成り行きと残高
前話から引き続きちょっと重い話。
「、、、ロヴェルさん、取り敢えず雇い主が居れば街には居られるんですよね?」
「え?そうですね、キチンと商業ギルドに登録されて居れば問題ないです」
「ギルドの登録ってどんな物か知ってます?」
「二種類あるらしいです。ステータスを開示してスキルに沿った業務を登録する場合と商業ギルドに保証料を納めておく場合ですね。前者の場合は営業店舗の視察が含まれますが、後者の場合は貴族の代理人等が名義登録の為に利用します」
何か問題が起きた場合は保証料から対応するらしい。起業に失敗しても返金は無い為、後ろ盾のある貴族の代理人や、確実に軌道に乗る自信がある業務でないとこの方法は使われないそうだ。
しかし響は即決した。
「よし、金は惜しまん」
実は先程ロヴェルのステータスと周囲の人々のステータスを見比べた時に響は自分のステータスの十分の一以下だと判明したので下手にステータス開示は出来ないのだ。
「はい!?保証金は業務内容にもよりますが、最低限の保証の場合でも小金貨十枚はしますよ!?」
へぇ、と相槌を打ちつつ響は出しっぱなしにしているステータスの残高を確認した。何度数えてみても桁がおかしい。最初はこの世界の貨幣価値が解っていなかったけれど、通行税や宿代で何となく日本より少し安い程度だと解った。
つまり、数年は余裕で暮らせる金額だと言うのなら生活水準にもよるだろうけれど数百万から数千万―――此方の貨幣で変換すれば大金貨が数枚から数十枚だろう。
しかし、風呂敷は大判サイズである。家でテーブルクロス代わりに使った良い思い出ではあるが、それに包まれた貨幣が少ない訳がない。
【残高 2700000000コル(魔石2000コル)】
これどんな水準で生活したら数年で無くなるんだろうか、と若干遠い目になりつつ響は金額の心配はしなくていいと先程魔力創造で用意しておいた革袋から大金貨を一枚見せた。
ロヴェルは納得行っていない様子ではある物の取り敢えず頷く。それを確認してから響はロヴェルに問い掛けた。
「ロヴェルさんはもしかしてスケルトン、、、仲間達を助けに来たとか?」
「、、、はい。実は、スケルトンの中には時折『スケルトンの希望』と言う称号を持つ者が生まれるのです」
知ってます。ていうかステータスで見ました。
なんて言えないので神妙に頷いておく。
「スケルトンは基本的にスキルを持ちませんが、スケルトンの希望の称号を持つ者は特殊スキルを使えるようになるそうなのです。その為か、ステータスも上がり幅が他のスケルトンよりも多く、通常のスキルならば習得も早い。其処で若輩ながら私が参った次第です」
「スケルトンは後天的にスキル取得するのが当たり前なの?」
「えぇ。ですが、習得には短くても二十年、長ければ百年は掛かりますのでそれ以前に捕まる場合が多いのです」
「、、、因みにスケルトンの希望は?」
「、、、、、、、、、十年程、集中すれば、、、」
それ早いか?と思いつつも自力習得可能だったのなら余計な事をしたかもしれないな、と響は現状をロヴェルに伝える事にした。
とは言っても成り行き―――と言うか響の暴走による事故とも言って良い状況だったのでスキルを譲渡出来る特殊スキルを持っている事とそれをロヴェルに行った事を話した。するとロヴェルは自分のステータスを確認して赤い眼光をチカチカさせつつもしみじみ言う。
「、、、これは、、、成程、それで先程からエコー様に尊敬心が芽生えて居るのですね」
「ご、ごめん。スキル持ちじゃないと街に入れないって聞いて咄嗟に、、、」
「いえ、これはなんと言うか、、、憧れて居たスキルを手に入れられた事の喜びの方が大きいと言いますか、、、」
「憧れ?」
「実は先程申しました友人が執事をしていたのですよ。執事スキルはステータスの低いスケルトンにとっては夢の職業、、、かく言う私も彼に教わりつつ修行していたのです」
「へぇ、、、それならもう就職先とかも決めてるの?」
奴隷商の事もあるので、事情を知るロヴェルが執事として一緒に起業してくれれば助かるのになぁと思いつつ憧れの職業に就けそうな状況で引き留めるつもりはなかった―――のだが。
ロヴェルは徐に響の前で跪くと厳かな声で言う。
「どうか、私をエコー様の執事にしては頂けませんでしょうか」
「ん?良いの?じゃあ賃金は要相談って事で!相場知らないし」
「、、、よろしいので?」
「嫌なの?」
「いえ、、、ただ、スケルトンの執事は甘くみられる事もあるかと、、、」
嗚呼、そりゃそうだと納得する。恐らくだが一つのスキルの習得に二十年掛かるのならば同年代の執事と比べてもスキルの数は少ないだろうし、ステータスは低い。
見下し要素があれば其処を突いて来る輩は何処にだっているのだ。
「良いんじゃない?吃驚する顔が見れるだろうし」
「、、、え?」
「逆に聞くけどさ、スキルを複数持ってて、それが全部極まってる執事ってそんなに居るの?」
「、、、、、、、居ませんね。そもそも、執事スキルが極まっているのは王城等の侍従長位かと、、、」
「ハイスペックスケルトン!良いね、別の意味でもスケルトンの希望になりそう」
殆ど響の巻き込み事故(意訳)の所為なので正しくはないかもしれないが、運も実力の内が響の持論である。そして彼女は別に他のスケルトンの為に頑張った訳でもロヴェルの為に頑張った訳でも無い。
ただ、衰弱状態のロヴェルを放置して自分だけ街に入る事も、ロヴェルと共に城壁の外で一晩明かす事も拒否しただけだ。
やりたいようにやっただけなのにハイスペック執事が雇われに来てくれたのならば全力で出迎えるだけである。
そんな事を力説する響にロヴェルは暫し呆気に取られていたが、それも暫しの事。気付けばすっかり冷めて居た麦粥を頂きつつ、カタカタと骨を鳴らして響と意気投合していたのだった。
ストックが無くなって行く事に震える毎日です。。。