15
もうすっかりと明るくなってしまった、塔の最上階の一室で。
「私たち、間に合ったのかな」
いつの間にか、月明かりの筋は見えなくなって。
変わりに窓から、温かい光が差し込んでいました。
日の出が来れば、魂は霊王のものになる。
その言葉が本当だとすれば、私たちは一歩、遅かったのかもしれません。
「さあな。俺にはわからない」
「……そっか」
私の隣に立つルダンはどことなく無愛想に、顔も合わせずにそう言います。
すっかり馴染んでしまったせいか、私たちは今も手をつないで、横に並んで立っています。
見下ろした場所は砕けた王冠だけが残っていました。
ルダンのあの一撃をうけて、霊王の亡骸は跡形もなく消えうせてしまいました。
「……ルダンは、ホントに嘘つきだね」
「えっ、なにがだよ」
「妹みたいに思ってるって、嘘だったんでしょ」
「なっ、な……」
ルダンは何か言おうとしたようですが、結局、何も言えずに黙り込んでしまいました。
図星だったようです。私も、鈍感ではありませんから、あの言葉の裏に秘められた意味くらいわかっています。
「今はまだ、早いだろ」
「うん、私まだ、十四歳だからね」
「そうだ……うん?」
おや、ルダンの方も察しがいいようですね。
その様子だと、ちゃんと気付いているんですよね?
私が、どんな思いであなたを見るようになったのか。
私が、これから普通の日常に戻った後、どうしたいのかも。
ですが、説明してはあげません。
私は彼の右手を引いて、西側の窓へ歩み寄ります。
歩み寄って、自分の勘が間違っていないことを確かめてから、彼の方を向いてあげました。
「私、七日後まで忘れておくから」
「…………」
窓の方から振り向いて、口元に笑みを浮かべながら、一言だけ。
それだけで彼もわかってくれたのか、少し間を置いた後。
彼は、私の左手を握り返してくれました。
「ああ、それなら誕生日と一緒に」
眼下に見下広がる王城が放つ、底なしに温かい光と、一本橋の向こう側で松明を振る、数人の人影を見下ろした後。
後ろから、今更になって登った朝日が手を握る私たちを照らし始めました。
「あとで全部、思い出させてやるよ」
彼は、随分キザなセリフを吐いて、私に笑顔をくれました。
あとで、家族全員に……
特に、正気を取り戻し、こっそり後ろでこちらを見ていたお父さんには、何度も何度もいじられるくらいにかっこをつけた、満面の笑みを。
~ おしまい ~