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2ー②

─MMS格納庫


 英雄が本来指揮を執っているはずの職場には、いつもと違う光景があった。


「おはよう!おじさん」


 ツナギ姿で整備兵達に指示を出しつつ、シアが英雄に元気よく挨拶をした。


「おはよう……で、何してんの?」


 挨拶を返すと、英雄はシアに問いかけた。


「ライゲル達のメンテナンスはボクにしか出来ないから、ここを少し使わせてもらうお礼に、軍のMMS整備を手伝ってるのさ」


 と、言いながらシアは持っているタブレット型端末を操作する。


「それ、俺のパソコンじゃねえか!!」


 英雄は声を荒げる。軍の兵器について機密情報の詰まった端末を年端もいかぬ少女が閲覧しているのだ。しかも、端末は厳重なセキュリティで守られている筈なのにそれがあっさりと突破されているのだから。


「パスワードと網膜認証でロックしてあるのに、どうやって開けたんだ!?」


 英雄が問うと、ずいっ、とシアは顔を英雄の鼻先まで接近させる。


「おじさん、ボクの左目をよく見てよ」


 シアの言う通り、英雄が彼女の左目を注視すると、瞳孔がカメラのレンズを絞る様に大きさを変え、色も明るい茶色から黒へ変わる。


「これはおじさんの目のパターンだよ。血管すら寸分違わず再現してある。そして、こっちは…」


 と、シアが右目を指さすと、そちらは宝石の様に青い瞳へと変化した。


「これはユリーナの目を再現してみた。キレイだろう?」


 英雄は困惑し、一瞬言葉を失う。


「パスワードの方はね、こうやって…」


 と言うなり、シアは左の人差し指を英雄の眼前で垂直に立てた。すると、彼女の指先がUSB端子に変形してゆく。そして、その端子を英雄のタブレットに繋ぐと画面に触れる事無く、様々なアプリケーションを起動させてみせた。


「ボクの体は全て機械で出来ていてね。機械が相手なら電脳から送る信号で自由に操る事が出来るのさ」


 英雄は、昨日の戦いでライゲルに乗ったシアが乙型のコクピットを外から開けたり、エゲツナーロボの動きを強制的に停止させていたのを思い出した。


「君は……ロボットなのか?」


 英雄が問うと、シアはUSB端子に変化した人差し指を立て、チッチッチっと言いながらそれを左右に振る。すると、瞬く間にシアの指は元の人差し指に戻った。


「ボクたちヘテロティス人は、こういう生物なんだよ。産まれた時から機械の体さ。ロボットともサイボーグとも違う生命体だよ」


 まるでSF映画の様な話である。目の前にいる機械生命体を名乗る少女の見た目は、地球人とまるで大差無い。シア曰く、ナノテクノロジーなる技術で生物の細胞を模した機械が彼女の体を覆い、皮膚の役割を果たしているとの事だ。


「ヘテロティスではこの体で一生を過ごす以上、科学技術の発展は必要不可欠だった。だからこの世界の技術はボクにとっては、おじさんの御先祖様がチョンマゲを結って刀を差してた頃の文明レベルなのさ」


 シアはメガネのズレを直しながら言う。機械の体で視力は悪化しないのに何故メガネを掛けているのだろう、と英雄は思った。


「そんな技術力しかないのに、どうしておじさん達は一度エゲツナー帝国に勝てたのか、不思議で仕方ないよ」


 と、シアは腕組みしながら英雄の顔をまじまじと見つめる。


「それは、俺が『メサイア』とやらだからか?」


 と、英雄が問うと、シアはそれだと言わんばかりに英雄を指さした。


「オカルトはボクの専門外どころか専門の真反対だ。だが、ユリーナやえつ子、セリカ達と出会って信じざるを得なくなった。『救星主・ライマン』の伝説をね」


 シアが言うには、いくつも存在するパラレルユニバースには共通して、世界が終わりを迎えんとする時、ライマンの姓を名乗る者が世界を救うという伝承が存在するのだという。


「そんな話は聞いた事が無いし、俺の名字はライマンじゃなく『くるみ』だぞ…?」


 英雄が言うと、シアは持っていた英雄のタブレットでテキストエディタを立ち上げると、画面にでかでかと二文字の漢字を表示させた。


「おじさんの姓は、『来満』と書くね?えつ子のいた世界パントドンでもこの漢字というのを使う文化で、あの子の姓はこの字を書いて『らいまん』と読むんだ」


 英雄は、えつ子の着ていた忍び装束に『忍』『炎』等の漢字が書いてあった事を思い出した。名前も忍者の格好もよく考えれば日本と共通する文化だ。


「伝説なんてのは長い歴史の中で忘れられるものさ。ヘテロティスにもこの話を知ってる人は多くないからね」


 シアの話を聞いても、英雄は自分が特別な運命の元に生まれた存在だという実感は無かった。


「じゃあ、俺が三年前の戦いを五体満足で生き残れたのは、俺が『メサイア』とかいう存在だったからか?死んでいった仲間達はそうじゃないから死んだのか……?」


 その事実は、三年間英雄を苦しめてきた罪悪感を更に強める事になった。


「おじさん……」


 シアはうなだれる英雄を気にかける。しかし、


「……悩むのはナシだ!死んだ仲間達にはお前らの分まで生きるって墓の前で言っちまったし、セリカに約束したからな……彼女も、彼女のいた世界も救ってみせるってよ」


 英雄は顔を上げると、シアに向き直る。


「君達は俺を必要として違う世界から来てくれたんだもんな。女の子が大変な目に遭いながら来てくれたんだ。オッサンが弱音吐いてちゃ立場がねえよ」


 英雄の凛々しい眼差しに、シアは父の面影を見た。


「そうやって、立ち直れるところもメサイアならではなのかもしれないね。おじさんは体こそ生身でも、魂はまさに『鋼の精神』ってやつだ」


 冗談めかしたシアの喩えを軽く笑うと、英雄はハンガーの方に視線を向ける。


「こうして見ると、みんなの乗ってきたロボットはカッコいいな」


 英雄は、MMSとともに格納庫に並ぶ異世界から来たロボット達を見て言う。それを聞くと、シアは目を輝かせた。


「わかる!?ボクの父さんが造ったロボのカッコよさを解ってくれるなんて、いいセンスだよ!」


 シアは嬉しそうに目を輝かせて言う。


「シアの父さんがこれらを造ったのか?ヘテロティスの俺はすげえ奴なんだな」


 シアが言うには、彼女の父、インション・ライマンはヘテロティス1の天才科学者であり、あらゆる兵器を造り、そしてヘテロティスにおけるAIの反乱を鎮めた人物なのだという。


「ある日突然 、『エゲツナー帝国の襲撃に備え、3機のロボットを造れ』ってメッセージと一緒に設計図が送られて来たらしいんだ」


 シアの話を聞き、英雄は疑問が生じた。


「3機?」


 そう問うと、シアは黒い人型ロボットを指さした。


「幻舞だけは違うんだよ。というより、 その設計図を送ってきたのはセリカのいた世界で幻舞を造った人らしいんだ」


 しかし、事の詳細を知る男、インション・ライマンが既に死亡したため、 シアがロボット達について知るのはそこまでだった。 エゲツニウム炉を搭載し、 何故か英雄が手足の如く操縦できた謎のロボット・幻舞の鍵を握るのはセリカの様だ。


「父さんが死んで数日後にセリカが幻舞に乗ってヘテロティスにやって来たのさ。ユリ ーナとえつ子を連れてね。正直、あの子についてはボク達も解らない事が多いよ。でも、同じ魂を持つからこそ、信用出来るのは確かなんだ」


 さっきまで飄々としていたシアの声音と表情は真剣だった。 英雄も彼女らの様に、 異世界の自分に対面していたらどんな気分になったのだろうと、ふと考えた。


「「シアさーん!」」


 整備兵達がシアを呼ぶ声が聞こえた。


「ありゃ。 マシントラブルかな? ごめんおじさん。 ちょっと行ってくるよ」


 と、シアは整備兵達の元へと歩き出し、数歩の所で英雄の方へ振り返った。


「外にえつ子がいるはずだから、 彼女にも会ってきなよ」


 そう言うと、再びシアは駆けて行く。英雄は言われた通り、格納庫の外へ歩き出した。

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