09 「ゴマ」と「ミカン」
「うん、なんか少し分かったような気がする。ありがとうアルさん」
「いやー、なんか俺こそごめんねー、急にこんな事になっちゃって。とは言っても、危険が迫ってるのは本当だからね! まあ遅かれ早かれってやつだ」
「あ、それから、なんで空から降って……落ちて来たんですか? ワザと? 揶揄う為?」
「いや、ワザとでも揶揄う為でもないからねっ!? もしそうだったら、俺、凄く痛い人みたいじゃない!? 段々慣れてきて俺の扱い雑になってきてない!? でも、こういう感じは懐かしくもあるから嫌いじゃないけど。ってか、ちょっと強い奴とやり合ってね。何とか倒したのはいいんだけど、パワー切れでそのまま落下しちゃってさ! そしたら、なっちゃんの中にあるリンちゃんの波長みたいなものに引き寄せられたって言うか? いやー、びっくりさせちゃてごめんねー! 俺もビックリしたんだけどね! あははははっ」
よく分かんないけど、ひいおじいちゃんから受け継がれてきたこの能力にって事なのかな?
だとしたら、今日この瞬間に導いてくれたひいおじいちゃんに感謝しなきゃいけないかも。
「あの、アルさん。アタシ、明日からどうすればいい? 今まで通りに過ごしていいのかな」
アタシという存在が大きく変化してしまった今、これからどんな事が起きるのか期待する反面、不安も同じくらい感じる。正直、何をどうすればいいのかなんて、全く分かんない。
「んーそうだな。まずは、あまり帰りが遅くなると家の人が心配するだろうから、今日はもう帰った方がいいと思うぞ。それと、明日の午後一時くらいに、またこの神社に来れるかい?」
コクンと頷き「大丈夫」と伝えると「じゃあまた明日」と言い残し、アルさんはバチッという音と共に紫色の閃光を残して一瞬で姿を消した。つくづくビックリさせられる元旦だ。
ちょっと長めの初詣から帰宅したアタシは、お風呂で身体を温めてから布団に潜った。キツネはアタシの顔の横で丸くなってる。他の人から見えなくなる事も出来るみたい。
「そうだ、キミの名前ね『ゴマ』に決めた! いつまでもキツネ呼びじゃかわいそうだしね」
「ほほう! 護摩札の『護摩』か! 何やらご利益がありそうなのだ! 妾の名前は今日から『護摩』なのじゃー! よろしく頼むぞっ、七颷殿!」
……ん? 何か盛大に勘違いしてるみたいだけど、喜んでるなら……まぁ、いっか。
見た目が黒ゴマ団子っぽいからって事はナイショにしておいてあげよう。
「それと、アタシの事は『ミカン』って呼んでいいわよ。特別に許してあげる」
お稲荷様の精霊のくせに、丸まった身体がやけに温かいし、ほんのりお日様の匂いがする。まるで、おばあちゃんが物語を話してくれた時の、あの縁側に似てる感じがして安心する。
……おばあちゃん、アタシ、今、凄くワクワクしてるのかも。
ゴマにおでこをくっ付けたら、急に睡魔が襲って来て、そのまま瞼を閉じ泥の様に眠った。
次の日からお正月休みが終わるまでの間、アルさんに戦い方を基本から教わる毎日が続き、あっという間に三学期が始まる事となった。