01 「思い出」と「おばあちゃん」
二〇三九年。誘拐された幼馴染の少女を救おうと、一人の少年が超常的な能力に目覚めた。
少年は、悪を滅ぼす為に行動を起こし、仲間を集め、世の裏側に巣食っていた巨悪を日の下に引きずり出した。壮絶な戦いの末、ついに仲間たちと共に悪を滅ぼし、秩序を取り戻す。
世界中がヒーローの出現に沸き、熱狂した。
だが、光ある所に影は生まれるもの。やがて、陰の中にまた闇が宿る。
粛々と根を張り芽吹く悪の華は、徐々に蔓延り始め、そして歴史は繰り返される事になる。
◇◆◇
時は流れ、二一〇二年。
良く晴れた日の昼下がり、緑溢れる庭の縁側で、祖母が話す物語をキラキラと目を輝かせながら聞き入る少女。
「――でした。とーっても強くて優しい、天狗と狐たちの物語。おしまい」
「おばあちゃん、アタシこのお話好きーっ! 何回聞いても好きーっ!」
お話の後に必ず言う御馴染のセリフだが、四歳になる孫の素直な感想と屈託のない笑顔がよほど嬉しかったのか、まるで自分の事の様に喜びながら、満面の笑みでアタシに答える。
「んーそうかい、嬉しいねぇ。おばあちゃんもこのお話大好きよー。このお話はね、おばあちゃんが生まれる前に、本当にあった出来事なの」
おばあちゃんは、このお話をした後はいつも、とても大事な、遠い思い出を見る様な、そんな優しい目をする。アタシはこのお話が大好きだが、それ以上に、そんなおばあちゃんの事がもっと大好きだ。
「えーっすごーい! 本当のお話なのすごーい! アタシも会ってみたいなー、天狗さんと狐さん!」
「そうねー、なっちゃんならきっといつか会えると思うわー」
「なんでーっ! ねーなんで分かるのー?」
「ふふっ、だって、このお話の天狗と狐はね、おばあちゃんのお父さんとお母さん達の事なのよ。だから、なっちゃんもきっといつかこの不思議に出会えるはず。二人だけの秘密ね?」
「すごーい! 分かったーっ! 絶対ナイショにするからまたお話してねっ!」
「もちろん。なっちゃん、あなたは特別な子よ。もしいつか不思議な力を持った時は、正しい事の為に使ってね。そして、困った時はワクワクする方を選んで。おばあちゃんとの約束ね」
そんなおばあちゃんも癌を患い、アタシが六歳の時に他界してしまった。
そして、沢山の思い出が詰まったこの場所から、また、新たな物語が紡がれて行く。