転生樹と転生女の子
「ここは……」
私が目が覚めた場所は、なんの変哲もない広場だった。
この広場は一面が花や草が円形に広がっていて、今自分が立っている場所は、砂利のようなもので出来ている。
砂利部分の大きさはよく分からないけど、そこまで広くは無い事だけはわかる。
私が誰なのか、私はなんなのか全く覚えていない。
もう一つ肝心なことがある。
目の前には空まで伸びているような、すごく大きな樹がそこには立っていた。
大樹の色は白透明かつ、上の葉っぱ部分は黄緑色だ。
また、上層部には虹が葉の部分を一周囲っているように見える。
何よりも、ものすごく綺麗。
「なにここ……私……いったいどうなったの?」
答える者は誰もいない。
感じるのは、草花や大樹の葉が風で揺れる音……そして自分が直で感じる涼しい風。
不意に私は自分の姿を見る。
自分は何やら、水色の着物姿でこの場所に立っているようだ。
記憶では、遥か昔に着ていたような気もするのだが思い出せない。
「着物……? 私一人でどうしたらいいの? ねぇ! 誰か! いたら返事をして!」
返事は無い。
と思いきや、後ろで何か気配を感じた。
私は慌てて振り向くとそこには……
「え……? 私……?」
薄く灰色がかった、私服での私の姿が映っていた。
表情はとても楽しそうに笑っており、無言だったが口が動いて何かを伝えてきた。
まるで「良かったね」と私が私に伝えているかのよう。
その時全ての情報が頭に入ってくる。
私の名前は、永渕莉美、高校一年生の舞いダンスが好きな女の子。
しかし……本番中にセットが壊れそのまま落下。
それから今に至る。
私は死んだのだ。
つまりここは……死後の世界という場所と言えば良いのだろうか。
私は一歩後ずさると何かに当たる音がした。
「あ……これって……」
いつの間に現れたのか、一つのレコードが下に置かれてあった。
私は音楽を流してみる。
歌詞は無いが暖かくて寂しいそのような曲が流れる。
私はレコードから少し離れた。
この砂利の広さならば舞いダンスはできると思う。
ゆっくりと音楽に合わせて舞う。
その時、大樹が白く光り周りには花弁が渦を描くように、私の周りを散り始めた。
なんて綺麗なんだろう……
そう思いながら、ひたすら手と足を動かしている。
こんな幸せな時間が永遠と来て欲しい。
ずっと願っていた。
昔から私は「舞いはダサい」とか「ウザイ」とかずっと言われ続けて来たのもようやく思い出した。
確かに【舞い】の迫力とかはロックダンスとかに負けるとは思う。
だけど……ずっと私は信じていた。
シチュエーションこそ、この舞いダンスには必須……シチュエーションとマッチすることで最高のダンスになるという事を。
私が両手を広げた瞬間、さらに周りを舞っていた花びらが、周りへと飛び散っていく。
さらに地面からはは、生えてくるように綺麗な花が沢山咲き始める。
たとえ周りに観客が居なくても、応援の声があがらなくても、私はここでずっとこのダンスをすることを心に決めた。
その瞬間、背中に何やら違和感を感じた。
これは……羽?
上からは傘のようなものがゆっくりと落ちてくる。
私はその傘のようなものを手に取る。
頭を触ると、頭の上には円形のようなものまで付いていた。
「これって……」
私は再びレコードをかける。
先程とは少し違い、壮大な音楽が流れ始めた。
私はゆっくりと手を動かし傘を使って舞いを披露する。
傘を上に飛ばしゆっくりとキャッチ……
私がずっとやりたかった事である。
背中の羽も試しに動かしてみて……
結構背中の力を使うのだが、慣れれば行けそうではある。
草花や大樹の葉も楽しそうに音を鳴らしていた。
風も楽しそうに私に吹いている。
あぁ……楽しい……これが本当の私なんだ……
こうして私はこの大樹……転生樹の守護天使となり、いつか私の舞いダンスが皆に届いて皆も楽しくなってくれたら嬉しい! そう思いながら、永遠とこの転生樹の前で舞いを披露し続けるのであった。
ー皆様に舞いの祝福がありますようにー
おしまい