城壁都市
街に着きました!
日が落ちそうな頃に辿り着いた街は城壁都市、と言った風体である。ヘルプ機能によると街の出入りにはステータスチェックが必須らしい。簡易的に犯罪歴の有無を称号から調べるそうだ。
商人の称号を持っていると通行税が値引きされるらしいが、殆どの街で荷物の有無での減額制度があるらしいので空間魔法持ちには不要な称号である。
通行の為の列に並んで現在のステータスを確認する。
【エコー(25)】
職業 ―――
HP 60000/60000
MP 300000/300000
スキル 空間魔法(極)鑑定(極)言語理解(極)生活魔法(極)魔力創造(極)魔石創造(極)身体能力向上(極)無詠唱(極)神聖魔法(極)索敵(極)体術(極)交渉(極)執事(極)料理(極)礼儀作法(極)
特殊スキル 技能作成・技能譲渡・技能卓越
称号 九尾狐の愛し子
状態 通常
名前変更はステータスを弄って居たら出来た。この世界では呼びにくいらしい事と、本来の名前を知られると悪用されたりしないか心配だったから丁度良い。魔法のある世界だしね。
因みに“執事”と“料理”は何となく試してみたら出来た奴である。この世界で私がやりたい事を始めるに当たって必要な人材に持っていて欲しいスキル、と言う事で作ってみた。
流石に何の目標も無い状態で常識も違う世界にたった一人生きると言うのは辛い。其処で何をしたいか、何が出来るか考えつつヘルプ機能を読みまくった。
そして一つの事に気付いたのだ。
この世界では就職の際にスキルが重要になるらしい。と言うか“スキルしか見られない”のだと言う。
(でも、スキルってつまり才能だもんね。元の世界なら努力でどうにかなるとは思うけど、この世界じゃ努力すらさせて貰えないみたいな?)
この世界でやってみたい事。それは“人材派遣会社”だ。正確に言うと技術を渡すので指定する場所で働いて欲しい、と言う物。
上手く行くかは解らないけれど、取り敢えず試してみたい。どう頑張っても出来なかったらまた別の目標を探す。
そんな風に決意していると後方からふわりと風が来た。なんだ、と振り返ると其処には見事な―――骨が落ちて居た。骨格標本のような物がぼろきれを着せられて転がっている。、、、どう見ても“御遺体発見の瞬間”である。
驚きに固まって居ると先に居た集団が忌々し気に言う。
「なんだ、スケルトンかよ、、、」
「どうせスキル無しだろ?街には入れねぇだろうし、無視だ無視」
(、、、え?それだけ?もっとこう驚きないの!?)
困惑しつつヘルプ機能を開いて“スケルトン”と言う項目を調べる。いや、ワード検索出来るヘルプ機能とか凄過ぎない?
【スケルトン】
異形種。ステータス的には全種族最弱。だが集中力は高く、不老の為に何かを極めるのに向いている。
(ステータス最弱、、、?あ、ホントだ)
無詠唱スキルを使った鑑定スキルで周囲の人と見比べてみる。冒険者らしい先程の集団とはかなり差が大きいが、それ以外の非戦闘職の人と比べても半分なのだ。
【ロヴェル・ハルトン(27)】スケルトン
職業 ―――
HP 2/12
MP 20/20
スキル ―――
特殊スキル ―――
称号 スケルトンの希望
状態 瀕死(過労、外傷)
「、、、って、普通に危ない状態なんですけど!?」
危うく流す所だったわ!!と響は神聖魔法スキルで状態異常を消す事にした。
この世界では人間種・異形種・妖精種と分けられているらしいけれど、基本的に『人』だ。同じ人なら助けたい。別に目の前のスケルトンに恨みも何もないのだから。
しかし、正直に言えば響が神聖魔法を取ったのはホラー的な物に耐性が一切ないが故の行動だった。常時明るい部屋に居られる訳ではないのであれば対抗手段がなければ安心して眠れないと言う理由だけで創造したのだ。
神聖魔法の中に治癒や状態異常解除の魔法があったのはただの偶然であり、空間魔法のように試してはいない。
それでも極表示は確かなのか、無事に発動したようである。しかしかなり弱っていたからか、瀕死から衰弱に切り替わっただけだ。
(でも、衰弱だったら宿取って休ませて、ちゃんと食事させれば問題ないよね?)
ならばこのまま街に入って―――と其処まで考えて自分の番が迫って来ている事に気付いた。スケルトンは一人で来たのだろうか。周囲を見渡してみるが最後尾は響とスケルトンである。そろそろ日も落ちそうなので今日は面倒を見るか、とスケルトンに肩を貸しつつ響は少し開いていた列との間を詰めた。
現在通行税を納めているのは響の前に居た集団である。彼等は順番に通行税を支払い城壁の向こう側へ消えて行く。
その様子を見てふと先程の彼らの言葉を思い出した。
―――どうせスキル無しだろ?街には入れねぇだろうし、無視だ無視
(、、、え?もしかして、スキル無いと街に入れないの、、、?)
どうしよう、と思ったのは一瞬。直ぐに響は“技術譲渡”スキルを使った。
響は元々これを“不要な物を作ってしまった場合”の対策として考えて居たが、神から“消失”ではなく“譲渡”にして欲しいと言われた物だ。
改めて考えてみれば譲渡なら不要になったスキルでも誰かに渡せるし、そうすればスキル無しは減る、と言う事だったのかもしれない。
勿論、人以外にも譲渡可能なのは先程試したので本来の目的の消失も出来なくはない。まだ検証中なので断言は出来ないが。
譲渡を終えてスケルトンのステータスを見てみる。
【ロヴェル・ハルトン(27)】スケルトン
職業 ―――
HP 11/12
MP 20/20
スキル 生活魔法(極)交渉(極)執事(極)料理(極)礼儀作法(極)
特殊スキル ―――
称号 スケルトンの希望
状態 衰弱(睡眠不足)
どうやら問題は無さそうだ。、、、凄いハイスペック執事にはなったが、まぁなんとかなるだろう。
自分のステータスを確認して譲渡したスキルのみが消えているのを確認して安堵の息を吐く。それと同時に門番から声を掛けられた。
「次!、、、人間種、女の子と、、、スケルトンか?」
「はい。連れです」
「そうか。、、、大分弱ってるみたいだが、一応この水晶に触って貰えるか?」
心配そうにスケルトンを見る門番に響は先程の対応がこの世界共通ではなくて良かった、と少しだけ安堵する。
「えーと、、、私は大丈夫ですが、、、」
「嗚呼、こういう場合は水晶に触る奴が連れを抱えてりゃ一緒にチェックできるから大丈夫だぞ。ただし、その場合は何方か片方にしか称号が無くても二人共中には入れられねぇが、、、」
「わかりました。じゃあ私が」
そう言う事なら安心である。スケルトンの称号は『スケルトンの希望』のみなので罪人ではないだろう。
案の定チェックは直ぐに済み、門番がオススメの宿を教えてくれて其処に向かう。スケルトンは骨だけなので軽くはあるが、そもそも身長差と言うか骨格差と言うか、、、大きさの問題があり、運ぶ際に「身体能力向上スキルとっておいて良かった、、、」と思わず呟いてしまう響なのだった。
おや、漸く登場人物が、、、?