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復讐は正攻法で  作者: コーヒー牛乳


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 休憩室にて。今日も自作弁当を自画自賛しながら食べていたら「今日も美味しそうなお弁当だね」と外ランチから戻ってきた人物に声をかけられた。


 二人が休憩室に入ってきた途端、オシャレな香りが無機質な室内を満たした。


「彩さん、中村さん、おつかれさまです。いつもの節約弁当ですよ」

「自炊なんてよくやるよねー彼氏にも作ってるんでしょ?偉すぎ」


 へへ、と中村さんの茶化しを照れ笑いで茶を濁した。

 お弁当を褒めてくれた彩さんは2個上の先輩で、私と同じく営業アシスタントだ。中村さんは営業部隊の人で今日もパワフルなオーラを発している。


「趣味なので。貯金が」


 中村さんの言う通り、一人暮らしだが自炊をして節約している。消費するのも一人なので毎日毎日同じようなメニューを食べ続けている。自炊で節約をしようとすると、連日同じメニューを食べるという忍耐力も試されるハードなものなのだ。


 なぜわざわざ一人暮らしなのに自炊をして、連日同じメニューを食べているかというと、私の生活にはもう一人”いた”なごりである。

 なぜ過去形なのかというと、半年前ほど前まではよく彼氏が家に泊まりに来たり、ついでに彼氏にも同じようにお弁当を作っていたからである。


 半年ほど前までは、である。


「まあ、貯金はあって困るもんじゃないしね。私と結婚しよ!」

「私には心に決めた人がいるんでー」


 あははと冗談にあわせて笑えていたのに、彩さんにはお見通しのようで心配そうな目を向けられてしまった。


 私の彼氏、三山辰己は取引先の企業の営業だ。

 取引先の人間ということで彼氏の詳細については誰にも知られないように気をつけていたが、コンビニで一緒にいたところを彩さんに目撃され知られることになったわけだ。


 ひとつ知られてしまえば決壊するもので、彩さんには何度も相談に乗ってもらっていた。

 ───例えば、結婚の話までした彼氏が半年ほど前から急に多忙になったりだとか。


 学生同士での交際経験しかなく、社会人の彼氏がこんなに多忙で時間が限られているとは思わなかったのだ。だから余計不安になったりもしたが、さすが大人の女性である彩さんは落ち着いて相談に乗ってくれた。


 中村さんの携帯が鳴り、休憩時間だというのに仕事に戻るらしい。その後姿を見送り、やはり営業職というのは多忙なんだなぁ、と彼氏である辰己と重ね落ち込んでしまう。


「森田ちゃん、この前の……あれ、どうだった?」

「……あぁ、あれですね……」


 彩さんが気遣うように声を落とした。

 ”この前の”とは、辰己から今日も会えないと当日の連絡が来て落ち込んでいたところを、彩さんが飲みに誘ってくれた時に漏らした出来事の件だろう。

 それは、辰己がテーマパーク内の美味しそうな料理の写真をSNSにあげていたことだ。30の大人が。テーマパークに。誰と?

 

「本人に聞いた?」

「いえ、聞けてないです……」


 実は私がSNSの類をやっていないと思い込んでいる辰己にはまだ写真について聞けていなかった。

 事実、SNSには疎かったが辰己が仕事を頑張っているのだからと手を広げた仕事の中で、SNSマーケティングに興味をもった。色々覗くようになってから辰己のアカウントを見つけるまでは早かった。

 なんだかいけないことをしているようで、その時は投稿内容までは見なかったが……会えない時間で魔が差し、つい覗いてしまったのだ。


 「やっぱり、何もなかった時に気まずくなるの嫌だよね……疑ってたのかーとかわざわざ喧嘩したくないし」


 さすが人生経験豊富そうな彩さんは私の不安をピタリと言い当てた。

 会えてないからこそ、会える時間は笑顔でいたかったのだ。私は心から笑えてはいなかったけど、二人の時間を大切にしたくて……。なんて、つまり逃げたのだ。目の前の問題から。


 しばらく考えていた彩さんが名案だ!と目を輝かせた。


「見に行っちゃうとか?」

「えっ」

「だって会えない日になにしてるか、聞けないなら確かめるしか無いよ!」


 そりゃ私も考えたことはある。辰己の家まで行っちゃおうかな、とか。

 お弁当とか、持って行っちゃおうかなとか。


 でも、迷惑って顔をされたらもう立ち直れないかもしれない。


「あー、もう、そんな顔しないの!」


 よほど情けない顔をしていたらしく、彩さんの温かい手が背中に触れた。


「そういえば●●駅直結のホットヨガスタジオのトライアル、一緒に行く日だけどちょっと最近体調悪くてさ、期限切れる前に先に行ってくれる?ごめんね」


 その●●駅は辰己の家の最寄り駅で。


 もう行く言い訳すら出来てしまった。これは腹をくくるしかないのかもしれない、意気込みと一緒にホウレン草の胡麻和えを口に入れた。


 少し前向きになった気持ちも、その駅ナカのスーパーで仲良く買い物を楽しむ辰己と女性を見かけたことで行き場を無くした。




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