※とある門番の驚愕
今回はとある門番さんの視点です。
住人から遠巻きにされる衛兵。仕事してるだけなのに恨まれる門番。それが彼の評価である。
仕事は真面目にこなしているし、それらの評価は所持スキルの所為だ。どうにも悪人善人関係なく威圧を与えてしまうらしい。
古い友人ですら偶に会った時はビクッとなっている。仕事中ならば絶対に反応しないと主張する友人に少し呆れつつも笑った。励ましに乾いた笑いを浮かべてしまう程度には彼は諦めに似た気持ちを抱いていた。
一対一で話して怖がられないのは余程格上の相手か、相殺出来るスキルを持っている場合だけだ。
そんなある日の事である。
スケルトンを肩に担いだ少女が街へ入る為にやって来たのだが、実を言うと彼は最後尾に並んでいたスケルトンが倒れる所を見て居た。
それまで少女は一切スケルトンに目を向けて居なかったのに(背後に居た為だが)倒れたスケルトンに手を貸して此処まで来たのか、と彼は面映ゆい気持ちになりつつ少女を威圧してしまわないようにいつもよりも柔く声を出した。
「次!、、、人間種、女の子と、、、スケルトンか?」
仮眠用のベッドに空きはあっただろうかと考えつつ問う。どう考えてもスケルトンは少女の連れではなかったからそう思ったのだが、少女はあっさりと言う。
「はい。連れです」
驚きと、同時に面映ゆい気持ちが再度沸いた。なんて良い子なんだろうか、と。
「そうか。、、、大分弱ってるみたいだが、一応この水晶に触って貰えるか?」
スケルトンを見る。大分弱っているのを見てもそのままでは通せないのが申し訳なく思った。しかし仕事である以上は仕方ない。
一応方法はあるのだが、本来の連れでない少女では出来ないだろうと考えていると少女は困惑気味に言う。
「えーと、、、私は大丈夫ですが、、、」
「嗚呼、こういう場合は水晶に触る奴が連れを抱えてりゃ一緒にチェックできるから大丈夫だぞ。ただし、その場合は何方か片方にしか称号が無くても二人共中には入れられねぇが、、、」
だからお嬢ちゃんだけでも、と言う前に少女は安堵したように言う。
「わかりました。じゃあ私が」
何の躊躇いも無く水晶に触れ、抱えて居るスケルトンをしっかりと支える少女。薄汚れた格好のスケルトンを見て此処までしてくれる人がどれ程いるだろうか。
(、、、こんな人が上に立ってくれてりゃ、彼奴だって、、、)
ほんの少しの感傷を押し留め、男は確認が終わった二人に通行税の金額を伝える。少女は自分のポケットからそれを出した。スケルトンの分もだ。
あまりにも優しい少女が心配になってついつい安全で安い宿屋を教えて居た。少女は何度か礼を述べてからスケルトンに肩を貸して歩く。仕事中でなければ少女の代わりにスケルトンを運んでやれたのに、と残念に思いつつ閉門の作業に取り掛かった。
そうして仕事を終え、家に戻って仮眠を取って―――気付いた。
「、、、怖がられなかったな」
もしや自分はスキルの制御が出来るようになったのだろうか?そんな淡い期待を抱きつつ衛兵の詰め所まで向かい、道を歩いていた子供に目が合っただけで号泣されて違うと理解した。
普通に考えてあの少女が相殺効果のあるスキルを持っていたのだろう。
であれば有能な人材になるのだろうな、とぼんやり思いつつ衛兵の詰め所に顔を出して装備を整えた。
今日は巡回担当なのであの少女でも探してみるかと仲間と二人で巡回ルートを進んでいると不意に声が掛けられた。
「もし、其方は昨日の門番殿でしょうか」
「ん?誰だ、アンタは」
声のした方を見てみると仕立ての良い燕尾服を着たスケルトンが居た。執事だろう事は服装で解るが、どう見ても商家の執事ではなく王城等で仕えている者なので声を掛けられる心当たりが無かった。
昨日担当していたのは平民用の入り口だ。と言うか、威圧の所為で貴族用の出入り口に配属された事は無い。
訝しんでいるとスケルトンの執事は懐を探って封筒を取り出すとジッと門番を見ながら言った。
「我が同胞とコボルトからの嘆願であり、そして情報です」
言われて即座に意味が解ってしまう位には衛兵として働いていた彼等は即座にそれを受け取った。手紙の宛名は門番自身であり、見覚えのある文字に慌てて封を切る。
「、、、くそっ!直ぐに上に報告だ!!執事殿、感謝する!!申し訳ないが詰め所まで同行して頂けないだろうか」
「勿論です」
詰め所では即座に救出作戦が立てられた。奴隷商は犯罪だが、奴隷自体は王家から領主や国に関わる事業を行う商人等に労働力として下賜する事があるのだ。
つまり、もしも奴隷商を押さえられなければ其方へも確認に行かねばならない。不敬を承知で、だ。
そんな事は一介の衛兵には出来ない為、領主が連絡をしなければならない。民にとっては優しく自分達の事を考えてくれる良き領主様だが、実は大分胃が弱い。そんな事態になったら間違いなく心労か胃痛かで倒れる。
なんとしてでも領内で解決させなければ!!と意気込む衛兵。執事―――ロヴェルも情報を提供してくれたので直ぐに動く事になった。
スケルトンとコボルトが総力を挙げて集めてくれた情報が的確だった為に裏付けは直ぐに済み、更にロヴェルの主人が一時的に彼等の雇い主となる旨を伝えたので後の憂いは無い。
作戦決行は明日にでも―――と言う所でロヴェルに礼を言って連絡先を確認したのだが。
「御紹介頂いた宿に居りますので御連絡は其方にお願い致します」
「、、、紹介?ロヴェル殿に?」
こんな上等な執事に紹介出来るような宿は予約制だろう。首を傾げる門番にロヴェルはカタリと骨を鳴らして笑った。
「えぇ。我が主に御紹介頂きました。身なりが代わっているのは主人の心遣いです」
「、、、は?」
まさか、と思いつつ目を丸くした門番にそれ以上の説明はせず、ロヴェルは颯爽と宿へ戻って行ったのだった。
実は諸々やらかしてる響さん。