07 「風」と「炎」
「ちょっ! ちょっと待って! アタシ、ケンカだってした事ないのに敵倒せとかーっ!?」
「大丈夫! 俺を信じろ! 仲間の予言者がとっくの昔になっちゃんの能力を保証済みだ!」
「七颷殿! 妾もついておる! こんな木っ端の影に負ける事など絶対にありえないのだ! 歴代の主達は皆好戦的でイケイケな美女だったのだ! 七颷殿もそれに名を連ねるのじゃ!」
「確かに! なっちゃんのひいおばあちゃんは怒らせたら一番怖かったけど、めちゃくちゃ強くて、素敵な女性だったよ! なっちゃんにもその血が流れてるってとこ、見せてやれ!」
……なんでおばあちゃんと同じ事言うの?
……なんでアタシの大事な思い出に入ってくるの?
……アタシは、おばあちゃんだけの特別でいられれば、それだけで良かったのに。
……アタシは、学校の友達と同じ様に、ただ普通の女の子でいたかっただけなのに。
――なっちゃん、あなたは特別な子よ。
「そんな簡単に好き勝手言わないで! アタシまだ中学二年なの! 人生これからなのっ!」
――いつか不思議な力を持った時は、正しい事の為に使ってね。
「さっきからアタシの知らない話ばっかだし! 頭のおかしな事ばかり次々に起こって意味不明過ぎるし! あんなオバケといきなり戦えとかっ! ホントどうかしてるってのっ! 何が、歴代は皆好戦的でイケイケよ! 何が怒らせたら一番怖いよっ! ふざけんじゃないっ!」
――そして、困った時はワクワクする方を選んで。
「アタシだって……アタシだってね! 怒らせたらっ……凄いんだからぁーーっ!!」
――おばあちゃんとの約束ね。
瞬間、周囲に存在する様々な力の全てが、どんどんアタシの身体の中に集中していく。
凝縮され膨大なエネルギーの塊となった力は、アタシの中で弾けると同時に眩い光を放ち、その存在を誇示するかのように天を衝いた。
それは、雷を纏った蒼炎の旋風。
凄まじいまでに立ち昇る力の奔流。
烈火の如き覚醒。
……アタシは、怒っていたはずだった。怒り任せに叫んだはずだった。なのに何故……。
「ははっ! こりゃ確かに凄いなっ! なっちゃん笑ってるよ! やっぱり血は争えないか」
……何故、アタシはこんなに高揚してるんだろう。
……何故、こんなに滾るんだろう。
こんなスピードなんて知らない。
こんな瞬発力も、跳躍力も、視界も、パワーも、全部!
「なにこれ、何コレ、ナニコレぇえーっ!! あはっ……あははははははははっ!」
何もかもが別次元、別世界。
こんなの、普通じゃ絶対にあり得ない状況なのに。意味不明な状態なのに。
アタシ……笑ってる! アタシ、ワクワクしてるっ!
戦い方なんて分からないけど、不思議と身体が動く。
拳を突き出すだけでいい、脚を振るだけでいい。
思いっ切りやりたいようにやればいい!
向かって来た敵を吹き飛ばすと、体中に纏わり憑いていた黒い影が霧散し、糸が切れたように雪の中に倒れ込んでいく。真っ黒い影のオバケだと思っていたら、中身は人間だった。
「七颷殿! 影の化物に意識を向けてこう唱えるのじゃ! 『狐火』と!」
「えっ! 意識を向けるってどうやんの!? 説明が大雑把じゃないかなーっ!?」
ええい、こうなったらヤケだ! 頭で考えるより身体を動かして肌で感じた方が早い!
残る黒い影を全て視界に入れ、掌を前に突き出して思いっ切り叫んだ!
「やってやるわよっ! 何が起きても責任とれないからねーっ! ……狐火っ!!」