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【24話】コーヒーのような気持ちに、一滴のミルクを。-3

「灯の様子は?」

 家に帰るやいなや、部屋着のサンタクロースに問いかける。

「あれから一度も部屋から出てきてないです。」

 サンタクロースはかぶりを振る。もはやサンタクロースたる面影はどこにもないが。

「大丈夫でしょうか?灯さんが仰られたことも気になりますし。」

 あたしを独りにしないで、ってやつか。今思えば、あれは陽茉莉が声優を目指すことに専念すると告げたことも影響しているのかもしれないな。

「そんなことがあったんですね。ということは、もしかしたらゆずはさんとの仲ももう破綻してしまっているのかもしれませんね。」

「確かに、灯とゆずはが疎遠になったのは今ぐらいだった。でも、よく覚えてたな。」

「こういうの、記憶するの得意なんです。」

 ニコルの言う通り、灯とゆずはは既に仲違えしてしまっているのかもしれない。だとしたら辻褄は合う。灯にとって、親友のゆずはと後輩の陽茉莉。二人の大切な人がほぼ同じ時期に続けて自分から離れていく。心細くなって孤独を感じるには充分だ。だったら。

「ニコルさん。ひとつ相談があるんだけど。」

「私も同じこと思ってました。只埜さん、聞かせてください。」


 ニコルに持ちかけた話に、彼女は二つ返事で頷いた。ニコルも同様の思いでいたようで、話はすんなりまとまった。そうと決まれば、やるべきことはひとつだけだ。

 部屋着のサンタと連れ立って、改めて灯の部屋のドアをノックする。予想はしていたが、応答はない。聞いてくれていると信じて、中の灯に声をかける。

「灯。大丈夫か。」

 返事はないが、続ける。

「さっき、この家を出ようと思うって言ったことだけど…。やっぱり、無しにして欲しい。このままここに住まわせてもらいたいんだ。勝手ばかり言って申し訳ないんだけど…。」

「本当に勝手だね。」

 反応があった。ドア越しの声は怒っているようにも聞こえる。そして、こう続ける。

「なんで急に180度違うこと言い出したの?」

 理由…。そりゃ、やっぱり他で暮らすと俺を知る誰かに見られるリスクもあると思うし。ここで暮らせれば比較的安全に情報収集もできるし。損得勘定を考えればいくらでも理由らしい理由は挙げられる。けど、やっぱり。

「もうちょっと灯と一緒に居たいんだよ。」

 シンプルにこれが一番の理由で、嘘偽りない俺の気持ちだ。

「一緒に暮らすようになって、いろんな灯の一面を知ることができて。なんか俺、楽しんだよ。それはニコルさんも同じ気持ちだと思う。」

「はい!私ももっと灯さんと仲良くなりたいです!一緒にお出かけとかもしたいです!」

 独りにしないでと灯は言ったが、俺たちだって灯と離れたくはないのだ。迷惑かけたくなくて外で暮らそうと思ったけど、たった2~3日一緒に居ただけだけど。とっくに灯の家に帰ってきて灯と過ごす日常が俺たちにとって普通になりつつあるのだから。

 

「語は…。」

 是でも非でもなく、ふいに俺の名が呼ばれる。


「語は、アホやね。」

 どういう意味だよ。この状況で。

「アホの語の気持ちはわかった。でも、一晩考えさせてほしい。あたしも今、自分の気持ちがよくわかってないの。ごめん。」

 こんなときでも相手に気遣いの一言を忘れないところが灯らしい。

「大丈夫。灯はもっと自分の気持ちを大事にしてくれ。」

「ありがと、語。」

 その声には、もう怒りの色も不安の色もないように感じた。あとは灯自身が決めることだ。居候の俺たちは素直に従うとするさ。




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