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ある星の祭り

作者: 雉白書屋

 その惑星の地表の一部は、脈動するかのように絶えず揺れ動いていた。


「船長、あれはまるで……」


「ああ、まるでというより、完全にお祭りだな。ちょうどいい時に来たかもしれない。着陸しよう」


 上空から見下ろしていたその小型の宇宙船は、集団から少し離れた場所へゆっくりと着陸した。

 地上からも宇宙船が見えていただろうと思い、船長と乗組員は船から降りて、その場で少し待った。しかし、誰もやって来なかった。


「どうやら、お祭りに夢中で私たちに気づいてないみたいですね」


「ははは、連中の真上から降りてやればよかったかな」


「ふふ、驚かせちゃいますよ。攻撃してきたかもしれません」


「いや、『神様がきた!』って崇められたかもしれない。惜しいことをしたな」


「まあ、確かに。そうなれば、交渉も楽だったでしょうね」


 彼らの目的は、この星と友好関係を築くことだ。ただし、この場合の『友好』とは、地球側が優位に立つ関係のことを意味する。現在、地球は知的生命体が存在する惑星に彼らのような使者を送り、その資源や技術を獲得しようとしているのだ。


「まあ、地球から持ってきた贈り物があれば、すぐに打ち解けるだろう」


「ええ、そうですね。はあ……」


「ん、なんだ?」


「ああ、いえ、提供してくれた各企業に、また長々と感謝の言葉を述べなければならないなあと思いまして……」


「ははは、我々にとっての神様はスポンサーだな」


「ええ、まったくです。はははは!」


 二人で軽口を叩きながら、贈り物を載せた自動台車を連れて集団の方へ向かった。


「スママクラウ」

「ピピピルマウ」

「ノコムイダ?」

「アニ、モウジキ」

「トアタクルノニ!」 

「ラララジャナイカ」

「カンゲイラヌモ!」


 彼らを見た星の住民たちは驚いた表情で踊りをやめ、話し合いを始めた。翻訳機がすぐに住民たちの言葉を解析し、ものの数分で意思疎通が可能になった。


「――と、いうわけで、我々は地球という星からやってきたのです」


「いやあ、よくお越しくださいまシタ。歓迎いたしまスヨ。どうぞ、料理と音楽を楽しんでいってくだサイ」


「では、お言葉に甘えさせていただきます。我々の持ってきた食べ物もぜひお試しください」


 すぐに交渉に入りたかったが、郷に入れば郷に従え。祭りの最中に自分たちの都合を押し付けるのは得策ではない。二人はこの後の話し合いのため、まずは住民たちと打ち解けることを優先した。

 住民の服装や祭りの飾り付けから察するに、彼らの文化的水準は地球よりも遥かに低く、移動手段もおそらく車ではなく、馬の類だろう。取り込む隙はいくらでもある。便利な品を提供することで、彼らの資源や労働力を得る。簡単なものだ。

 しかし、そう見下していた二人は驚いた。


「船長、この料理……」


「ああ、美味い……」


「この果物も特に手を加えた様子はないのに、この味、驚きですね……」


「どうやら、資源に恵まれた星らしいな。我々は当たりを引いたようだ」


 二人は顔を見合わせて笑った。流れる音楽は独特だったが、耳にしていると体が自然と揺れ、楽しい気分になる。酒と周りの熱気、そして成功を確信した喜びが相まって、二人は踊り出し、やがて疲れ果てて眠ってしまった。


「……あれ、船長、ここは」


「んん、朝ではなく夜……でもないな。暗いが、住民の家か?」


 目覚めた二人は不気味な部屋の中にいた。壁には油を使った明かりが等間隔に並び、薄暗い光が浮かんでいる。


「というよりも、倉庫みたいな感じですね。ほら、見てください。ここにあるのは全部、食料じゃないですか?」


「ふーむ、状況がよくわからん。誰かを見つけて訊いてみよう」


 二人は立ち上がり、部屋を出て廊下を歩いた。かなり長い廊下で窓はなく、天井は低かった。


「船長、ここって地下じゃないですか?」


「うーん、確かに、寒い気がしてきたな……」


 次第に、二人の体が震えてきた。酒が抜けてきたのかもしれない。表情まで暗くなってきた。住民よりも出口を探したほうがいいのではないか。そう思ったとき、住民の一人が現れ、二人は顔をパッと明るくして、声をかけた。


「いやー、どうもどうも。昨日は楽しいお祭りに参加させていただきありがとうございました。ところで、ここはどこですか? 他の皆さんは?」


「ああ、大広間にいますよ。私も向かうところでした。一緒に行きましょウカ」


 二人は頷き、ご機嫌で住人のあとについていった。しかし、大広間に着いた二人は驚いた。そこには大勢の住民がいたのだが、皆、昨日とは打って変わって沈んだ顔をしていたのだ。


「あの、何かご不幸があったのでしょうか……?」


 乗組員が訊ねた。


「え? いえ、皆ただ動かないようにしているだけデスヨ」


「そうですか……でも、どうしてそんなことを?」


「お疲れになったんだろう。そうですよね?」


「いえ、お腹が空かないようにするためデス」


「ははは、昨日あんなに食べていたのに、面白い冗談ですね。ははははっ! なあ、ははは!」

「え、ええ、ははは……あの、出口はどちらでしょうか?」


「出口? ありますけど、ダメでスヨ」


「え、ダメとはどういうことですか?」

「おいおい、どうでもいいだろう。交渉がまだだ。族長に会わせていただこう」


「いえ、あの、出られないんですか? まさか、私たちを監禁するつもりじゃ……」


「いえ、出られないのは、今外が冬だからデス」


「え、冬? 冬ですか?」

「え、でも昨日は暖かかったじゃないか」


「ええ、この星は強烈な寒波の襲来によって、ある日を境に突然冬になるのです。今、この地下から外に出れば一瞬で凍り付くでショウ」


「で、では、私たちの宇宙船も凍って……」


「まあ、春まで待つしかありませんネ」


「ああ、なんということだ……」

「じゃあ、皆さんは、これから冬眠をなさるということですね? 春までこの地下で……」


「冬眠……いえ、我々は長期間眠ることはできまセン。食べ物は貯蔵していますが、全員が冬を越せる分はないでショウ」


「えっ、それなら、どうしてあんなに派手なお祭りをしたんですか? 食べ物は蓄えておくべきでしょう?」


「まあ、慰霊祭のようなものデス。派手にお祝いし、後腐れないよう、食べても食べられても恨みっこなしということデ……」

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