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2ー⑦

「作戦を少し変更! ケツァールは単独で動いてくれれ!」


 英雄がえつ子に告げると、幻舞は跳躍し、スラスターからエゲツニウム粒子を噴出し、ホバリングする。 えつ子が了解と返事をするや、ケツァールは高速でその場を飛び去る。


「忍法火遁の術!!」


 えつ子が言うと、ケツァールの機首と4枚の翼が赤熱化する。 刹那、ケツァールは肉眼で捉えられぬ程の速度でエゲツナーロボの群れに突っ込んでゆく。瞬く間に3機のロボを真っ二つにするや、それらが上げた爆炎の向こうにケツァールが姿を現した。 ケツァールの機首と翼は、ヒヒイロカネなる地球上には無い金属で作られており、更に鋭い刃の様に研がれている。そして超高温に熱される事により触れるものを全て溶かしながら切り刻む攻防一体の兵器へと変わるのだ。


「俺たちも負けてられねえ。 セリカ、左手にブームスラング。 右手にコットンマウスだ」


 英雄の指示に応えたセリカは幻舞に武装を命じる。左大腿部から飛び出したサブマシンガンを左手に、右前腕部からは筒状のパーツが顔を覗かせる。 そして、幻舞は身を反転させ、右手を裏拳の要領で背後に叩きつける。 その先にはエゲツナーロボが回り込んでおり、幻舞の右拳は敵の眼前でびたりと止まった。


「コットンマウス!点火!」


 セリカが言うと、幻舞のアームカバーから顔を出していた筒がエゲツニウム粒子をバーナーのごとく噴き出し、エゲツナーロボの頭部を貫いた。 そして、幻舞の右脚が前蹴りの要領でエゲツナーロボの体を跳ね飛ばす。 そのまま更に後方にいた1体に接 触するや、2体とも爆発四散した。


 幻舞のアームカバーに隠された武器『コットンマウス』はヌママムシという黒い体色をした毒蛇の名でもある。 ビームのダガーナイフといった形状のその武器は、黒いロボットである幻舞の持つ毒牙の様だった。


「おじ様、セリカさん、このままではあの戦艦が完全に出て来てしまいますわよ!」


 ユリーナがミサイルをばら撒きながら言う。彼女の言う通り、今回は無人機の数が多すぎて敵戦艦に近づく事すらままならない。 まるでターン数制限のあるゲームじゃない かと、英雄は思ったが、笑えないジョークを口にする気はない。


「……ユリーナちゃん、シアちゃん、えつ子ちゃん、 『アレ』をやるしかないわ」


 セリカが言う『アレ』というのを英雄は知らなかった。


「アレ!?マジでやるの?っていうか出来るの? 」


シアが問う。


「まだ一度も試してないアレをですの?」


 ユリーナもシアに続き、半信半疑で返す。


「イチかバチかでござるな、アレは・・・・・」


 いつも陽気なえつ子が珍しく深刻なトーンで呟く。


「……アレって何なんだよ」


 戦闘の手を休めず、堪らずそう漏らす英雄。


「幻舞の…いえ、私達四機の最後の切り札とも言える武装です。それを使うには四機を一ヶ所に集めないといけません」


 セリカの説明でアレの詳細が解らなかったが、英雄は追及する事なく、親指を立ててセリカに見せる。これは英雄が戦いに集中するので指揮をセリカに一任するという意味のハンドサインだった。


「……ユリーナちゃんは今すぐシアちゃんの所へ!シアちゃんはライゲルキャノンでユリーナちゃんを援護!えつ子ちゃんは私達と一緒に敵を足止めしたら二人の所へ合流よ!」


 セリカの指示でドラガォンは浜へと後退する。それを追ってエゲツナーロボが迫る。


「やらせん!」


 ケツァールが機体下部に備え付けられたガトリング砲でドラガォンに迫るエゲツナーロボを撃墜した。


「親父殿!」


 ケツァールが幻舞の元へ飛んで来ると、英雄は幻舞を再びケツァールの上に立たせる。


「セリカ、ヤマカガシだ!」


 英雄の指示にセリカが応え、幻舞にヤマカガシの柄を執らせると、ケツァールが幻舞を載せた状態で移動を開始する。ケツァールの五つの刃と幻舞のヤマカガシ、計六つの刃は次々に敵を斬り捨ててゆく。


「よし、ここいらで俺達も後退だ!」


 英雄の合図で幻舞を載せたケツァールはドラガォンとライゲルの待つ浜へと向かう。


「……はて、奴らは何を企んでおるのだ?」


 戦艦のブリッジから英雄達の戦い方を怪訝そうに見ていたベーターは更に部下へ指示を出す。


「砲門も撃てる状態になりましたね?…さあ、あの目障りなメカ達を纏めて焼き払うのですよ!!」


 エゲツナー戦艦の主砲が合流しようとする英雄達の方へ向くと、エゲツニウムのビームが発射された。それは威力でブラックマンバのそれを優に上回る。


「お、親父殿ー!のっぴきならん匂いがするでござるよー!!」


 えつ子は獣人であるが故に鼻が利く。


「と、とにかく全力で逃げろ!!」


 さすがの英雄もこの事態には焦りを隠せない。そうこうしている間にビームが二機を掠めた。当たれば一巻の終わりであるそれは、すぐさま第二波が放たれた。


「させませんわ!」


 英雄達より先に後退を始めていたドラガォンがケツァールと幻舞の元へ飛んで来ると、二機を守る様にビームの矢面に立ち塞がる。


「ユリーナ、何を……」


 英雄がそう言うと、ドラガォンの機体が淡い光を放ち始める。


「生命の光よ、全てを護る楯とならん…マンチャ・デ・オーロの鏡!!」


 ドラガォンの周囲に光の壁が展開し、ビームを遮る。


「魔法の……バリア?」


 英雄が驚いた様に言った。ドラガォンはユリーナの魔法力により動き、ミサイルやレールガンを放つが、何よりもこの魔法によるバリアこそ、他の機体には無い唯一の防御能力でもある。


「わたくしがビームを食い止めている間にセリカさん、早く!!」


 苦しそうなユリーナの声を受け、セリカは幻舞に告げる。


「エゲツニウム・ドライブ全開!時元転移、起動!!」


 セリカが叫ぶと、幻舞のセンサーアイと背部のエゲツニウム炉が黄金色に輝き始める。そして、大気が揺れ、幻舞、ケツァール、ドラガォンの下に次元穴が開いた。


「みんな、この中に!!」


 セリカの合図で幻舞とケツァールは降下、ライゲルが浜からジャンプして飛び込み、バリアを解除したドラガォンが素早く次元穴へ入り込むと、穴は口を閉じた。


「消えた!?いや、逃げたのですか……?それよりも奴ら、エゲツニウムのエネルギーだけでなく次元転移までも使えるとは……まさか、あの黒いロボットに乗る娘……」


 対峙していた敵がその場を去った事によりベーターは次に取るべき行動を探る。そして、エゲツナー戦艦は次元穴から完全に姿を現した。

 

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