【6話】”エン”ヲプレゼントスルサンタ
「私たちサンタは、未来人ということからわかる通り、タイムトラベルしています。そして、タイムトラベルした過去で任務を行います。今回、私には別の任務がありました。この時代より古い時代でです。しかし、ちょっとしたトラブルがあり、その時代まで遡れなくなってしまったのです。」
「うちに不具合が起こったみたいやねん。ほんで、この時代に不時着した。」
待てい!お前でタイムトラベルすんのかい!
「その辺は後で説明するわ。タイムトラベル自体も気になるやろし。」
「幸い、私の任務は他のサンタが引き継ぎました。しかし、ここからが問題なのですが、キャノがタイムトラベルできなくなってしまったので、私たちは元の時代に帰れなくなってしまったのです。」
「全くできへんわけやないで。たぶんやけど、前後に一年くらいならなんとかなると思う。ただ、それも一回が限界やと思うわ。少なくとも、十年とか百年とかそういう単位での移動は間違いなくできへん。」
「強制的に跳ぼうとしたらどうなるんですか?」
「時空の狭間に巻き込まれて、永久の時を彷徨うことになる。」
突然のシリアスな話に、思わず息をのむ。
「って言うんは最悪のケースで、たいていは移動限界の地点まで飛び着いてまうだけやな。」
少しホッとする。いや、彼女らを心配したわけじゃないよ?
「ええで、語くん。その調子や。」
何がだよ。
「そういうわけで、この時代に着いてしまい、帰れなくなってしまったわけです。キャノのシステム修復などは元の時代からリモートで試みてはいるのですが、今のところ復旧目途は未定です。」
つまり、しばらくはこの時代に滞在せざるを得ないらしい。
「そうなんです。任務も無いのに、キャノの復旧が終わるそのときまで、見ず知らずの時代で時間を過ごさなくてはならなくなってしまったのです。」
「要するに暇なんだな。」
「はい、減点や。」
「でも、俺のところに来たのは任務なんですよね。」
確かに。流石律葵くん。
「そう、任務なんです。なんとか任務を取り次いでもらえたんです。だって、今日はクリスマスですよ?こんな特別な日に流れ着いて、何もしないだなんてサンタの矜持にかけて許せません。この時代に来たのも何かの縁です。この時代で困っている人の為、私にできることをしたかったんです。」
ひとつ、わからないことがある。と割って入る。
「この時代に着いたときって、ひょっとして少しぐわんとしたときか。」
「あの時空の歪み感じたんかいな。すごいな、自分。」
普通の人は何も感じれないらしい。変なところで褒められた。
「ぐわんとした後、インターホンが鳴るまではすぐだった。だけど、今の話じゃこの時代に着いてから、任務を得たり結構いろいろとする時間が必要だったはずだ。それに、任務が得られるまで当然俺たちのことは知らないはずだから、それを調べる時間もなかったはず。矛盾してる。」
どうだ、珍しくまともな指摘だろ。
「簡単なことや。こちとら時間移動できるんやで?時間止めることくらい朝飯前やわ。止めるだけならそんなエネルギーも使わんしな。」
一度時間を止めてから、停止した時間のなかで諸々調整したり俺たちのことを調べたりしたらしい。ちなみに、タイムトラベルで不時着したのも、この近辺ではあるが家の前ではないのだそうだ。てっきりドア前に直接現れたのかと思ったが、実際は停止した時間の中、決定した任務に基づき、歩いてこの家の前まで来たようだ。音がしなかった理由はわかったが、なんかすごい未来テクノロジーと原始的な移動手段が混在してて変な感じだな。
「結構探したんですよ。」
とニコルは言う。それは任務の候補をなのか、この家の場所をなのか。
「だから、やっと会えたって言ったんですね。ところで、そもそも任務って何なんですか?」
「私がこちらに来たとき、やっと会えた以外にもう一言言った言葉があります。それは、「諦めるのはまだ早いですよ」です。」
確かにそんなことも言っていた気がする。
「私たちの任務は、サンタなのでプレゼントを配ることです。ただし、私たちのプレゼントは普通のプレゼントとは違います。私たちは、『縁』をプレゼントするサンタなんです。」
『縁』より『円』をプレゼントしてくれ、と言いそうになったが、流石に自重した。
「よりわかりやすい言い方をすると、愛をプレゼントするサンタ、というところでしょうか。一気に恥ずかしい感じになりますけど。」
ニコルが言うには、人には縁を紡ぐべきタイミングがあるとのことだ。そのタイミングに、何かしらの不可抗力で縁が切れてしまったり、結ばれるはずの縁が紡がれなかったりすることがあるらしい。ニコルたちサンタは、そんな縁を結び直し、本来あるべき縁を紡ぎとめることを生業としているらしい。当事者たちに縁をプレゼントするのと同時に、タイムパラドックスが起きないようタイムパトロールしているというところか。意外に重要な職業なんだな、サンタってやつは。
「そうなんです。だから、この時代でも紡ぎとめるべき縁があるはずと探したところ、見つけたのが律葵さん。あなたです。」
指名の理由に、律葵は面食らう。
「律葵さん。クリスマスイブに切れてしまった縁、結びなおしませんか。私と一緒に。」
赤い服のサンタガールが、真っすぐな瞳で律葵を見つめる。その横顔を見ながら俺は、まつ毛長いな、と全然関係ないことを考えていた。




