表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/75

08 「ちから」と「覚悟」

 アタシが叫ぶと同時に、視界に入っていた黒い影は、美しい淡青色した炎に包まれた。

 轟音と渦を巻きながら天に昇って行く。


「えっ! ちょっ!! キツネっ! キツネっ!! 中の人死んじゃうってーっ!!」

「大丈夫、問題ないのだ! 七颷(なつ)殿が使った狐火は聖なる火、浄化の炎なのじゃからな」


 キツネが言った通り、淡青色した炎は黒い影を燃やし尽くすとフッと消えた。


「凄いじゃないか、なっちゃん! 初めての戦闘にしては上出来だ! 驚きだよ」


 突然、敵と言われ強制的に戦わされ、ワケ分かんない内にもの凄い力が湧き出て、とんでもない事になっちゃったっていう部分に対して、思う所が無いワケではないが……。


「何か釈然としないんですけど! ノセられた感というか無理やり感というか。ンムーっ!」


 それに黒い影の中身は人間だった。今はただ、意識を失ってるだけに見えるけど、もしこの能力で人を殺してしまったらどうなるのだろう。そう考えたら少し身体がブルっとした。


「……もし、人を殺めてしまったらどうなるのか。ってとこかな?」

「えっ! 何で分かるんですか!? 超能力者ですか!? 経験あるんですかっ!?」


 アタシは言語化するのが苦手な方だ。だからいつも直接的で短絡的な単語が並んでしまう。


 昔、世界中がヒーローに熱狂した時代、それこそおばあちゃんが話してくれた「天狗と狐の物語」だが、ひいおじいちゃんとアルさん達は、きっと、多くの悪人の命を刈り取ってきたのだろう。そこには、アタシには計り知れない葛藤や苦悩があったのだと思う。


 アタシはバカだ。軽々しく、人を殺めた経験があるのか? などと聞いていいものではなかった。アルさんに嫌な思いをさせてしまったかもしれない。


「いやー、俺これでも結構長生きしてるからねー、そのくらいは読み取れちゃうかなー。年の功ってやつ? それと超能力ね、俺達は昔から『能力(ちから)』って呼んでる。()()()()で言えば超能力って事になるかもだけど、俺の場合は皆と覚醒するまでの経緯が違うから。あえて言うならそうだなぁ『異能力』って言った方が適切かも。まあ、それはまた別の話だから今は置いとくとして……あるよ。人の命をこの手で刈り取った事。なっちゃんが想像できない程沢山ね」


 アルさんはズルイ。そんな顔でそんな風にサラッと答えちゃうんだ。……ズルイよ。


「ひいおじいちゃんもひいおばあちゃんも、その当時の皆さん全員、そう……なんですか?」


 アタシは何を聞きたいんだ?

 何で、こんなに苦しい事を聞かなくちゃいけないんだ?

 何で、アタシよりアルさんの方が苦しそうな、悲しそうな顔をしてるんですか?

 何で……そんな優しい顔してるんですか?


「……なるほど。なっちゃんはイイ子なんだね。分かるよ。君は今、自分が置かれた立場と、これからどんな舞台に立たなきゃいけないのかを理解している。だからこそ、これから何が起こるのか、どうすればいいのか、答え……とまでは行かなくとも、有り方が欲しいんだね」


 声に詰まって返事が出来なかったけど、コクンと頷いた。

 昔、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは。一体どんな気持ちで戦ってたの?

 始めから答えを教えてくれって言ってるみたいで、自分が嫌になるけど、教えて欲しい。


「例えば、今後なっちゃんの大切な人たちが傷ついたり、命を奪われてしまう……なんて事が起きてしまうかもしれない。そんな時、君はただ見ているだけなのか? 困っている誰かを、助けを求めるその声を、救える身体と力を持っているというのに」


 詭弁だ。何かを守る為という事が、人を殺してもいいという理由にはならない。でも……。


「嫌だっ! 絶対助けたいに決まってるっ! 理不尽に奪われる位なら、殺ってやるっ!」

「うん、そうなるよね。それは俺達もそう。守りたいものを護る為に戦ってきた。要は覚悟ひとつなんだよ。でもそれは、人を殺す覚悟じゃない。煌七(あきな)おばあちゃん、言ってなかったか? 困った時はワクワクする方を選べって。それは決して楽しい方を選べって事じゃないんだ。いつか自分の過去を振り返った時、それは誇れる生き方だったのか、その人生に後悔はしていないか? って意味なんだと俺は思うなぁ」


 ああ、すごいなぁ……沢山いろんな事を背負っても、芯が通っていて、歪まず真っ直ぐで。


 ……おばあちゃん。アタシ……大切なものを護れる、そんなヒーローになりたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ