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心の声は聞こえない

 そこから先は早かった。

 シルバに拘束されたパルマ、バンダー、カイナの三人は馬車に揺られて王都アデルセンに連行。ダイバテインから3日はかかる旅のなか、パルマは手枷をつけられたままでお手洗いは外という乙女の純潔を汚される旅だった。何故だかバンダーとカイナには手枷は無く、自分だけが囚人のような気分で気持ち申し訳なさそうな視線をパルマに送るのみだった。

 王宮に着くとバンダーたちは丁重に迎えられ、パルマは牢獄に連行。そのあまりの非道さに丸一日泣きながら恨みつらみを吐き続けた。ようやく解放されたと思ったら今度はレヴィアヌス王の前に引き出された。何故かバンダーとカイナがその場にいてパルマは助けを求める視線を送ったが、どうしようもないという顔で心配そうに見つめ返すだけだった。王直々にあの日の出来事を長時間事細かに詰問された後、再び牢獄に入れられ死を覚悟していたところ、再び呼び出されると……。


「神官殿に特別な任を与える」


 その特別な任とは、「この世の恋を成就させよ」というものだった。どうやらあの日以降、宮廷魔導士が高位の魔法を扱えるようになったと報告があった。ダイバテインの魔法使いたちからも魔力に関する知らせがあり、パルマの起こした奇跡に関係があると結論付けられた。死罪の宣告だと思っていたパルマは何が起こっているか分からないまま、ダイバテインへと即座に送り返された。何故かシルバを伴いながら……。

 帰ってきてからは王都から届いた支度金と卑しい笑顔を見せるディンに迎えられ、その神官長が名付けた【恋愛相談所】という看板を掲げることとなり、今に至る。


 ―――――――――


 成就室に囲まれたパルマは何度目になるか分からないため息をついていた。成就室の外にはまるで彫像のように立つシルバの姿もあった。


「……あなた、なんでここにいるんです?」

「神官殿の補助をする任務だ」

「ふーん、誰も来ないしサボれてよかったですね。どこかうろついてきてもいいですよ」

「任務だ」


 ……つまらない。表情が一切変わることのないシルバと一緒にいると、そのあまりの魅力のなさを実感する。始めはその精悍な顔つきに目を奪われたことは認めるが、アデルセンから戻る馬車の中での二人きりの時間は最悪だった。あまりに長い無言の間に耐え切れず、この鉄の塊のような男に何度か会話を試みた。その返事は「ああ」「うむ」ばかり。少しばかりの愛嬌を期待したパルマだったが、その願いは無残に散った。

 相談所の看板を掲げてすぐは多くの客が教会を訪れていた。しかしほとんどがお世辞にも良いとは言い難い相談ばかりだった。「毛並みの良いウェイドッグ(ク・シ)をおうちに迎えたいの」と話す毛皮を着たご婦人。「エルフたんとの出会いを所望! ちなみに君も中々……!」と熱く語る商店の息子。次、次とあしらう内に、ついに客は0になった。極めつけはダイバテインに住む貴族の結婚式での出来事だ。ディンは婚姻の儀をパルマに任せることにした。大勢の前に姿を見せることに最初は反発していたパルマだが、差別されてきた自分に向けられる敬意のまなざしを想像しろとディンに言われ、なんだかんだ折れた。

 迎えた当日、式場に奇跡を見ようと大勢の住人が駆け付けるなかでヒューマン同士の婚姻を祝福したパルマだったが、ダイバテインを照らしたあの光は現れなかった。ざわつく会場の中で花婿と花嫁は取っ組み合いの喧嘩を始め、世界を救う奇跡は嘘発見器という名誉?な称号を手に入れることになった。

 再び誰も寄り付かなくなった教会で無の時間が経ち、パルマは暗くなった空の下で教会の扉を閉めていた。


「はぁ~……」


 あの式場での出来事の二の舞は避けたい、トラウマを思い出したパルマが深いため息をつく。シルバはそんなパルマを見て、鉄仮面の裏である言葉が頭を埋め尽くしていた。かわいい……一目惚れだった。教会の中で光を纏ったハイエルフを見て、その美しさに魅了された。牢獄で表情豊かに泣き叫ぶパルマに憧れさえ覚えた。怯えられることがほとんどのシルバに馬車の中で話掛けてくれるパルマを見て、うまく言葉が出なかった、元々口下手ではあるが。

 シルバは世界に光をもたらすことになるパルマを守る任に率先して手を挙げた。王都を守るという騎士最大の名誉を捨てて、パルマの傍にいるためにこのダイバテインに来た。

 これまでこの顔のせいで恋愛とは無縁で、誰かの傍にいたいと思ったことはなかった。表情と一緒に感情さえ失ったと思っていたシルバは、初めての恋に心だけ躍っていた。

 客足の途絶えた教会の前で悲しさをにじませるパルマへ、自然(と自分が思っているだけ)に声をかけていた。


「この辺りに、いい酒場はないか」

「はぁ?」


 シルバの恋心など知る由もないパルマは、「不動」と呼ばれている男の意図を読み取ろうとする。何が目的……? 訝し気な視線を送るパルマをシルバが微動だにしない目で見つめ返す。掴み切れないシルバに呆れながら、オイップの酒場のハチミツ酒を想像して喉が鳴る。


「ありますよ、素敵な場所が」

「そうか、行きたいか?」一緒に行こう、という言葉がシルバの口を通すと変換される。


 なんだかイラっとしたパルマだが、シルバなりの気遣いだと思いなおすことにした。(正解ではあるが)


「奢りでしょうか?」

「王都からの援助がある」


 そこは「もちろん」と返すのが意気ですよ、と心の中で伝えて、金色の瞳を隠すように深くフードを被ると、パルマは酒場への道を歩き出した。

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