76 「自分勝手な独り言」と「誰が為」
長い事、間が空いてしまい申し訳ありません。最終話です。
アタシは少し見誤っていた。
せいぜい動画配信サイトか何かを使って、ライブ配信する程度だろうと。
「ソレデハ カイシシマス 3 2――」
空中に浮かんだホログラムのカウントダウンが消えると、代わりに「ON AIR」の文字が表示された。
「あれ? サクラちゃん、これってもう映ってんの?」
ホログラムで投影されたサクラが、頷きながらカメラに向かって手を振ってみせ、配信は始まっている事を伝える。
アタシは小さく「やべっ」と漏れた声を咳払いで誤魔化し、カメラに向かって……ううん。カメラの向こうにいる人たちに向かって語り掛けた。
難しい言葉なんて知らない。
ただ、自分の想いをそのまま、経験した事、感じた事を素直に話す。
そう決めて、大きく息を吸った。
『アタシはアマツ。天狗 七颷』
その時、テレビやパソコンだけでなく、スマホという情報端末まで、サクラは世界中全ての画面に強制的な介入を行っていた。
街を歩いていた人、電車に乗っていた人。皆のスマホから同じ音が流れ出し、そして共鳴し合う。
街中、車内中、世界中に「空間音響」となったナツの声が響き渡る。
『あれ? サクラちゃん、これってもう映ってんの? ……やべっ』
勝手に再生された映像に驚き、慌てて消そうとする人。
周囲から一斉に同じ音が鳴ったことに、周囲を見回す人。
何が起こったのか分からず、そのまま画面に見入る人。
変なテレビCMだなと思いつつ、動じず見続ける人。
「あれ? この子、ニュースになってた子たちじゃない?」
「サントリーニ島吹っ飛ばした子供たちだ!」
「なんかやべぇ事が起きてんぞ!」
見ず知らずの人たちが、次々と声を上げ始める。
『アタシはアマツ。天狗 七颷』
そう切り出した女の子は、世界的なニュースになった先日の大規模戦闘について語り始めた。
『分からなくていい。理解されなくていい。これは、アタシの自分勝手な独り言。昔ね――』
アタシはひいおじいちゃんの事や、今回倒したアイネとの因縁。
学校へはもう行けそうにないこと。
何一つ後悔はしていないこと。
家族へのごめんなさい。
クラスメイトや友達へのごめんなさい。
迷惑をかけてしまった世界中の人たちへのごめんなさい。
心に浮かぶまま話した。
簡潔にまとめるなんて無理だった。
思い返せば、アイネだって愛を欲していただけだったのかもしれない。
様々な矛盾と感情が入り乱れ、とりとめのない話になってしまった。
気が付けば涙が溢れだしてて、多分ちゃんと言葉になっていなかったかもしれない。
『ミカン、大丈夫。ウチらがずっと一緒にいるじゃん』
『そうよ。私たちは家族なんだから』
『うんうん、ボクたちはアマツだよ』
『何も間違ってなんかいない。俺が保証する』
『ああ、私たちの世界はここだけじゃないからな。全く問題ない』
『アタイは美味いもん食えて、楽しければそれでいいゾ』
『ダイジョウブ スベテハ ワタシノテノヒラノウエ デス』
グシャグシャな顔になったアタシを、みんなは優しく抱きしめてくれた。
これから過ごす永い時を考えてしまったのか。
それとも、沢山の命を見送る未来に、一抹の寂しさを覚えたのか。
ただ、悔しさが溢れたのか。
今のアタシには、まだ分からない。
『アタシ、バカだから難しい事は分らないけど……。これだけは間違いなく言える。この力は正しい事の為に使う! 困った時はワクワクする方を選ぶ! アタシは、大切なものを護れる、そんなヒーローになる! だって、おばあちゃんとの約束だから!』
カメラの向こう側にどれほどの人たちがいるのかなんて知らない。
こんな配信を見ても、一体何を言っているのか分からないだろう。
こんな話を聞かされて、一体何をどう受け入れろというのだろう。
でも、これでいい。
アタシたちにとっては大好きで、大切なこの地球だけど。
この世界がアタシたちを大切にしないなら。
アタシたちの存在を必要としないなら。
この声が、この想いが届かないのなら。
アタシたちは大人しくこの世界から姿を消すだけだ。
これからほぼ永遠の時を生きることになるアタシたちには些細なこと。
数百年もすれば、誰もアタシらの事なんて覚えていないだろう。
その時には気まぐれで戻って来るかもしれない。
これでいいんだ。
賞賛や名声が欲しい訳じゃない。
何のための能力、誰が為のヒーローだって話だ。
『アタシはアマツ。天狗 七颷!』
アタシたちの物語は、ここから始まる。
<了>
「 天狗 七颷 」の物語 - The Beginning - はこれでおしまい。
気まぐれにサイドストーリーを追加するかもしれません。
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