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【11話】時を超えて-1

 ほな、とキャノが仕切り直しその目を瞑ると、シャボン玉の結界が微振動を起こしだしだ。なにこれ、キモチワルイ。まるで身体中に強い静電気を浴び続けてるみたい。毛穴という毛穴が開きそう。全身の毛という毛が抜け飛んでしまいそう。そのうち慣れますよ、とニコルは言うが、出来れば今すぐ脱出して二度と経験したくない。

 やがて、微振動が周期的なリズムを刻むようになり、一定の拍をおいて瞬間的に振動が停止する間を挟むようになった。と同時に、あえて言葉で表すなら巨大なドラム式洗濯機にグルグル搔き回されたような回転が巻き起こった。回転は渦を起こし、俺たちはそれに飲み込まれた。この渦も瞬間的な停止の間は、それに倣って停止する。すべてがピタッと制止する。グルグルブルブル、ピタッ。もうなにがなんだかわからない。

 気づけば、隣にいたはずのニコルも、キャノも。そして自分自身も。元の形状がわからないくらい、渦に巻き込まれ引き延ばされている。そういえば、いつからかチカチカと光の点滅も付け加えられている。上下左右、前後の感覚はとうに消失した。ああ、このまま意識も失って、俺は消えていくんじゃないだろうか。消えはしなくても、もう二度と元の人の姿には戻れないんじゃないだろうか。そう諦めの気持ちが出てきたところで拍動が止み、唐突にすべてが安定した。元のシャボン玉の結界に戻った。上下左右も認識できる。しかし、シャボン玉の外に見えたのは、元いた自分の部屋ではなく、まるで宇宙空間のような景色だった。


「大丈夫でしたか?」

 ニコルが平然とした顔で聞いてくる。元通りのサンタクロースの姿で。

「安定しましたから、もう大丈夫ですよ。」

 自分の掌を見つめる。よかった、ちゃんと人間の形を保っているみたいだ。知能線と生命線で明確にひらがなの「て」を描いている我が家計特有の手相もちゃんとそのままだ。

 続けて視線を外の宇宙空間に移す。星屑のような光が無数に飛び交い、閃光を描いている。

「綺麗でしょ。流れ星みたいで。これらは全て、時の欠片なんですよ。」

 数えきれないほどの流れ星が視界いっぱいに広がっている。ニコルが言うには、これらはすべて時の欠片であり、それは存在したはずの時間軸の残滓であったり、これから存在するであろう可能性の兆しであったり。また、あらゆる生命が生きてきた証拠であったり、諸事万端のフラグメントなんだそうだ。

 なんだか写真みたいだな、と思った。俺の好きな写真もまた、時間を切り取り残すもので、時の欠片と言っても相違ないものだと思うから。


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