始動
漸く最初に想定していた分を書けました。
翌日、響はドリスとセルを連れて被害者達―――従業員達の下へ向かった。
今回もギリーが案内してくれて大部屋に入ると、数名は身支度を終えて居たが、動けそうにない人もいるようだった。
「あの、彼等は?」
「手荒に連れて来られたようでな、、、怪我をしていたり、暴れないように食事を抜かれていたようで衰弱している。スキル持ちだから、怪我さえ治れば直ぐにでも仕事を出来るんだが、、、」
その言葉を聞いて響は首を傾げそうになった。治癒魔法を使える人は居ないのだろうか?それともレベルが足りないのだろうか。考えて居るとギリーが悔し気に言う。
「司祭様が王都に呼び戻されなければ、直ぐに手当てして下さっただろうに、、、」
どうやら司祭様でないと治せないらしい。この世界にはポーションとかはないのだろうか?旅の支度をする際に魔力創造で作った分が幾つも無限収納にはあるのだが。
そっとヘルプを確認してみるとあるにはあるが、それなりに高価な物になるそうなので所持していないのだろう。
響は思案して、ふと思い付いた策を実行した。響は準備を済ませて居た面々だけでなく怪我で動けない人達にも聞こえる様に言う。
「それでは、今日から此方のドリス親方のお手伝いをして貰います。勿論、キチンと給金が出ますし、午前と午後に分けて仕事をして貰う事になります」
それぞれが話を聞いているのを確認してから響は続けた。
「それと、怪我人にはポーションを配布します。明日からは参加出来るでしょうけれど、午後からの仕事は無理のない程度で判断して下さいね」
シンっと部屋が静まり返った。
それもそうだろう、ポーションは冒険者が危険な仕事をする際、命を守る為の保険として高い金額を払い入手する物。もしくは貴族が使う物。それを、望んでなった訳ではないとは言え奴隷だった者に使う?
部屋に居た殆どの物は冗談だと思って居た。だが、ロヴェルは予め聞いていた訳ではないが響ならそうすると知って居た為に即座に動いた。
「では、私が必要な者に与えます。エコー様、ポーションをお預かりしても?」
「うん、よろしくね」
言いながら響はポーションを鞄から取り出す。部屋に居た全員がそれを食い入るように見て居たので鞄を作っておいて良かった、と心中で苦笑しつつ響はロヴェルに声を掛けた。
「モノクルで確認しながら使ってあげて。上級が赤、深い傷と内臓なんかは此方。骨折位なら中級の青で。栄養失調位なら初級の緑。解らなかったら衛兵さんに聞いたら良いよ。手当の知識はあるだろうし」
「はい。それではお預かり致します」
「よろしく、ロヴェル。それじゃあ他の皆さんは一緒にどうぞ」
颯爽と歩き出す響に支度を済ませて居た面々が慌てて付いて行く。被害者達も衛兵も須らく茫然とその背中を見送ったのは言うまでも無い。
ポーションは状態回復に特化した薬、みたいな認識で書いて居ます。