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1−①


─西暦2222年・静岡県某所、日本国防軍駿河基地


 戦闘訓練を終えた人型機動兵器『機鋼歩兵』 通称MMS(Metal Machine Soldier)、その日本国防軍フラッグシップ機・SRM-VS メタルディフェンサー丙型が 格納庫へと入庫してゆく。 全高15メートルほどの巨人達は、大きな足音に似つかぬ 精密な動作で整列を完了した。 3列横隊で並んだ計30機は最前列右端から順に胸部のコクピットハッチが開き、操縦していた兵士達が降りてゆく。


「来満大尉殿、点検お願い致します」


 機体と同じ様に整列したパイロット達は、ツナギ姿の整備兵達に相対し敬礼する。


「みんな派手にやってくれたな・・・・・特に5号機と17号機」


 整備兵達の長である来満英雄くるみ ひでおは泥とペイント弾のインクにまみれた 機体を見上げながら言った。


「はっ!申し訳ありません!!」


 5号機と17号機のパイロットである兵士二人は大きな声で謝罪した。


「謝らなくていい。 褒めてるんだ」


 英雄は続ける。


「メカが壊れたら俺らが全力で直してやる。 だが、俺達はお前たちの傷や命は治せない。だからお前達も全力でやれ。手ぇ抜いてやりやがったらハッ倒してやるからな!以上!!」


 英雄の敬礼に、 パイロットは答礼し、解散となった。


「先輩、今の方が例の......?」


 先ほど英雄から叱咤された兵士の内、若い方がもう片方に問いかけた。


「そう。”ヒーロー“だよ」


 後ろを振り返り 整備兵達に指示を出す英雄を一瞥した。

 三年前、まだ国防軍が自衛隊と名乗っていた頃、地球は異世界から現れた侵略者の手に落ちようとしていた。 敵の名はエゲツナー帝国。 彼らはエゲツニウムという、次元を歪めるエネルギー物質を使い並行世界への移動を可能としていた。

 それに伴い、帝国は他世界へ侵攻してゆく。幾つもの世界を破壊、吸収していった帝国だが、その進撃も地球で打ち止めとなった。来満英雄という男の存在が彼らに初めての敗北をもたらしたのだ。侵略者を退け、地球を救った英雄は世界的有名人となり、ヒーロー、教世主として讃えられる事となる。


「そんなスゴい人が何でこんな田舎の基地で整備兵を?」


 若い兵士の問いに先輩が答える。


「もう、乗れないらしいんだよ。MMSに……」


 二人の兵士達の会話内容は聞こえていないものの、おそらく自分の事を言って いるのだろうと、 英雄は感づき、軽く溜息をついた。 若い先輩兵士の言う噂はほぼ正解である。

 エゲツナー帝国を撃退した英雄ら世界各国の精鋭たちの内、生き残ったのはたった二人。その内の一人が英雄だった。 勝利と引き換えに仲間達を失い、 生き残ったばかりに賞賛より重い罪悪感と責任を負った英雄は精神を病み、体がMMSへの搭乗を拒む様になったのだ。


「情けねえ話だが今の俺には、こうやってこれから日本を守ってく人たちを支える事くらいしか出来ねえんだよ......」


 英雄はぼやきながら、 MMS達の損傷個所をチェックし始めた。

 その時だった……


「何だ!?」


 地震、いや空間そのものが揺れている。 鳴り響く轟音。 格納庫にいた者達は以前にも感じたその感覚を思い出した。


「まさか、 奴らが・・・・・?」


 英雄は遠くの空を見た。 太平洋上空に、紫色の稲妻が走り、円形の穴が穿たれ、それは徐々に広がってゆく。 3年前の戦いでしばしば見られた現象、 『次元転移』 である。英雄は自らの鼓動が早く、そして大きくなり、足元が震えているのが解かった。  そして、半径数キロメートルほどまで広がった穴から出てきたモノたちを確認した瞬間、体中に滲んでいた冷や汗は滝のように流れ出した。


「駿河基地全機、実弾を込めろ!!」


 英雄の声が格納庫に響く。


「ですが、 出撃命令がまだ......」


 整備兵達が言い切る前に英雄が続ける。


「そんなモン、待ってられっかよ!出せる機体は全て出せ!!MMSだけじゃねえ。 戦車も戦闘機もだ。」


 英雄が言った数十分後にスクランブル警報が響き、パイロット達が駆け込んで来た。それぞれ順次、準備の整った機体に乗り込んでゆく。


『各員に告ぐ』


 英雄は基地内放送用のマイクを手に取っていた。


「先ほど外で起こった現象は、間違いなく『次元転移』だ。そして、転移してきたモノは間違いなくエゲツナー帝国だろう。機体はいくら壊れても構わんが、お前たちは死ぬな。 以上!!」


 英雄の一斉放送は終わった。 今の言葉は先の大戦を戦い生き延びた男の発したものであるが故にパイロットたちの受け止める重みは違った。


『全機、発進します!」


 大型輸送機に搭載されたMMS達は戦禍の空へと飛んでゆく。それを目で追いながら、かつてのエースパイロットは拳を握り締め、見送るしかなかった。

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