ルームメイトが武田信玄だった
学生寮とやらに憧れて県外の高校を選んだ。
サッカー強豪校のスポーツ推薦。
──ガチャ
「あ、どうも俺は──」
「風林火山」
ルームメイトの武田君は、とても独特の服を着ていた。服というか、甲冑だ。
一瞬にして圧されそうになったが、笑顔で自己紹介をする。初めが肝心だ。ルームメイトとは仲良くしないとな。
「俺は山本。ポジションはMF」
「ぼ、ぼくは武田信玄……」
「──!?」
武田君は見かけの厳つさとは裏腹に、ボクっ子だった。意外にも程がある。
「ポジションは……マネージャー」
「マ、マネージャー!?」
どうやら武田君はマネージャーとしてとても優秀で、県内ではその名を知らぬ者はいないらしい。
初めこそ不安だったが、蓋を開けてみれば武田君の優秀さはすぐに校内に知れ渡り、皆から信頼を得られる程になっていた。
マネージャーとしては勿論、ずば抜けた頭脳から繰り出される作戦は相手の裏を見事に突き、次々と勝利を手にすることが出来た。
「塩飴をどうぞ……」
練習中、武田君は塩飴をくれる事が多かった。
疲れた体に程よい塩加減がありがたい。
「これ、よかったら……」
「あ、すみません」
練習試合中、武田君は相手チームにも塩飴をくれていた。敵味方別け隔て無く接する武田君に、皆が癒やされた。
「お疲れ様したー!!」
練習が終わると、寮に戻って飯にする。
幸せな日々が続いていた。
が、ある日──
「山本クン……」
「ん?」
部屋で腹筋をしていると、武田君が俺の隣に座った。いつもとは違い何か言いたげな表情を見て、なにか相談があるのかと手を止めた。
「どうかした?」
「山本クンにだけ言おうと思って……」
そう言うと、武田君は甲冑を脱いだ。
更に下に着ていたジャージも。
そして……胸にさらしを巻いた状態で──
「ごめん、実は女なんだ」
「な……!!」
なんという事だ。あの武田君が女の子だと……!?
しかしこれで武田君がマネージャーなのが理解出来た。
「胸を隠す為に甲冑を着ていたんだね」
山の如しその膨らみをさらしだけで隠し通せる筈もなく、仕方なく甲冑を着ていたと思うと、心が痛い。とても辛かったろうに……。
「黙っていて……くれる?」
「勿論。君はサッカーが好きなんだね」
「──うん!」
武田君と男の約束を交わた。
しかし次の練習試合のバスでうっかり「レディファーストで」と言ってしまったばかりに、武田君が女子なのがバレた。武田君に火の如く殴られたが、高校卒業後、俺達は付き合う事になった。