創作詩19: 内窓
本投稿では、創作詩 ”内窓” を発表します。
発達障害者家族にとって御近所さんとの友好なお付き合いは非常に大事です。ADHDの子供は衝動的に大声をあげることもあれば、大ボリウムの音楽、壁や床をドンドンと叩く音が騒音となることがあります。騒音を防ぐ手立てとして防音ガラスの内窓、防音カーテン、防音壁などを順次施していきました。
今回は、内窓の設置にともなうトラブルとその行方を詩に紡ぎました。
多動の子は夜間に大声や物音を発することがしばしばあった。
・私は子の部屋の窓に防音仕様の内窓1を設置することに決めた。
・お隣さんに騒音で迷惑をかけないための苦肉の策だった。
・工事の段取りを伝えると子は露骨に顔を歪めた。
・当日の朝、子は部屋の前を行ったり来たり、
・内装職人の困惑する顔が忘れられない。
・工事完了後、子は新調した窓から怪訝そうに海を眺めていた。
・子は窓を叩いたり開けたり閉めたりと段々騒がしくなった。
・突然、子はスルリと窓をくぐって裸足で屋根に降りた。
・子に声をかけて驚かせてはならないと躊躇する間に、
・子は屋根から塀を伝って隣家の裏に消えた。
・私は子を追いかけるべく階段を転がるように駆け下りた。
・外に出た途端に角ばった水塊がブスッブスッと、
・潮2の気流に煽られて私の顔面を突き刺し、
・遠くから閃光が暗雲をかち割り、
・ドギャーンと轟く地響き!
・雨よ、降れ、大雨よ、もっと、もっと激しく降れ!
・ボロボロに汚3れた私の鮫肌にしなる鞭を打て!
・風よ、この身を天に舞い上げろ!
・雷よ、心臓を狙い撃て!
・罪を焼き尽くせ!
やがて、私の肉と血と魂はトロトロに溶けて海へ還った。
終わり
脚注1:「内窓」とは、既存の窓の内側にもう一つサッシを付け加えた構造に厚みの異なるガラスを設置した窓で、一定の防音効果が期待できる。
脚注2:「潮」は ”うしお” と読む(海水という意味)。
脚注3:「汚れた」は ”けがれた” と読む