第5話変化の予兆
付き合うかどうするかに時間なんてかからなかった。本当ならきちんとした手順を踏んで、見極めなきゃいけなかったんだけど、表の彼の姿に惹かれて付き合う事になった。彼は自分では世話はしないのに、動物が好きで、私達はハムスターを飼う事にした。白いもふもふのロングヘアーハムスターという品種に一目ぼれをしてしまった。見に行って即、家族になった。
性別は男の子でのんびり屋さん、少し臆病でもある。つぶらな瞳が印象的で、
少しの仕草が可愛くてデレデレ状態になった。こうも可愛い可愛い、言うけれど世話を殆どしない。台風からあたしの部屋に転がり込んだ彼は仕事もせずパチンコばかりだった。
負ける日もあるし、本気で稼ぐ気がないのなら働いてほしいと伝えたがすぐに機嫌が悪くなり、女の人と通話をするようになった。毎日毎日、喧嘩の日々が続いたけど、別れる事はなかった。
最初の印象が忘れられないあたしは、彼がいつか真面目になってくれる事を信じていた私は、自分の考えに自信を持っていたから、先を考えてなかった。好きだけではやっていけない、それに気づくのは先の話。
「言い過ぎた、ごめんね」
「いや俺のほうこそ言い過ぎた」
「……」
「ハムスター可愛いね、何て名前にする?」
「そうだなクリームとか?」
「いいね、可愛い」
ハムスターの存在が私達をつなぎ留めてくれていたのかもしれない。クリームを見つめる瞳は優しくて、彼の横顔を見て、安心していた自分がいる。こういう付き合い方ってどうなのかな? あたしは好きだけどこうは本当にあたしの事、好きなのかな、と不安に思う事も多い。それでも少しの優しい部分に触れると、満足している状況だった。
言い過ぎたとはいうけれど、謝る事はない。途中で気づいたんだけどプライドが高いみたい、ほら、いるじゃない? 自分から謝れない人、そういう感じに近かったと思う。こうの場合はあたしが謝っても、誤魔化すだけなんだけどね。
それでも彼とクリームと過ごす日々が当たり前で、空気のような存在になっていた。勿論依存もしてた、彼がいないと不安定になるし、寂しくもなるから、好きだった。
夕飯の時間になると、仕事から帰宅したあたしは帰りに買い物をして帰宅するか、こうと一緒に行くかのどちらかだった。なるべく美味しいものを食べてもらいたいから、料理が苦手だったけど頑張った。
自分の為じゃなくて人の為にご飯を作ると食べてくれる姿を見ていると嬉しくなった。上達していくと、時々褒めてくれるのが嬉しくも思えた。
「今日の夕飯はうまいよ」
「本当に? よかった」
「料理うまくなったよな」
「壊滅的だったもんね」
貧乏だけど和気あいあいとした食卓。これがずっと続くんだと思ってた──