04 「天狗」と「キツネ」
こんなのもう宇宙人じゃん!? ヤバイやつじゃん! 顔赤いし、鼻長いしっ!
心臓バクバクで語彙力が死亡してるけど、ここはアレだ……アレしかない。
気付かれる前に逃げよう! うん、それしかない。
そろーっとこの場から立ち去ろうとすると、それはそれで雪を踏み締める音がウルサイ。
ギュッ、ギュッ、っと鳴き雪を立てながら、その場で振り返ってダッシュで逃げ……。
――ガシッ!
はいっ! 足首掴まれましたっ!
顔面から雪の中にダイブしたワケなんだけど……流石にキレてもいいよね?
堪忍袋が限界です。
地面に手を着き、雪の中から起き上がる。
「あのっ……さぁっ! ついさっき新年迎えたばっかの初日、元旦よ、元旦っ! なんで盛大に追い回された挙句に足首掴まれて顔面から雪にダイブしないといけないワケ!? そんなに嫌がらせしたかったって言うの? アンタのせいで全部台無しじゃないのっ! 神様も神様だよっ! アタシがお願いした飛びっきりの素敵な出会いはこういうんじゃない!! フザけんじゃないわよっ! アタシの初詣を弁償しろーっ! 文句があるなら何か言い返してみなさいよ! お高く止まってんじゃないわよ! 天狗だけに!」
叫ぶだけ叫んだら、この異常な状態にも慣れてきて、少し落ち着いてきてしまった。
弁償しろとは言ったが、過ぎてしまった時間はもう取り戻せないって事くらい理解してる。
それに、一生を左右するかどうかは別として、飛びっきりの出会いと言う部分に関してはくやしいが願いは叶った……のか?
何にしろ神様のポンコツ具合はヒドイと思う。
お願い事をしたのはアタシだけど、曲解するにも程がある。
だって、天狗はカッコイイ彼氏じゃない。
「……お稲荷様のアホー、ポンコツー、来年から油揚げなんてお供えしてあげない……」
ハァーっと諦め混じりの溜息をつき、神様に文句を言いながら天狗の方に向き直ると、目の前に蛍の様な光の雫が集まり出した。
「はぁっ!? もうっ! 今度は何っ! まだ揶揄い足りないってワケ!?」
光はどんどん集まり、パァーっと輝くと同時に、神楽鈴の音が響いた。
――シャラシャラシャラーッ!
……鈴の音どっから鳴ったし!?
ってか、光の中から手乗りサイズのキツネが出て来たぁ!?
「ちょっと待ったなのじゃー! アホーとかポンコツーとか言った事は許す、許そうぞ! だから油揚げ無しと言うのは勘弁して欲しいのだ! 妾から油揚げを奪うなどヒドイのじゃ! ヒドイのじゃーっ!」
目の前で突然まくしたてる不思議な生き物に、驚きと呆れで開いた口が何とやらだ。
「ハァーっ……いい加減、頭痛くなってきたんだけど……一体何なの? 何がしたいワケ!?」
めっちゃ喋るし、黒いキツネだし、語尾がのじゃだし、宙に浮いてるし、天狗は足掴んだままだし……あーっ情報過多! もームリっ!
今年はアレか? 呪われた年か!? 厄年か!?
「七颷殿、どうしたのじゃ? 随分と溜息をついておるようじゃが、飴でも舐めるかの?」
意味が分からな過ぎて、正直早く帰って寝たい。もうお正月なんてどうでもいいや。
「あのさぁ、キミって一体何者? お化け? 妖怪? 宇宙人? アタシの事攫いに来た? そこの天狗と関係あるワケ? 普通じゃない事が起きてるってのは理解したけど、喋れるんだったらさぁ、分かるように全部説明して欲しいワケ! ……その前に飴くれる? 何かもう、真面目に驚いてる自分がバカらしくなってきちゃった。しかも話してる相手キツネだし。なんか妙にカワイイし……って、ちょっと待って……キミ、何でアタシの名前知ってんの?」
「モチロン! ちゃんと説明するつもりなのじゃ。その前に、ホイっ! 七颷殿がこの飴をお気に入りなのもちゃーんと知っておるのだ。それと妾がカワイイのも知っておるのじゃ!」
どこから出したのか全く分からないけど、キツネの手の上に飴が現れて、アタシにくれた。
「わー、アタシ小梅好きなんだー。おばあちゃんのお気に入りの飴。もう死んじゃったけど」
包み紙を開き、飴を口に放り込む。
カロッと口の中で飴を転がす音が聞こえ始めると、アタシの膝の上に乗ったキツネは、今何が起きているのかを話し始めた。