8ー③
─???
何も見えない。聞こえない。匂わない。空気の流れも感じない。今の彼女には、目も、耳も、鼻も、体もないのだから。
「セリカ」
彼女の名を呼ぶ声がする。そうか、自分はそんな名だった。
「今の貴女は魂だけの存在。産まれてくる可能性すら潰されて、存在が不安定なの。でも大丈夫。あなたのお父さんは、自らの魂を未来に飛ばして、あなたとお母さんの記憶を持って元の時代に帰った……あなたの存在を取り戻すために」
謎の声の主は、セリカの魂に直接語りかけていた。その声の意味するところは、こうだ。
(ウチは……パパとママの所に戻れるの?)
「そうよ。あなたは生まれるべくして生まれた存在、救星主の娘。行きなさい、世界を救うために。そして産まれなさい、愛する両親の元へ……」
【待て】
謎の声とは別の声が、3つ重なりながら聞こえる。
【黒鼈の娘よ】
それは、青い竜、白い獣、赤い鳥の姿をした魂だった。
【そなたは時を駆ける事が出来るのだろう? ならば、我々が護れな かった救星主達を、消える前に連れてゆくのだ】
「死んだメサイア達を生き返らせて、揃えるって事?そんな反則までしなきゃ勝てないほどエゲツナー帝国ってヤバイの?」
謎の声は3つの魂とは旧知の仲なのだろうか。
【存在が禁忌ともいえる橙龍が何を言う。……セリカよ、黒鼈、蒼竜、白獣、紅禽のメサイアを揃えるのだ……】
そこで、彼女は目を覚ました。そこは見慣れたコクピットの中だった。
「……行こう、幻舞。みんなの所へ、そして平和な未来へ!!」
セリカの声に答え、幻舞は背中から紫色の光を噴き出し、飛び去った。




