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9ー③

─“何もない空間”


 キリンオーとエゲツナーが転移した先は、平行世界の狭間だった。


「ここなら誰にも迷惑はかからねえだろ」


 英雄は言う。ただでさえ強大な破壊力を持つエゲツニウム……その集合体たるエゲツナーには、惑星一つ消し去る事など造作も無いであろう事が容易に想像できた。


『自らの死に場所を此処に選んだというわけか……メサイア達よ』


 エゲツナーの無機質な声に、英雄達は返す。


「死ぬだと?俺達はなぁ、既に1度死んでんだよ!」


「アレの嫌なところは、痛いとか辛いとか、そんなもんじゃあない」


「妻と娘に二度と会えぬ……それが耐えられぬのだ!」


「二度と味わいたくはない!故に、我々は貴様に負けるわけにはいかん、全てをここで終わらせてやるぞ、エゲツナー!!」


 最後にヒーロが言うと、彼はコクピットの水晶に魔力を注ぐ。


「エレクトロポルスの雷よ!」


 キリンオーは額から魔法の電撃を放つ。しかし、エゲツナーにはまるで通じない。


「くっ…ならば、カンディールの群精!!」


 肩から連続ミサイル。


「大庵!!」


 指先からガトリングガン。


「ライゲルキャノン!!」


 大砲。


「幻舞、ブームスラングだ!」


 こめかみからマシンガン。メサイア達はそれぞれの乗機が備える実弾武装を発射し、ぶつける。


『無駄な事を……』


 弾丸の嵐はエゲツナーの表面を削るも、瞬く間に再生してゆく。


『目障りだ!!』


 エゲツナーは体の至る箇所から、エゲツニウムエネルギーの光線を放つ。


「ゲェーッ!?」


 慌てて回避するキリンオー


「想像以上にデタラメな奴だな……どうやって壊せばいいんだ?」


───────────────────────


 エゲツナーに取り込まれたヘイト・ライマンの意識は、今まさに消えようとしていた。


『ヘイト……我が宇宙のメサイアよ』


「誰だ……?」


『私はエゲツナーの…僅かに残された「善」の意思……ヘイトよ、我が片割れを止めるのだ……』


「止めろだと…?ぼくはもう、体も動かせないんだぞ……?今更何が出来る!それに、もう取り返しの付かない事を散々やってきたッ……」


『ヘイトよ、魂さえあれば次元の扉を開く程度の事は可能だ……我の残滓とお前の命、残り僅かなもの同士でも、合わせれば奇跡の一つは起こせるはずだ……」


「……わかったよ。ぼくにも、最期くらいメサイアとして力を使えるなら……」





_______________________


『ングオオオッ!!!?』


 キリンオーが攻撃から逃げ回る中、攻撃の主は苦しみ始めた。


「……何だ?何が起こってる!!」


 訝し気に様子を伺うメサイア達。


『ヘイト・ライマン!……貴様、何のつもりだ……』


「ヘイトだって!?」


「英雄!インション!ヒーロ!ギェロイ!聞こえるか!?」


「ヘイト! 生きていたのか!?」


 エゲツナーに取り込まれたオジャパメンの通信機から、キリンオーに音声が届く。


「ぼくは……君たちの命や故郷を奪った……その事実は到底許される事じゃない……だが、君達の勝利のために出来る事、それだけがただ一つの償いだ……エゲツニウムの善なる意思よ、開け!全平行宇宙の扉を!!!」


 ヘイトが叫ぶと、再びエゲツナーは苦しみ出した。そして……


「ヒデオ、あれを見てください!」


 キリンオーの左斜め上方に次元穴が開くと、中から金色に輝くMMS大の人型ロボットが現れた。


「オステオグロッサムより橙龍(タンジェロン)のメサイア、ヤンセ・ライマン参上だぜ!!」


 更に別の次元穴が開くと、中からは銀色のロボット。


「ア・ロワーヌより銀鯱(オルカ) のメサイア、エーロイ・ライマン来たわよ〜!」


 そして、次々と次元穴が開き様々な形状・色彩をしたロボット達が現れる。


「緑鷲 (アクィラ) のメサイア、ヒロアス・ライマン!」


「黄螺 (スネイル)のメサイア、イエホー・ライマン!」


「緋蓮 (ロタティオン)のメサイア、クラエー・ライマン!」


紫鱘(スタージョン)のメサイア、エンバハル・ライマン!」


茶猪(バビルサ)のメサイア、バヤニ・ライマン!」


……


 数多の平行宇宙から、それぞれのメサイア達が現れた。


「すげえ……こんなに、“俺たち” はいたのか……?」


「うむ、これだけの我々が集まればまさに千人力!礼を言うぞ、ヘイトよ!!」


 しかし、ギェロイの言葉にヘイトからの反応が無い。


「死んでるぜ、ヘイトは。オレっち達、全てのメサイアを集める為に力を使い果たしたんだよ……」


 ピンク色の髪をした男、ヤンセ・ライマンが言った。メサイア同士は互いの魂を感知出来る。エゲツナー帝国が執拗に英雄を狙って来たのも、ヘイトがこの能力を使ったからだ。


「……ヘイト、お前の分まで俺たちは戦ってやる……いくぞ、《《俺たち》》!アイツをぶっ壊して、みんなで家族の元へ帰るぞ!!」



    オオォーーっ!!!



 英雄の呼び掛けに、千人を超えるメサイア達は応えた。


『忌々しいメサイアどもめ……貴様ら全て、ヘイトの後を追わせてくれる!!』


 再び戦闘態勢となったエゲツナーに、メサイア達は向かってゆく………

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