02 「初詣」と「願い事」
「今年こそ、神様もビックリする位の素敵な出会いが沢山ありますようにっ!」
小柄だけどとっても元気な美少女(自称)『天狗 七颷』、十四歳。
夏ミカンが美味しい時期に生まれたので「なつ」と名付けられたと聞いたが、「あまつなつ」という響きが「甘夏」を連想させる為、親しい友達はアタシを「ミカン」と呼ぶ。
新年早々、毎年恒例の初詣に来てるんだけど……うん、誰もいない。
「アタシのお気に入りでオススメの出世稲荷神社なんだけどなぁ」
小さい頃におばあちゃんが話してくれた「天狗と狐たちの物語」の影響もあり、一番好きな動物は? と聞かれると「キツネ」と答える程にはお稲荷さん贔屓なワケ。
まあ、年越し直後を狙って来たってのもあるし、雪も結構積もってて寒いし、そもそもボロいお社だし、ちょっと可哀そうな気もしなくはないけど……。
「でも、今年もアタシが一番乗りだ! いい気分!」
何で嬉しそうかって?
そりゃあ神様だって人の子って言うし? 沢山お願い事聞いたら疲れもするだろうし?
きっと、いい加減止めてくれーってなるじゃん?
なら、年越し直後の一番最初が良いって思うワケ。
疲れてないんだったら、お願い事聞いてくれるかもしんないじゃん? 多分だけど。
とは言え、その中身はここ数年お馴染みの「出会い」しかないワケで。
だって、中学も今年三年生になるってのに、春が来ない。
いや、春は毎年来るけど、アタシに春が来ない! 桜が咲かない!
このままでは、桜が咲く前に散ってしまう!
――フッ、いつから貴様の桜は咲くものだと勘違いしていた?
などと言う内なるイタさが顔を出してきそうな程だ。
寧ろ始めから散っているのでは? と思ってしまう位に出会いの「で」の字がない。
もちろん同級生男子はお子様過ぎるので論外。せめて五歳は年上がいい。
「アタシだってカッコいい彼氏が欲しい!」
だからお願い神様っ! 今年こそ飛びっきりの出会いを下さい!
「それこそ一生を左右する様なやつで、お願いしますっ!」
家から持って来た油揚げとお神酒を供えて拍手を打つ。
今年の冬は中々に厳しい寒さだが、凛とした空気に気持ち良さを感じる。
特に冷え込む今日みたいな夜は、満天の星空に天の川までバッチリ見える。
「うわぁ……キレーっ!」
これだけでも年越し直後、初詣に来た甲斐があったというものだ。きっと良い一年になる。
そんな事を考えながら、吸い込まれそうな星空にしばらく時間を忘れる。
ヒュン、という効果音が聞こえそうな程に、綺麗な尾を引く流れ星が、一瞬の瞬きの内に消えて行く。その短すぎる輝きに人生を重ねてしまい、ちょっと切なくなった。
「宇宙規模で見たら、人の一生なんて、ホントあっという間だよね」
中学生女子が元旦に一人、神社で呟く内容としてはどうかと思う。
けど、それ以上に流れ星って結構ある事にビックリする。
次から次へと輝きを放ち、流れては消えてを繰り返す。
うーん……、もう少し長生きなのがあってもいいんじゃないかなぁ?
お願い事するにしても、一瞬すぎて三回なんてとっても言えないよ?
なんて物思いに耽っていたら、空に蒼紫に輝く星が流れた。
「おおっ珍しい色! これはちょっと長生きしてくれそうっ!」
ヒュンと言うよりかはゴゥという音が似合いそうな力強さを感じる。
はっ! 三回唱えるなら今しかなくない!?
そう思うが早いか、アタシは両手を結び、お願い事を口にしていた。
「一生を左右する様な飛びっきりの素敵な出会いを」
「一生を左右する様な飛びっきりの素敵な出会いをっ!」
強く、想いを込めてギュッと目を瞑り、願いよ届け! と大きく声を上げる。
「一生を左右する、飛びっきりの出会いをっ!! 出来れば沢山っ!」