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【4話】ホンモノノサンタ-1

「ちょっと待って!」

 未だに頭は追いついていないが、漸く声を出すことはできた。家主の俺を放っておくなんて失礼じゃないか。そもそも、そこのサンタガールよ。あんたは一体何なんだ。

「あー、挨拶がまだでしたね。」

 んんっ、と咳払いし、彼女は自己紹介を始めた。


「どーも、こんにちは!呼ばれてないけどやってきた、サンタクロースちゃんですっ!こちらに失恋した方がいらっしゃると聞いて、はるばる来ちゃいましたー。」


 どこかの地下アイドルよろしくポーズを取りながら、彼女はこの空間を凍結させた。

 …すごい。彼女が何者かはわからないが、素直に驚いた。最近のサンタクロースは時を止めることもできるらしい。俺も律葵も絶句だ。何もコメントできない!何だ今のは!


「…えーと、この時代の人ってこういうの好きなんじゃないんですか?」

劇的にスベったことに気づいたらしいサンタガールは、外気と大差ない体感温度に耐え切れずに問う。まあ、この場に適しているかどうかは別にすると、そういうの好きな人もいると思うよ、うん。あと、高校生とか若い世代はショート動画のSNSでよくそんなことしてる気がするよ、しらんけど。

「ていうか、宅配便なんですよね?なんでずかずかと家の中まで上がり込んでいるんですか!」

「宅配便というのは、嘘。見ての通り、私はサンタです。」

 …再び、沈黙が訪れる。え?宅配便が嘘?じゃあこの人なんなの?もしかして強盗?女の子独りなのに?華奢に見えて腕っぷしにものすっごい自信があるとか?そもそもうちに金目のものなんてないのに、何のために?

「強盗なんかじゃありません!私はサンタです!」

 …ダメだ、話が通じない。これはヤバい人だ。もしくは何を聞いても同じことを答えるNPCだ。このままこうやって会話しているのはまずい気がする。そうだ、警察。警察を呼ばないと。助けて、ポリスマン。

 律葵も同じことを思ったようで、二人してスマホを取り出す。しかし、「1」を二回押したところで、手元からそれが消えた。同時に部屋の隅で何かが落ちる音がした。何だと思って目をやると、スマホが二つ転がっていた。俺と律葵のものだった。…今、何が起こった?

「まずは落ち着いて話を聞いてください!私は正真正銘のサンタクロースなんです!」

 先ほどと変わらず、俺たち二人から少し離れた位置でサンタは言う。 ― 少し離れた距離というのは、言わずもがなこの不法侵入者を警戒して取っている距離だ。 ― この距離なら、万が一相手が武術の玄人でも、何とか一撃くらいは躱すことができるだろう。躱すことができるはずなのだが、俺たちのスマホは遠く手の届かないところにいつの間にか転がっている。こいつ、何をしたんだ。

「あなたたちでは私に敵いません。テクノロジーもロジックも違います。」

「どういうことだ。」

「順を追って説明します。私が誰なのか。どうしてここに来たのか。突拍子もない話になりますので、信じてもらえないかも知れません。でも、私はあなたたちを信じます。環所律葵さん。そして、只埜語さん。」

 それぞれの目を真っすぐ見つめて、女はそう言った。その言葉と眼差しからは、とても実直な意思が感じられた。

 …サンタのコスプレでなければ、危うく信じてしまいかねないほどに。


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