S12(another story)
それは東京都にあるビルの一室での出来事だった。靴型の機械が突如として青白い光を放ってその口を開ける。
靴の中に入っていたのは一人の少年だった。年齢はいくつだろうか。中学生くらいにも見えるし、小学生くらいにも見える。そんな年頃の子だ。
「くっそー負けた」
だけど少年は虫の居所が悪いのかその幼い顔をしかめている。
「敵軍は倒したのでしょう?ならあなたの勝ちじゃないですか」
そんな少年に物を言うのはこれまた男。だけど幼い少年と違い背は高く整った顔つきをしている。
「ガーデック10体で殴りこんで生き残ったのは一体だけ。しかもお目当ての子には逃げられるし、実験場ついでのキャンプは壊滅。これのどこが勝ちだって言うのさ」
男の意見に対して全身を使って少年は抗議する。それほどまでにガーデックが破壊されたのが悔しいのだろう。
「でも、実験データは保護したのでしょう?」
少年に手を差し出しながら男は問う。
「まぁね。流石にガーデックとホーネットの同時操縦は人間には無理だね。絶対に遅れが出る。リンゴで脳みそ弄っても駄目だね。それどころか死ぬ」
男の手を受け取りながら少年は靴型の操縦席から出てくる。その表情はさっきと打って変わって随分と大人の目をしていた。
「なにより痛いのがやっぱり人間の指揮官だとどうしても余計な情報が入る。向こうのS4みたいに指揮官型アンドロイドがいる。開発急がせて」
少年の指示を受けて男はタブレット端末を操作する。恐らくそこから指示を飛ばしているのだろう。
「あとリンゴはもっと使いやすい形にして。飲み方も効果もね。でないとアンドロイドが指揮をしてもついてこれない兵が増えるだけだ。いくつか適性に分けてリンゴを作るようにしよう」
少年はテキパキと指示を飛ばしながら部屋を後にする。その姿には気品すら感じる。実際廊下には大人も含めた様々な人間がいたが皆少年を見た瞬間に頭を下げる。少年はこの空間の王だった。
「Sシリーズの捕獲はどうされますか?」
「引き続き継続。だけど例のごとくS2とS4は捕まえようがないからS12に絞って作戦を継続して」
「…末っ子の方は捕まえられそうですか?」
男からの質問を聞いた瞬間少年はそれはもう心底嬉しそうな表情をした。
「そりゃあもう!まず話が通じるからね!」
これまで少年は作戦行動中色々なところでSシリーズに遭遇してきた。その中でも特別厄介だったのがS2とS4。今はもういないがS2の姉である長姉、S1も中々に厄介だった。彼女たちは良くも悪くも完成されていた。S12と違い悩むことも苦しむこともなく目的遂行のために行動を行える。そんなアンドロイドだった。
おそらくS12のような状況に陥ったら彼女たちはグレイブのメンバー諸共自爆しただろう。敵に情報を与えずなおかつ最高の結果を残すために自爆を選択する。そういった選択をためらわずに行えるアンドロイド。それが今まで少年が見てきたSシリーズだった。
「あの子ちゃんと人の話を聞いて物事を考えるんだよ。Sシリーズに限らず全てのアンドロイドは決められた目的のために最善を選ぶのにあの子にはそれがない。自分で目的を考えるんだ。考える頭を持っているアンドロイドってだけでも貴重なのに加えて稲垣博士が手掛けたSシリーズ。捕まえない目的がないよね!」
まるでお気に入りの玩具を見つけたときのように少年は楽しそうに話す。
「ですが人間の体でSシリーズの捕獲は困難かと思われます。Sシリーズの戦闘能力は並みのアンドロイドより強いです」
「まぁね。数は作れないけど一体で無双の強さを持つのがSシリーズだからね。しかも強くなるし。だから捕まえるなら今のうちだろうね」
少年の言葉に男は呆れかえる。その捕まえる手段がないと話しているのにこの少年は結果だけを見て話しているからだ。
「そんな顔しなくても手段は作ります!とりあえずガーデックを改良しよう。今のままだと使いにくい」
「どのようにいたしましょうか?」
「数をバラまけるように小型化して。あと戦闘用と諜報活動専用の二種類に分けよう」
「分かりました。研究員に伝えておきますので詳しい話はまた研究所でお願いします」
廊下を歩き終えた二人はエレベーターに乗り執務室に向かった。
「うわっ今日も仕事多いね」
執務室についた少年を待っていたのは大量の書類の山だ。これでもかというくらいの書類が置かれている。
「前から言ってるけど書類は電子媒体の方が余計なコストがかからなくて良いよね?」
「そうは言いますが人間というのは書類を求める生き物なのです。なにより目に入りますから」
言外に電子媒体だと読まないと言われているのだ。その言葉に思い当たるところがあるのか少年は返事を詰まらせる。
「別に…読まないわけじゃ…」
「そう言うなら今日はこの書類からお願いしますね?」
そう言って出されたのはやたらと分厚いファイルに包まれた書類だった。
「要望書か。自分で叶えろって放り出すわけにはいかない?」
「そうはいきません。この国を乗っ取た際に抱えている負債を解決するのは為政者の務めです」
「どうせこれから何人も死ぬのに?」
「それでもです」
少年はため息をつく。この国は経済格差が大きすぎた。そのため少し煽っただけで合理派なんて組織が出来上がったくらいだ。
加えて人口も多いせいで民の不満は大きい。大きすぎるほどだ。それがあちこちでくすぶている。
「大企業を解散させて富の分配を行って余計な食い扶持は戦争に出す。こんだけやってもまだ不満は出てくるのか。嫌になるね」
「それも分かっててこの国を奪ったのでしょう」
「どうせ戦争に勝つまでの辛抱だからね」
そう言って少年は書類と睨めっこする。その姿はさっきまで軽口を叩いていた人間と同じには見えなかった。
「集中している最中に悪いですがお姉さまとお兄様の方があとで会議をしたいと仰っていました」
「いつ?」
「本日の夕方頃がよろしいと」
「姉さんの方は知らないけど兄さんの言いたいことは想像がつくなぁ」
そう言って少年は苦笑いをした。
「まぁ恐らくあれでしょうね」
「あれだね」
そう言って二人は大きく息を吸う。
「「自由派なんて早く核で滅ぼしてしまえ!」」
二人は互いを笑い合う。
「でも…こうして戦争行為を続けているといつか民からもその手の声は上がってきますよ」
すぐに笑いを収めた男に対し少年はまだひたすらにケラケラと笑い続けている。
「そうだねぇ…でもねぇそれをすると確実にうちも報復されるからねぇ。流石にそれは困る。そんな滅び方は望んでない」
「では…」
「うん。そういう意見が出たらこっそり始末しておいて。兄さんにはこっちで話をつけるから」
そう言った少年の目は険しかった。実の兄に対して思う所があるのだろう。その目は敵を見据える目をしていた。
「まだまだこの戦争を楽しまなきゃいけないんだ。そう簡単にこの戦争は終わらせないよ。あっ今回潰れた実験場にまた兵を補充しておいて。今回の補充パターンはメールで指示をするから」
「かしこまりました。それでは私は軍部の方に顔を出してきます」
「うん。兄さんによろしく言っておいてね~」
こうして一人になった部屋で少年はまた一人書類と睨めっこする。だけどその集中はときおり途切れる。
「S12か。強かったなぁ。今度はちゃんと戦いたいなぁ」
それはまるで恋する乙女のようだった。書類を置き何度も端末で今回の戦闘のデータを見ている。
「君の家族を殺してごめんね?でもまた迎えに行くから、その時はまた遊んでね?」
そう言った少年は笑った。それはそれは楽しそうに。大きな声で遠くのS12にすら届くかと思うような大きな声で少年は笑っていた。




