※ドリスの友
今回はドリス親方視点になります。
暫くして様子を見に来た女将に回収されて響とロヴェルは宿に戻ったので宴会は自動的にお開きになったのだが、親方―――ドリスは響が置いて行った酒の瓶を開けつつ上機嫌に設計図を引いていた。
飲み潰れた面々をソファーやらベッドやらに放り込み終えてから、それに気付いたセルが声を掛ける。
「父さん、何の図面だい?」
「ん?おぉ、、、セルか、、、なぁに、エコー嬢ちゃんの店だよ」
「嗚呼、まだ店は持ってないんだったね。でも、父さんが図面を引くのは何年振りだい?よっぽど気に入ったんだね。酒飲み同士の絆かな?」
「うるせぇ、茶化すんじゃねぇよ」
ほんの少しだけ目を逸らした父・ドリスにセルは笑顔を浮かべた。これまで、ドリスはスキル持ちの新人には偏屈と言われ、スキル無しの新人には弱みに付け込む輩だと思われて来た。それが外にも波及して、ドリス自身と付き合いの無い輩にとっては彼は偏屈で横暴だと思われている。
大工と言う職業は家を、人が安らぐ場所を作る事が仕事だ。
だからこそ丈夫で長く使える物に仕上げなければならない。
それにはいくつもの経験が必要なのだ。その経験の過程でスキルを習得する者も少なくない。だからこそドリスは“自身の経験を下に”新人を育てようとした。
結果、数名はキチンと育ったし、現在も働いている。中にはスキル無しだった奴も居るが、離職率の高さはどうしようもなかった。
酒が入って居たのもあったが、響がスキル無しを雇おうとしていると聞いてドリスはこの少女も自分と同じ道を辿るのか、それともただの施しになってしまうのだろうかと少々耳に痛い言葉を投げたのだ。
「嬢ちゃんはスキル無しに何が出来ると思う?」
それはドリス自身がスキルを習得するまで言われ続けた言葉だった。時に憐れむ様に、時に蔑む様に。
返って来るのは沈黙ばかり。慰めもあったが、内容は空虚過ぎて覚えて居ない。
しかし、響はごく当然のように言ったのだ。
「さぁ?個人次第ですからねぇ。と言うか、スキル無しスキル無し言いますけど、読み書きが好きなスキル無しと体を動かすのが好きなスキル無しじゃ全然違うでしょう?だったらその辺も考えないと」
「だが、結局はスキル無し、、、ただ好きなだけだ。それなら仕事にだけ集中させた方がスキルも覚えるんじゃないか?」
「まぁそうかもしれませんけど、、、逆に、好きな事が仕事になって、それに集中して良いって言われたら?」
嗚呼、と声が零れて咄嗟に酒を呷った。響は宴席の会話だからと唐突に途切れても気にせずにセルが用意したつまみを選ぶ。
ドリスはその言葉に深い納得と懐かしさを思い出した。
自分を雇ってくれた人がそう言ってくれたから、今の自分が居るのだ。
そんな風に考えたらついつい設計図を書いていた。
彼女が店を持つのは少なくともこの三ヶ月の後、そして仮契約の終わる頃。状況次第だろうが少なくとも半年は不要な物。人が集まるまでは細々とやって行くだろうし、半年どころか十年以上は不要かもしれない。
だが、いつかこの設計図が必要になる。
その時の為に最高の物を用意しておこう。我が友よ!!
酒の友は意外と情が深い。