Ⅵ 突然出来た果物屋と、其処に置かれたジュースの話.
店舗街のと或る一角に其処は在った。こじんまりとした、比較的目立たない、店構えにはやや不利かと思う様な、然しだがそうでもない其の構えは、悠々としていた。ゆったりとした構えだった。リズラが気に入ったのも、それだった。中へと入ると控え目に射し込む光も柔らかい。増々気に入る。敢えて云うならば案内して来た男に不満が感じれた位だった。他に気になる事等は、無かった。そして契約した。
だが其の店に今並んでいるのはリズラが用意した物々等では無かった。
店はしっかりと軒を構えて営まれていたのだ。“果物屋”として。
× × ×
「…………、なんで?」
リズラの苦言が聞こえた。横で和希は呻ったのだ。“ははは”と。
「…………ちょっと……?」
リズラは更に眉間の皺を深めたのだった。和希が底意地の悪い笑みを見せた。リズラはぞっとした感情を覚えた。背筋にぞわわっと走った其れに、思わず咳払いの様に、喉から意図せず音が洩れた。自分が引き攣れたのかと彼女は思った。それに大丈夫かと言ったのは、他ならぬ和希だった。
× × ×
彼等は場所を移動する事にしたのだった。××××××××××
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「おかえりなさいませ、和希さま。」と、
彼等を出迎えた者が、そう言った。リズラは息を呑んだのだった。何故か? 何の事は無い。出て来た人物に見惚れただけだ。××××××
「うん、ただいま」と“和希”は言ったのだ。リズラは思わず和希を見た。嫌睨んでいたのかもしれない。お陰で彼を出迎えたその女性に睨まれたのだった。辺りに冷気が漂った様な気がした。××××
「和希様? こちらの方はどなたでいらっしゃいますか?」
其の美しい女性の表情は何故なのか分からずにとても恐かったのだ。所謂殺気だった。隠す気も無い。睨まれて動けないリズラを救けたのは、又和希だった。“絵理撫ちゃん止めなさい”と。薄い笑みで彼は静止したのだった。其の女性を。
“絵理撫”は言った。「だって和希様、この方和希様の横を歩いていらっしゃるのですもの。」と。不満そうだった。
リズラは最早顔色も悪く、音すら聴こえそうな錯覚で、和希の方へと“ぎぎぎっ”と首を向けたのだった。
気が付いたのか如何か。和希の方はと云えば気にする風でもなく、平坦にこう言った。
「嫌、二人きりじゃないし。」と。
「それでもですっ!」
「……………、ベニば、んんっ、絵理撫は相変わらずだなあ……」と、和希達の後ろで一緒に此処迄来たレザード・ガイサースが溢したのだった。××××
「なんですか、絵理撫。端無いでしょう。おやめなさい。和希が困っていますよ」と、
其処へ更に美しい女性が現れた。美しいのは其の容姿ばかりでは無く、又其の身成もだった。更に云うならば其れは其の女性の高貴さを表すかの様に、彼女にとても良く似合い、いいや見合っていたのだった。
ゆったりした派手では無いが高貴なドレスと、品の良い装飾を纏いて、彼女は現れたのだった。緩く結んだ口許が更に美しい。切り取られた絵画の様に歩んでいた。そして“絵理撫”は言ったのであった。
「! 御母様っ!」と。××××
「アゲラタム様、戻りました。」
和希がリズラの横で言ったのであった。が、
「“御義理母様”よ」
「“アゲラタム”様………。」
「和希?」と。
不毛な遣り取りが始まったので在った。××××辛くも。
⁂ ⁂ ⁂
場所を変えて、リズラはやって来た“宮”の奥の部屋へと案内された。共に来た和希と、そしてレザードも一緒にだ。緊張し捲るリズラを他所にして、和希はのんびりと、然しに優雅にも茶を愉しみ始めたのだった。××××
説明は今の所、一切、無い。
ガイサースにて店舗の件で、レザードに取り調べをされる様な羽目に為ったリズラだったのだが、其処にひょっこりとやって来た和希の話を聞いたレザードが納得をしたのか、騎士の詰所の様な場所からは解放されたので在った。けれど晴れて自由の身とは行かなかったのだ。和希とレザードに連れられて、理由の分からぬままに、此処迄来たので在った。其れが今此処にいる、経緯だった。
因みにだが彼女は今ガイサースでは無く、隣国ハナに連れて来られた訳なのだが、全くを持って、気付いてさえいないのだ。勿論なのだが。
「和希さま、これもお願いします」
と。
先程の女性、“絵理撫”と呼ばれた女性が部屋に戻って来ては、茶請けだと思う菓子の様な物を運んでいた。後ろからは、侍女が来た。そう、侍女だ。どう見ても。リズラはそう思った。けれど、事実を確認する事が怖く、口篭った。出されたらしきお茶にすら、手を付けられなかった。椅子に腰掛けたまま、微動だに出来ずに今に至るのだった。
和希が言った。
「あー、全部美味いよ。大丈夫だよ」と。意味がわからん。リズラは思った。××××
「まだです!」
「大丈夫だって」
「まだ!」
この繰り返しだった。
だからリズラは思ったのだ。“意味がわからん”と。××××
× × ×
改めて紹介されると、女性は和希の、“嫁”だった。…………うすうす、気付いてた。リズラはそう思ったのだ。××××××××
「で、だね、“リズラ”さん。」
やっと和希の説明が始まったのだが、リズラは出来る事なら違う事実の解説をして欲しかった。“ここはどこ?”と。
つまりどう頑張って考えても、此処は王宮な様なのだ。××××××××
⁂ ⁂ ⁂
「え? 此処? “ハナ”だけど?」と、やっとの思いで絞り出した声に返って来たのは、とてもしれっとした回答だった。××××
つまり。
「うちの絵理撫ちゃんの“実家”、でさ」ーーだ、そうだ。
リズラは何故だか、脱力を感じたのだった。“お姫様かよっ”と。
だが。
「ん? 絵理撫ちゃん“脱姫”したから、もう“一般人”だよ。俺の嫁さんになっちゃったのでね。な〜?
絵理撫ちゃん。」と。
「はいっ」と。
のほほんとしていたのだった。レザード・ガイサースが何か呟いていた。××××
そして、
漸く本題に辿り着いたのだ。
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「……………わたしの、偽者?」と、リズラは言った。
「偽者云うか“似てる”んだろうね。な? レザード君?」と、和希が言った。
「あ……………、似てるというか…………。」
つまり。
「ベニっ、んんっ、すまない、なあ、絵理撫、“リーズレット”の事なんだが………」と、レザードは言い出したのだ。
問われた絵理撫は小首を傾げた。“あら?”と。
「“リーズレット”の、ことでしたの? この子とは、似ていませんでしてよ?」と。
「いや、そうじゃないよ。リーズレットって確か、“幻惑”が得意だったろう?」と、レザード・ガイサースが言ったのだ。
つまり、
「? 違いますわ、レザード。それは“従姉妹姫”の、方ですわ」と。××××××××
ガイサース王国、と或る店舗街の、一角の、と或る店で。
十七程の年頃の娘が、軒先で果物屋を営んでいたのである。茶色の髪と、瞳で。××××××××
野菜ジュースを、売っていたのだ。“リーズレット・フルーツ×パーラー・ベジタブル・イン”という店で。××××××××××××××××××××××××好評な様だった。
勿論其の店舗を世話したのが、和希だったのだ。××××××××彼は“マザー・リーディア”に、頼まれたのだ。
「マザー・リーディアに?」
問われた和希は頷いたのだ。そもそもだ、リズラは疑問だった。だから彼女は其れを今口に出してみた。マザー・リーディアの事だ。彼女は何者なのだろうと。
呆れた顔の和希の答えが、戻って来たのだった。「嫌だから“マザー”だよ」と。リズラはだから思ったのだ。
勿論、“…意味がわからん”と。




