表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

15


 もうすっかりと明るくなってしまった、塔の最上階の一室で。


「私たち、間に合ったのかな」


 いつの間にか、月明かりの筋は見えなくなって。

 変わりに窓から、温かい光が差し込んでいました。

 日の出が来れば、魂は霊王のものになる。


 その言葉が本当だとすれば、私たちは一歩、遅かったのかもしれません。


「さあな。俺にはわからない」

「……そっか」


 私の隣に立つルダンはどことなく無愛想に、顔も合わせずにそう言います。

 すっかり馴染んでしまったせいか、私たちは今も手をつないで、横に並んで立っています。

 見下ろした場所は砕けた王冠だけが残っていました。

 ルダンのあの一撃をうけて、霊王の亡骸は跡形もなく消えうせてしまいました。


「……ルダンは、ホントに嘘つきだね」

「えっ、なにがだよ」

「妹みたいに思ってるって、嘘だったんでしょ」

「なっ、な……」


 ルダンは何か言おうとしたようですが、結局、何も言えずに黙り込んでしまいました。

 図星だったようです。私も、鈍感ではありませんから、あの言葉の裏に秘められた意味くらいわかっています。


「今はまだ、早いだろ」

「うん、私まだ、十四歳だからね」

「そうだ……うん?」


 おや、ルダンの方も察しがいいようですね。

 その様子だと、ちゃんと気付いているんですよね?

 私が、どんな思いであなたを見るようになったのか。

 私が、これから普通の日常に戻った後、どうしたいのかも。


 ですが、説明してはあげません。

 私は彼の右手を引いて、西側の窓へ歩み寄ります。

 歩み寄って、自分の勘が間違っていないことを確かめてから、彼の方を向いてあげました。


「私、七日後まで忘れておくから」

「…………」


 窓の方から振り向いて、口元に笑みを浮かべながら、一言だけ。

 それだけで彼もわかってくれたのか、少し間を置いた後。

 彼は、私の左手を握り返してくれました。


「ああ、それなら誕生日と一緒に」


 眼下に見下広がる王城が放つ、底なしに温かい光と、一本橋の向こう側で松明を振る、数人の人影を見下ろした後。

 後ろから、今更になって登った朝日が手を握る私たちを照らし始めました。


「あとで全部、思い出させてやるよ」


 彼は、随分キザなセリフを吐いて、私に笑顔をくれました。



 あとで、家族全員に……

 特に、正気を取り戻し、こっそり後ろでこちらを見ていたお父さんには、何度も何度もいじられるくらいにかっこをつけた、満面の笑みを。

~ おしまい ~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ