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9ー⑦

「ここは……?」


 気が付くと、 英雄は闇の中で目覚めた。


「パパ!?そこにおるんね?」


 芹佳の声がする。 しかし、その姿は見えない。


「芹佳!無事だったのか!?」


「無事……じゃあないよ。ウチも、パパも」


「どういう事だ?」


「ウチは、ここに来るの2回目やもん……ここにおる、ゆう事はね……パパもウチも、今は魂しかないんよ。つまりね、体の方はとっくに「死んどる」のよ……」


 芹佳の話を聞き、英雄は黙したまま状況を整理する。 魂が肉体と別に存在する事は、自身の経験や、ユリーナから聞いたアストラルの話で充分理解は出来ていた。


「じゃ、じゃあ……」


『エゲツナーとの勝負の結果は相打ちってトコだ。でもまぁ、地球を守ったんだからお前のメサイアとしての仕事は成功だぜ?英雄』


 英雄と芹佳の視界に現れたのはヤンセだった。


「ヤンセ!生きてたのか!?」


『いや、死んだ。でもオレっちには元からモノホンの体なんてモノは無い。あん時にお前らと一緒に戦ってたのは、急遽こさえた仮の肉体だ。メサイアとしてのな……』


 英雄はヤンセが真剣な眼差しで話す事に、ただ事ではないと感じ、彼の話を聞く事にした。


『オレっちは、全ての平行世界を作った存在……一部の人たちからは「神」なんて呼ばれてるヤツさ』


 ヤンセ─全てを創りしものは続ける。


『エゲツナーの出現は、オレっちの想定を遥かに超えていた。オレっちは創る事が専門でよ、壊すとなったら全てを壊してまた一から創りなおさなきゃならねえ。だから、ヤンセ・ライマンという仮の肉体をこさえて、娘のヒナコと一緒にお前らに協力したっつーワケよ」


 変な言動の目立った、謎の親子の正体に英雄と芹佳は若干困惑する。


「なして、ウチとパパの魂だけを生かしたん?」


『その身を犠牲にして世界を救った奴らの末路が死んで終わりなんて、あんまりだろ!?物語としちゃ美談でも、オレっちはハッピーエンドが好きなの!!だからよぉ、英雄に芹佳……』


 ヤンセの顔が再び真剣になると、英雄と芹佳も黙った。


『オレっちはもう一度、全ての宇宙を創り直す。英雄……お前は再びエゲツナーみたいな存在が生まれそうになったら、止めろ!そして芹佳、お前は生まれ変わっても英雄を手伝ってやれ!!………あば よ!来世でも幸せにな!!』


 そう言い残し、ヤンセは二人の前から姿を消した。


「だってよ。芹佳……俺は生まれ変わっても、必ずお前の父親に生まれるからな!たとえそれが人間以外の生き物だとしてもだ!」


「そがな事ゆうて、鮭やカマキリに生まれ変わったらどがぁするんよ。ウチに会う前に死ぬるやないの!!」


 二人は笑った。暫しの別れを涙で締めたくはなかったのだ。


「「だんだん」」


 さようならではない、ありがとう。それが現世で交わした父と娘の最後の言葉だった。

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