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魔法少女フェアリー・チュチュ

「そんなこと言われても……」


 困ったように指輪を見つめる美嘉ちゃん。

 他の二人も顔を見合わせて、難しい顔でそれぞれの変身アイテムを見てる。


 でもねぇ、そんなこと言ってる間にもねぇ。


 ―――オーーーーン


「え!? なんの声!?」


 智華ちゃんのテンパった声。

 ほぉーらお出ましだ!

 魔法少女といえば、そう! 悪役がいるわけでして!

 皆の前に、突然、どこからともなく一匹の狼が現れる!


「狼……!?」


 涼夏ちゃんが目を丸くしてる。

 絶句してた智華ちゃんも、ハッとして美嘉ちゃんを引っ張って後ろに下がった。

 でも、美嘉ちゃんは狼を凝視していて。


「まさか、ロイクさん……っ?」


 よくお分かりで!

 銀の毛並みに琥珀色の瞳。

 そう、あれはこのドリーム空間に支配されてしまった、美嘉ちゃんのヒーローの仮の姿である!


「はぁ!? どういうことなの!?」


 そのまんまの意味である!

 ドリーム空間に支配されてしまったヒーローの本来の姿を取り戻すためには、ヒロインズが変身して魔法少女になり、浄化の魔法を使うのが鉄板なのです!


「魔法使えば戻れるんなら……っ」


 唯一、異世界で魔法という力に目覚めた涼夏ちゃんが魔法を使おうとしますが、残念無念! 魔法少女の愛と魔法の力じゃないと、ヒーローの本当の姿は取り戻せません!

 智華ちゃんが驚いた顔になり、涼夏ちゃんは悔しそうな顔になる。

 そんな中、当事者な美嘉ちゃんといえば。


「……どうしたらロイクさんを助けられますか……?」


 胸の前で両手を重ね、決意したように尋ねてくる。

 いいね、いいね!

 それじゃあ唱えて!

 魔法少女に変身するための呪文だよ!

 それは―――


「トランスファー・アナザーワールド……っ!」


 美嘉ちゃんが呪文を唱えて指輪にキスをする。

 すると広がる変身バンク!

 ローズピンクの光に包まれた美嘉ちゃんの姿が変わっていく。


 足元にはリボンが膝まで長く巻かれたローズピンクのトゥシューズ。

 腕にも、指輪から伸びるようにローズピンクのリボンが肘まで巻かれて。

 髪も長く伸びてローズピンクに染まり、右耳の後ろあたりでくるりと小さなお団子、結ばれなかった髪はゆるくウェーブに波打つ。

 そして身にまとうのは、白を基調として、ローズピンクのグラデーションが可愛らしいオーガンジーを幾重にも重ねたチュチュのようなドレス!

 腰の後ろでひらめく大きなリボンがチャームポイント!


「―――魔法少女フェアリー・チュチュ」


 オーロラでできたガラスの羽のようなものが美嘉ちゃんの背中に一瞬だけ見えた。

 完璧に変身してみせた美嘉ちゃんに、智華ちゃんと涼夏ちゃんはあ然としてる。


「ロイクさん、私が今、行きます……!」


 美嘉ちゃんには銀の狼しか見えていないようだ。

 たん、たん、たん、と美嘉ちゃんはまるで踊るように跳ねて、狼に近づいていく。美嘉ちゃんが跳ねるたびに腰のリボンはひらひらと宙を舞った。


 狼は美嘉ちゃんのリボンに気を取られている。

 今だよ美嘉ちゃん!


「花開け、私の願い―――異世界へのグラン・パ・ドゥ・シャ!」


 美嘉ちゃんのドレスの腰元にあったリボンが、まるで妖精の羽のようになる。美しい羽を羽ばたかせて、美嘉ちゃんは狼をぎゅっと抱きしめた。


「愛してます、ロイクさん」


 羽が狼を覆う。

 美嘉ちゃんの囁きとともに羽が消えたとき、そこにいたのはアッシュブロンドの髪に琥珀の瞳をした、一人の騎士だった。


「ミカ……」

「ロイクさん……」

「愛している」


 騎士がその強面な表情に似合わず、柔らかく微笑み、美嘉ちゃんにキスをして、姿が消えた。

 おーおー、やりますねぇ!

 智華ちゃんと涼夏ちゃんが真っ赤だよ!


「消えた……?」


 突然消えたヒーロー・ロイクに呆然とする美嘉ちゃん。

 大丈夫、彼は浄化されて、一足早くこのドリーム空間から元の世界へ戻ったのさ!


「そう良かった……」


 ほっとした表情の美嘉ちゃん。

 でも残念。


 魔法少女のお役目はまだ残ってる!


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