せない……冷たくなった血が心臓に戻り、芯の芯まで凍てついてゆく……


 ザッザッザッ


「おーい! 大丈夫かー!?」


 男の人の声だった……それもすっごく聞き覚えのある……親友の声……


 私は最後の力を振り絞り、なんとか片手だけでも雪から出した。そして言った。


「マドハンド……」


「マドハンドや!! 本物やすっげー!!」




***




「おかっぱ…………?」


 ようやっと意識が戻ったようで、がちゅりは気怠そうに瞼を持ち上げた。 


 街から北に暫く逃げた。森はまだ深くはなく、木と木の間隔は広い。帳の降りた真っ暗闇に満点の星屑が映える。


「ふわふわホテル?」


「ガチガチ地面」


 固い地面に女の子をそのまま転がしてはかわいそうだと膝枕をしていた。覗き込む体勢の僕に、がちゅりも一拍遅れて理解したようだ。


「……きららちゃんは?」


 周りを見回したがちゅりは、その姿が無いことに気付いた。


「次のサーチで落ち合う約束」


 脳内きらら畑ながちゅりだが、アスリートらしく自頭は悪くない。


 幼少の頃は数々の大会を制覇しまくり、キックボクシングの神童と謡われていた程だ。寧ろその姿の方が有名だろう。


 ただ、小学生に上がり始めての大会できーぼーに半殺しの病院送りにされてからというもの、すっかり心酔してしまって付き人のような日々を送っている。


「そっか……きららちゃん、らしいなぁ……」


 その時の古傷、右目周辺の大きな傷跡、曰くスティグマを愛おしそうに撫で、遠い星空を見上げていた。


「……次のサーチって? 多分あれは開始、」


「いいや、開始ボーナスなら開始直ぐでいい。11時45分。がちゅりはどうだった?」


「正確には……でもそれくらいだったよ」


「かなりゆっくり選んだ方だと思ったけど、スタートは一定か。精神と時の部屋状態ってわけね。粋粋……」


 思ったことをそのまま呟き、


「サーチはきっかり12時だった。きっかり1分。つまり定報。現在22時51分。6時間8時間の線は消えた。半日か1日かはわからないけど、一定の周期があるはず」


「……うん」


「取り合えず後1時間ちょっとはここで待機。サーチが無かったら朝まで休んで、12時までしっかり準備しよう。お腹ペコペコ喉カラカラ。折角居場所が分かっても動けないんじゃ意味ないからね」


「……やっぱり、おかっぱは前向きな発想をするんだね……いいよ、分かった」


 がちゅりは少しだけ安堵したように微笑み、目を閉じた。


「きーぼーと居たのがおかっぱでよかったよ」


 僕は少し足が痺れていたけど、もうちょっとだけこのままで居ようと思い、綺麗な星空を静々と見上げた。




 朝。24時にサーチは無く、半日の線は消えた。なので1日である正午12時を真目に見つつ、朝食探しを開始した。


「目の前、見えないけど木と茂みの奥にいる」


「索敵スキル?」


「そう、ミニマップに写るの。1回1分、()()5回使える」


「(弱)でも便利だねぇ。流石システムスキル。睨んだ通りのハイティアスキルだ」


 多分5回使えるということは索敵(弱)取得に使った5ポイント分ということだろうか。昨日は5回使えたが、今日は何回使えるか試すしかないって意味の多分なんだろう。


 それはさておき、


「がちゅりさん、やっておしまい!」


 蚊に食われた肌に爪を立てながら、ジムリーダーっぽく指をさす。


 返事代わりというように、その気配というか存在感のようなものが少し薄れた。二人きりなのに背景モブになったようだ。恐らく隠密(弱)を使ったのだろう。


 真横を一陣の風が吹き抜け、追いついた頃には、ライオンの鬣のように首回りを一周する角をもった鹿がボコられていた。


「すっごぉ。ねぇねぇ身体強化(強)ってどんな感じなの?」


「うーん、倍だね」


「倍?」


 がちゅりはぐったりした鹿を小脇に抱えながら歩いてきた。


「ただ倍じゃなくて、ゾーン状態ってあるでしょ? 大会新出ちゃう時のやつ。あの時の倍。それも単体で倍。他のスキルとのシナジー効果で倍以上。体感的にはそんな感じ」


 僕の基準で考えてはダメだろうな。がちゅり基準。つまりトップアスリートのベストパフォーマンスの倍。


 陸上で言うならウサインボルトの100メートル9秒58の倍。4秒79! 最高速度は時速にして約90キロ!!


「高速走れちゃうじゃん!」


「うん。出来るね……ただ、真っ平らな道を真っ直ぐ走るだけなら、出来る」


 言いながら、鹿を下ろし、テキパキと石を円状に積みあげる。更に拾ってきた枝を組み、焚火を作っていく。


「物理耐性かっ」


「確かに90キロで木にぶつかったら大怪我。こけただけでも全身擦り切れる。(弱)じゃダメだった。ここは(強)一択。妥協しちゃダメだった」


 鹿の足を蔦で縛って、手頃な枝に固定する。枝を蔦で縛って三脚を2つ作り、固定した鹿を乗せて準備完了。


「こける……ってことは制御も?」


「そう。速過ぎる体を制御できる頭脳。それと目。思考強化と視力強化も同じく(強)じゃないと全力は出せない。全部(強)にしたきららちゃんは流石に感が鋭いよ。アスリートとして完成してる」


 親友を褒める言葉とは裏腹に、少しだけ目線を下げるがちゅり。尊敬や憧憬とは別のものがあるのだろう。やはり同じ競技者だし。


「まぁまぁ、アクション特化だからねきーぼーは。その点がちゅりは感の足りなさを五感強化やシステムスキルに振った。その小器用さはきーぼーにはないよ。不意打ち食らってないのもそう」


「……ありがと」


 剥がれ落ちていた木の皮に枝を擦る。身体強化と手先強化のお陰で火種作りは直ぐだった。


 照れてもないし、やっつけでもない。その間くらいの複雑な感謝と共に。


「他のスキルはどうなの?」


「強化スキルの(弱)は、まぁ纏めて言うならプロ並みって感じ? スナイパー並みの視力。指揮者並みの聴力。細工師並みの手先。そんな感じ」


 初めての丸焼き。漫画でしか見たことがないような蛮族スタイル。身の程もある鹿が毛皮ごと豪快に焼けていく。


「ほほぉ」


「(中)は分かんないけど、(強)が倍だから、その中間。トップアスリートの世界記録か、ちょっとドーピングしたくらいかな」


 表面は次第に焦げ付いていき、特有の焦げ臭さがあたりに漂う。しかし向きを変えるのも一苦労なので中々均一には焼けない。


「にっがぁ……」


「くっさぁ……」


 表面は焦げ焦げでとても食べられたもんじゃない。中は生焼けで生臭さに吐き気を催す。


 足をちぎったり、当て方を変えたり、試行錯誤を重ね、十分に腹を満たせた時にはもう昼前。


 えぐみの残る口の中を早く水で濯ぎたかったけど、マップに表示された川は遠く、1時間程不快さを感じながら歩く羽目になった。


 川につき、交代で水浴びをし、やっと一息ついた時、時刻は11時58分。サーチが1日置きならあと2分だ。


11時59分。そして、12時00分。


「「来た!!」」


 全体サーチ。マップ上に青い点がぴこぴこと浮かび上がる。


「なんだこれ? 赤い点?」


「ほんとだ。あっかいね」


 まず真っ先に目を引いたのは、島の中央部。北側に広がる城下町から少し距離をとった南方の平原部。そこに、赤い点が映っていた。


 ほぼ同じ位置に青い点が1つ。その程近くにもう1つ。赤青青の3つの点だった。


 疑問は残ったが、それは一先ず置いておき、そこから視点を下に持っていく。僕達のいる南へ。


 川辺に移った青い点2つ。そして、その少し南。ほんの目と鼻の先の林の中に青い点。


「きららちゃんだ!!」


「きーぼー!!」


 それを見た瞬間、叫んだ。嬉しさとか、安堵とか、何か色々なもので自然と口角が上がっていた。


「きららちゃーん!!」


「きーぼー!! こっちこっちー!!」


 2人揃って林に向かって声を掛ける。ここからでも十分聞こえているはずだ。


 やがて、がさがさと茂みが揺れる。


「きららちゃーーーん!!」


 がちゅりは大手を振って走り出した。


「きーぼー!!」


 慌てて僕もマップを閉じて追いかける。


「……あのっ」


 茂みを抜けて薄暗い木陰から現れたのは、


「うっあっ、えっと……その……ごめんなさい?」


 きーぼーでは無かった。


 目を覆う肩までのダークブラウンの髪。その上から掛けた大きめの眼鏡。


 制服の上とスカートの下にジャージを着ていて、そのだぼったいシルエットの上からでも超絶目立つクラス1の爆乳。奇乳。フェロモン漂うむちむちボディー。


 それを隠すように猫背で申し訳なさそうにしている女の子。


 御徒町匠美おかちまちたくみ。通称、


「オタク!」


 何はともあれの再会だ。僕は走る速度そのままに笑顔でオタクへ駆け寄る。


「おかっぱ……ちゅ、ちゅりちゃんも……」


 びくびくしているものの、少しだけほっと嬉しそうだ。爆胸の前で小さく手を振る。


「え…………」


 その姿を目にしたがちゅりは、だが固まっていた。


「がちゅり?」


 覗き込むと、どうやらマップを開いているらしい。僕も続いてマップを開いた。


 マップには変わらず青い点達が表示されている。


「……ない」


「?」


 何が無い? 少し疑問に思いながら、もう一度マップを見直し――


「ない!!」


 1、2、3、4、――17個! 謎の赤い点を含めても18個! 


「ない!! ない!! ない!! ない!!」


 24個なきゃいけないはずの青い点がない!! 6個もない!!


 そんな……!!


「ない!! ない!! ない!! ない!!」


 数え間違いだろ!? 24個なんだ!! 24個!! 24人のクラスメイト!!


「ない!! ない!! ない!! ない!!」


 嘘だろ……!?


「なんでない!? ……1日しか経ってないんだぜ……」


 確かに過酷。劣悪。スキル構成や開始場所によっちゃ即死もあり得る、異世界の島。だとしても、まだ1日……たった1日……


「ないよぉ……おかっぱぁ……」


 がちゅりに袖を掴まれ、指さされた場所を見る。


「……ぁ…………」


 島南東部の南国地帯。付近にあるのは僕達を示す3つの青い点のみで……


 港町から僕達を結ぶ森。港町の向こう側。海。


 どこを探しても……


「きーぼーの青点が…………ない……」


【ぱのスキルメモ】

〈強化スキル〉

 (弱) その道のプロ。

 (中) リミッター全開な人類の限界値。

 (強) 限界値の倍。

 (極) ?


・身体強化

 (弱) プロアスリート並みの身体能力を得る。

 (中) トップアスリートがドーピング且つリミッターを全開にした程度。

 (強) 人類の倍。100メートル4~5秒。垂直飛び4メートル。幅跳び18メートル。


・思考強化

 (弱) その人のゾーン状態が平常になる。

 (中) 思考の切れ、回転、深慮が増す。

 (強) 演算能力と処理能力の大幅強化により、同ランクのスキル使用を円滑にする。


・回復強化

 (強) みるみる傷が治る。半死くらい寝たら治る。


〈システムスキル〉

・索敵

 (弱) ミニマップ内のある程度大きな生体反応を映す? 1回1分、使用回数はポイント分? 回数回復の条件と速さは?

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