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4ー①

  2219年4月1日、奇しくもエイプリルフールのその日に、地球人は平行宇宙パラレル・ユニバースの存在を知る。そのきっかけは一言で言えば最悪だった。次元の壁を超えて現れた者達の名は『エゲツナー帝国』。彼らは『エゲツニウム』というエネルギー物質の力で次元穴ディメンションホールを穿ち、異世界間の移動を可能としていた。その目的は、侵略である。帝国は数多の異世界を征服し、吸収してゆく。そして、その魔手は遂に地球へと迫る。最初にアジア大陸へと現れた帝国は手始めにアジア最大の国家を一夜にして壊滅寸前に追いやったのだ。


 地球人は前代未聞の脅威に対し、国家間の結託を強める。各国の軍隊から人型機動兵器MMS(Machine Metal Soldier)のエースパイロットを集めた精鋭部隊を結成。その名はFull Force。世界各地で帝国との戦いに奔走したFFは最後の戦いを迎える事となった。


ー東アジア某所


 8月31日、照り付ける陽光は黄河の水面に反射する。人々が幾千の歴史を費やし様々な王朝が起こっては滅びを繰り返したこの地は異世界からの侵略者により終焉を迎えようとしていた。


「あっけないもんネ。ワタシの国に100年以上嫌がらせをしてた国が1日で壊滅寸前なんてサ!」


 目下に広がる荒野を見下ろし、そう言ったのはFF唯一の女性隊員、李玉美リー・ユーメイ。台湾民主国軍のMMS乗りだ。彼女の国の前身は約300年ほど前にこの大陸で建国された。しかし、その後に戦争と内戦の結果、台湾という島に追いやられ大陸とは衝突を繰り返してきた歴史がある。


「こんなにデカい国をここまで荒らせるんですから、僕の国も戦場になったら大打撃です。エアーズロックなんてビーム1発で吹っ飛んでしまいますよ」


 そう語るのはリチャード・マーリー、通称リック。オーストラリア国防軍からの出向者で、先住民族アボリジニの血を引く黒人の青年だ。


「じゃあ日本みたいな島国は国ごと無くなっちまうかもな」


「ユカリ、縁起でもない事言うなヨ!ワタシの国も島国ヨ!」


 黒めのジョークをツッコまれたのは瀬田縁せた ゆかり。日本国防軍のMMS乗りでお調子者の青年である。


「ユカリとヒデオの国はサムライの国でしたっけ?同じ国から二人もFFに入れるなんてヤマトダマシイというやつのお陰ですかね」


 リックが尋ねた相手は来満英雄くるみ ひでお。縁と同じ日本からの出向者で、英雄と縁は自衛隊学校からの腐れ縁でもある。


「大和魂か。でも俺はどこの国に産まれてたってただガムシャラに戦ってたと思う」


「ワタシの奶奶おばあちゃんも日本人だけど、お婆ちゃんになっても働いてたネ。日本人はガムシャラに働くのが好きなんだナ」


 ははは、と笑う縁とリック。


「この戦いが終わったら、俺は色んな国に行きたいな」


「しょっちゅう行ってるじゃん。こないだイスタンブールに行ったばかりだぞ?」


「任務じゃなくて観光でだ。そのトルコも戦闘と救助だけして帰ったろ?もっと、戦いを忘れて平和な世界を見て回りたいんだ……」


 英雄の声からは戦いへの疲れが窺える。


「リック、カモノハシはオーストラリアに行かないと生で見られないんだろ?」


「かものはし…プレアタパスの事ですね。実物は可愛らしいですよ」


「タマ、日本人が作ったダムはまだ台湾にあるのか?」


「烏山頭水庫ネ?八田與一は今でも台湾じゃ偉人ヨ」


 タマというのは玉美の玉の字を日本語読みして縁が呼び始めた名だが、いつの間にか部隊内で定着した愛称である。


「きっと行けるぜ。そのタメに最後の仕事を片付けちまおう!」


 と、縁が言ったところでもう一人の隊員が口を開く。


「みんな、お喋りはそこまでだ。そろそろ作戦空域に入るぞ」


 その男の名はクリストファー・ガーランド。アメリカ合衆国海兵隊からの出向者にして、FFの隊長である。


「無駄話をさせてくれるなんて、やっぱりアンタはいい人だよ。クリス」


「フン……」


 英雄の言葉にクリスは鼻を鳴らすのみだった。彼が隊長に選ばれたのは、アメリカという強国出身だからでも、年長者だからでもない。リーダーの資質を持った相応しい人間だからである。

 そして、今彼らFFの五名が居るのはアメリカ合衆国空軍所有の大型輸送艇『ドナルド・トリンプ』。そして、その中に立つ5機のMMSのコクピット内だ。


「クリス、エゲツニウム反応を検知しました!」


 リックが告げると、隊員達の表情が戦闘モードに切り替わる。


「よし、総員降下準備!……ヒデオ、お前がアメリカに遊びに来たら本場のマクダネルズを奢ってやろう」


「マクドか……ビッグマックは大好きだぜ。その約束、忘れんなよ?」


 クリスはフン、と鼻を鳴らし、MMSの右手親指を立ててみせた。


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