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2ー⑩

 コクピット内が無言の静寂と重い空気に包まれたまま、キリンオーは膝まで海水に浸 かったまま。 浜へと歩いてゆく。 上陸と同時に歩みが止まると、あとは合体の解除を待つばかりだったが、


「セリカ・・・・・」


 静寂を最初に破ったのはシアの声だった。


「何でキミがエゲツナー人のハーフだって、黙ってたんだよ……」


 後部席のセリカには振り返らず、俯き気味に問うシアの声は震えていた。


「ごめんなさい。 だって、私はみんなの……」


 セリカが言い終わる前に、 シアは立ち上がり、 セリカの方を向く。その目には涙が溜まっていた。 機械人類であるヘテロティス人でも喜怒哀楽は存在し、感情に応じて涙を流すのだ。


「みんなの故郷と父親を奪った奴らの血を引いてるから─かい?でもそれはキミだって同じ境遇じゃないか!ボク達がそんな事でキミを疎むとでも思ってたのかよ!!」


 掴みかからんばかりの勢いでセリカに詰め寄るシアをえつ子と英雄が止め、ユリーナはセリカの肩と背中を抱くように寄り添った。


「落ち着けシア!お前の言いたい事も解るが、今は仲間同士で争ってる場合じゃないだろう!!」


 英雄が一喝すると、シアは操縦席に座り直す。


「そうだね……ボク達は仲間だ。 でも、ただの仲間じゃあないだろう!並行世界の自分同士、姉妹より深い絆があると思ってた…なのにセリカは大事な事を黙ってた!!」


 シアは突っ伏したまま嗚咽を漏らす。普段は冷静さと余裕を見せる彼女からは考えられない姿だった。


「……独りにさせてもらうよ」


 シアが左手を剥き出しの機械に変化させると、おもむろに操縦席のジャックに突っ込んだ。


「きゃあ!」


「ござる!?」


 突然の衝撃にユリーナとえつ子が驚きの声を上げた刹那、キリンオーの合体は解除され元の四機へと戻っていた。幻舞のコクピットから英雄とセリカが外を見ると、ライゲルは基地の方向へと走り出していた。


「行ってしまいましたわね……」


 ユリーナがドラガォンのコクピットから呟く。


「ライゲルの走りに追いつけるのはケツァールだけでござる。拙者はシアどのを追うでござるよ!」


 えつ子はケツァールのブースターを点火させると、疾駆するライゲルの元へ飛んで行った。


 幻舞の中には先ほど以上に重い空気が流れる。姉妹喧嘩に立ち会う父親はいつもこんなに大変なのだろうか─と、俯くセリカを見ながら英雄は頭を抱え、心に更なる悩みの種を植え付けられる思いだった。

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