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7−⑦

 それから、芹佳は順調に成長していった。初めて寝返りをし、初めて立ち、初めて歩き、初めて喋った時、いずれも英雄と奈菜は一 喜一憂した。


 芹佳が6歳の時だった。 休日に家でくつろぐ英雄の元に、芹佳は背中に何かを隠しながら近付いてくる。


「パパ!」


「何だい?芹佳」


 英雄が、読んでいた新聞を置いて芹佳に向き直ると、彼女の小さな両手には、ラッピングされた包装紙に覆われた物体が乗っていた。


「おたんじょうび、おめでとう!」


 我が事ながら、すっかり忘れていた34回目の誕生日を芹佳の差し出したプレゼントと言葉で思い出した。


「芹佳から、パパにか!?」


「うん!ママといっしょに、こさえたんよ」


 英雄は包みを丁寧に開けてゆく。中に入っていたのは紺色をしたシルクのネクタイと、


「これは?」


「ねくたいぴん!ママとふたりでつくったん」


 灰色と紫の金属片で作られたそれは、亀の甲羅を模ったものだった。英雄は、初めて贈られたはずのそれに既視感があった。


(これは、セリカが付けていた髪留めじゃないか)


 元の時間軸で会った、15歳に成長した姿のセリカが前髪を留めていたヘアピンと同じ物だ。


「ありがとう、芹佳。大切にするよ」


 芹佳は年を重ねるごとに、英雄の前で消えたセリカの見た目に近付いてゆく。彼女が15歳の姿になった時、今度は英雄の死という形で娘との別れが待っている。事前に知らされた運命を英雄はどうしても受け入れる事は出来ない。


「ママ、きょうははやくかえってくるかな?」


 奈菜は芹佳が小学校に上がるとともに、国防省秘密研究所にてエゲツニウムの研究に従事する事となった。リックもオーストラリア軍を辞め、富士研究所の所属となり、奈菜のサポートをしている。縁は香山の副艦長となり、艦長を務める霞の下で後進を育成。クリスは米軍で、タマは台湾で、再びエゲツナー帝国が攻めて来る時に備えている。愛する娘との別れを二度も経験してなるものか。そう思い、英雄は芹佳を抱きかかえていた。


「大丈夫。今日はママも早く帰って来るよ。それまでいい子にして待ってようね……」




―9年後


「パパ!パパってば!!」


 ボロボロのMMSメタルディフェンサー型のコクピット内で、満身創痍の英雄は娘の呼ぶ声を、ただ聞いていた。彼は再来したエゲツナー帝国との熾烈な戦いを来る日も来る日も繰り返し、ホアホーマの駆る「マウヤケソ」からエゲツニウム炉を奪取する事に成功した。しかし、老いた身には既に限界が来ていたのだ。 人は死ぬ間際、それまでの人生を走馬灯の如く振り返るという。英雄の脳裏に浮かんだのは、芹佳が生まれてからの15年だった。


「せり…か………」


 英雄は残された力を振り絞ると、芹佳の髪に彼女からもらったネクタイピンを髪留めとして付けた。その手を芹佳は握る。


「だんだん……」


 笑顔でそう言い残し、英雄は永遠の眠りに就く。来満英雄、享年43歳であった。


「嫌ぁっ!パパぁーーっ!!」


 英雄が元の時代で、未来から来たセリカの手を握った時に見た彼女の記憶……あれは芹佳が英雄の死を看取った時のものだった。


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