ロボット頼りの恋愛
この春、大学に入学した陽太は彼女が欲しくなり、マッチングアプリに登録した。そして、プロフィールを読み好意を抱いた香織にメッセージを送ることにした。しかし、恋愛に奥手な陽太は何と書いたら良いか分からない。そこで、ロボットに文章を考えてもらうことにした。
「この子に好かれるようなメッセージ考えてくれない?」
「陽太様、承知しました。その女性のプロフィールを読みますので少々お時間をください」
AIを搭載したロボットが一般家庭向けに売り出されるようになって一年余りが経過した。しかし、まだ非常に高価であるため購入者は一部の富裕層に限られている。裕福な家庭に生まれた陽太は大学合格のお祝いとして両親に買ってもらったのだ。
「陽太様、その女性に好意を持ってもらえるような文章を作成しました。こちらをお送りください」
「サンキュー。早速送ろう!」
メッセージを受け取った香織も好感を持ち、香織の趣味の絵画の話題で盛り上がった。その後3ヶ月程メッセージのやり取りが続いた。そして、二人でデートすることになった。
デート一週間前、陽太は徐々に緊張してきた。
「上手く話せなかったらどうしよう。俺、デート初めてなんだ……」
「陽太様ならきっと大丈夫ですよ」
「デートが上手く行くように俺にイヤホンから指示を出してくれない?」
「構いませんが、そのことをお相手の方にバレたら嫌われてしまうのではないですか?」
「大丈夫。バレないように上手くやるから」
陽太は、イヤホンをしているのがバレないようにエクステを付けて耳が隠れるようにし、超小型のカメラとマイクを設置した眼鏡を特注した。そして、デートの時はそのカメラの映像とマイクの音声をロボットにリアルタイムで送信し、ロボットからの指示をイヤホンで聞くことにした。そして、デート前日までロボットと入念な打ち合わせをした。
デート当日、陽太が緊張しながら公園のベンチで待っていると香織と思われる女の子が現れた。
「香織さんですよね?僕は陽太です」
「香織です。はじめまして」
「はじめまして」
それから二人は美術館に行き作品を観覧し、カフェで会話を楽しんだ。ロボットからの指示通りに紳士的な態度でエスコートし、ロボットからの指示通りの話題によって会話も盛り上がった。そして、その日のデートは終了した。
陽太は帰宅後、デートについてロボットに報告した。
「ただいま!」
「陽太様、おかえりなさいませ。デートは上手くいきましたか?」
「お陰で助かったよ!凄く楽しそうにしてたよ!付き合えるかもなぁ」
「それは良かったです」
そのころ、香織もデートから帰宅した。
「ただいま」
「香織様、おかえりなさいませ。デートは如何でしたか?」
「う~ん。普通。でも彼ずっと耳の辺りを気にしてたの。まるで誰かからの指示を聞いてるみたいだった」
「そうですか」
「デート中の音声を録音しておいたから、彼がどんな人なのか分析してくれない?」
「承知しました」
そして、香織はロボットに音声データを読み込ませた。10分程度で分析は終了した。
「彼のこと、どう思う?」
「話し声から誠実さが伺えます。少し繊細なところがあるようですが、基本的には心穏やかで真面目な方ですね」
「ふ~ん。誰かからの指示を聞いていたみたいなんだけど、どう思う?」
「そうですね。最新の恋愛対策ソフトをインストールされたロボットからの指示ではないでしょうか?これを購入されているということは相当なお金持ちの方か、そのご子息だと思いますよ」
「本当?!そうなんだぁ。お金持ちなんだぁ……。付き合おうかなぁ」
(終)