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シャーリー  作者: カメレオン
サブエピソード
46/47

S12後編⑫

 大変お待たせしました。こうして遅くなったのは…一言で言うなら新卒シーズンって忙しいよねってことで一つ納得していただければと。

 あとは作者の愛犬が血便したりと色々あったのですが…いつも決まった時間に増えるPVを見て申し訳ない気持ちばかりが募ってました。本当に重ね重ねお詫び申し上げます。

「逃げろ!」

 隊長が叫ぶ。ガーデック達が地下室の窓を破ろうと走ってくる。それを見て私たちは全力で逃げだしていた。一人を除いて。

 「もう終わりだ…僕は今まで何のために…」

 一体何を見たのかさっきまで意気揚々と情報漏洩をしていた護衛兵はブツブツと言葉を発しながらそこを動こうとしない。

 「お前も来い!」

 私は護衛兵を無理やり引きずるが動こうとしない。ガーデック達はすぐそこまで迫ってきていた。

 「ちっ!仕方がない。置いてくぞ!」

 隊長が私の手を払い私を無理やり引っ張る。

 「でも…隊長」

 彼は貴重な情報源だ。それを置いていくなんてことは考えにくい。

 「あのな!こっちが死んだら意味がないんだよ!相手は戦車一台使って倒せるような化物だぞ。足手まといを残すほどの余裕がないのはお前が一番よく知ってるだろ!」

 隊長の言うことは尤もだ。だけどどこか納得が出来なかった。きっとこれを情というのだろうか。

 思わず後ろを向けばそこには相変わらず呆けた姿の彼が。窓ガラスが割れガーデック達が無理やり侵入してこようとする。だけど窓ガラスにガーデックは入れるほどの大きさはない。

 銃身が回る音がした。ほんの少しのための後に彼は綺麗にはじけ飛んだ。私はその光景をただじっと見ていることしか出来なかった。

 どうせ殺すつもりだったのに自分がこんな感情になる理由が今は分からなかった。



 地下室の廊下を走り抜け梯子を上がる。上に居たガーデックは動いてないようだった。

 「このまま逃げるぞ!作戦は中止だ」

 「本隊が来ても勝てませんか?」

 「分からんが本隊も化物とやりあうリスクと俺たちを助けるリスクをちゃんと天秤にかけるさ」

 二人でキャンプ地を脱出するために走る。徒歩だとあいつらに追いつかれる。バイクか車が必要だ。

 「私たちは見合ってないと?」

 「そりゃ指揮官ぶん殴るアンドロイドと小隊一個を助けるのに戦車10台分の戦力とやり合うことになるんだぞ?俺が指揮官でも助けは出さんさ!」

 それは事実だが腹が立つ話だった。

そしてバイクの類は見つからない。流石に怪我人を抱えて走るのは勘弁したいところだ。

 「じゃあどうやって逃げます?」

 「戦車って言いたいが機動力の面で不安だな。なにより二人で運転しても逃げ切れる自信がない」

 「となるとバイクですかね」

 「あぁ。どこかに第二陣が使ってたやつがあるはずだ。それが無事ならそっち使うぞ。ない場合は最悪戦車だな」

 段取りを決めた私たちは走った。だけど立て続けの連戦に負傷。私達の足は鉛のように重かった。先ほどの無茶が祟ったのだろうか。足が思うように動かない。腕もだ。

 そんな時だったそれが聞こえてきたのは。

 「中央昇降口が開きます。職員の皆様は至急指定された位置まで退避の方をお願いします」

 機械的なアナウンスの後それは開いた。

 このキャンプは四つの監視塔を正方形としたときに中央に大きなスペースがある。それは恐らく軍が隊列を組んで出撃するためのスペースなのだろう。

 だがここに限ってはもう一つの意味があった。奴だ。ガーデックが10機ゆっくりと上がってくる。

 足取りが重いとか言ってられない。例え足が重くても、腕がちぎれそうでも走るしかなかった。走らなければ私たちは死ぬのだ。

 だけど現実は精神よりずっと強固だ。例え私たちがどれほど気張ろうともどれほど強靭な意思を持っていても限界というのは容赦なく絶望を叩きつける。

 監視塔を抜けて隊舎区域に来たとき隊長が倒れた。

 「っ!」

 原因は分かっていた。出血だ。どれほど隊長たちが強くても血だけはどうしようもない。痛みなら彼だけでなくグレイブの皆が戦えるだろう。だが血がなければ戦うための気力すら作り出すことはできない。

 「チアノーゼが出てる。一体いつから…」

 恐らく症状自体は以前から出ていたのだろう。だけど気づけなかった。恐らく私を後ろに行かせたのもこれが理由だ。顔を見られるのを避けたかったのだ。

 思えば思うほど思い当たるところが出てくる。だけど私はそれに気づけなかった。きっと隊長なら大丈夫だろうという思考放棄がこれを引き起こした。

 「あぁもう!」

 だけどここで足を止めることだけは避ける必要があった。車輪の音が聞こえる。あいつらだ。

 私は隊長の腕を掴み肩に掛ける。いつもなら人間一人程度難なく運べる。だけどこれ以上の無茶は本当に体がちぎれそうだった。今ここでちぎれたら全員死ぬ。だからゆっくりでも歩くしかない。それだと逃げられないと理解しているけどそれでも逃げるしかない。

 「ようやく追いついたよ」

 気が付けばガーデックは私たちの後ろまで迫っていた。数はきっちり10機。迷うことなく私達を追いかけてきたみたいだ。

 「このまま帰るって選択肢はあり?」

 私はダメもとで聞いてみる。

 「まぁ特に重要な情報は盗まれてないからいいんだけど…」

 ガーデックがこちらを見る。私達と違って機械的なその顔は人間らしさを感じさせないはずなのにどこか艶のようなものがあった。

 「そうだなぁ。じゃあちょっとお喋りしよっか。それで僕が楽しんだら帰してあげる。勿論そこの彼も一緒だ」

 「楽しめなかったら?」

 「勿論殺すよ」

 ガーデックの向こうでそれが笑っているのが見えた。

 「分かったその話に乗る。だけどこっちも怪我人がいる。そこまで時間は取れない」

 「交渉出来るような立場じゃないって理解した方がいいよ?まっ今回はそれでいいけどね」

 ガーデックはそう言うとその場に腰を下ろした。こいつ座れるような構造だったのか。

 「あっこれ?ちょっと難しいけど慣れたらいけるよ。操作にコツがいるんだ」

 そう言ってガーデック達は器用に座り込んで見せる。まるで全員が同じ操縦者であるかのような揃った動きだった。

 「じゃあ自己紹介からしようか。僕のことはラスボス君とでも呼んで。流石に名前を言うわけにはいかないからね。君の名前は?」

 「S12」

 「変な名前だねぇ。君たちの組織はアンドロイドに名前もつけないのかい?」

 なんで目の前のこいつにそんなことを言われなければならないのか甚だ疑問だがとりあえず耐えることにした。殴りたくても目の前のこれを殴ったところで意味はない。

 「それは失礼しました!それでお喋りと言ったからには何かテーマがあるの?」

 「テーマねぇ。特に決めてないし決めるつもりもなかったんだけど…うーんそうだなぁ。じゃあこうしよう!君たちのことを聞かせてよ」

 「私達?」

 「そう。君たち。君たちは僕たちが開発したアンドロイドや兵器と違って随分と貧弱だ。装甲はないし、武器は後付け。なにか変わった物があるかなぁ?と思ったらそれも分からない。あるのはただ無駄な根性と時折見せる残虐性。どうしてそれでここまでこのキャンプを壊滅させたのか、どうして僕のお気に入りのガーデックをここまで痛めつけることが出来たのか。僕はそれが知りたい」 

 そんなものは知らない。正直運頼みだったところが多い。実際にキャンプを半壊させたのは隊長たちだし。私個人はそこまで特別なことはしていない。だけどそれは目の前のこいつが望んでいる答えではない。それぐらいは私にもわかった。

 「まぁ確かに君が活躍したのは後半からだけど大したものだよ。サーベルRも簡単に倒したし」

 「人の心を読むのは止めて。ところでサーベルRって?」

 「君のとこのSシリーズあるでしょ?あれとは違う形で一騎当千出来る個体が欲しいって要望があってね。それで作ったのがサーベルシリーズ。けど単純に心理機能をつけても強くならなくてね。だから僕は君に興味があるんだ」

 まぁ個体名名乗ったからバレても仕方がないとは思ってたけどSシリーズのことも敵に伝わってるのね。厄介な

 「私より強い人なら埼玉にいるよ」

 「あぁS4とS2だっけ。あの二人強いけど話通じないからね。特にS4」

 うん?なにかおかしい。

 「S4姉さんは話通じる。話が通じないのはもう一人の方」

 「いや間違ってないよ。S4あれも十分に頭がおかしい。正直身内だから話が通じるんじゃないかな。でなきゃ僕たちはとっくに君たちを滅ぼしてる」

 「どういうことです?」

 「君の姉はね早い話がリスク管理がうまいのさ。そして情がない。よくある問題でさトロッコ問題ってあるでしょ?君の姉は間違いなく多数を助ける。少数を犠牲に僕たちを大量殺戮なんてことはよくやられた」

 「随分と姉に恨みがあるようで」

 「いや…それはないけど興味はある。君にもね」

 面倒な奴に興味を持たれた。そう思った。正直このまま話を続けるのは嫌だった。生理的な意味でもそうだがなにより隊長の様子がおかしい。呼吸が荒い。体が酸素を取り込もうとしているのだろう。このままだと早い段階で死ぬことが目に見えていた。

 「そう…じゃあ悪いけどそろそろ道を開けて貰える?」

 「うん?あぁそうかそこの人間が死にそうなのか。でもねぇ僕はまだ満足してないしさっきの問いの答えを聞かせて貰ってない」

 「それそんなに重要?」

 「あぁ重要だ。僕にとってね」

「…正直分からない。でも私たちが特別なのは事実だと思う」

 私がそう言うとガーデックはどこか呆れたような表情をした。

「やっぱり本人から聞いても分かるはずがないか」

そう言うとガーデック達は立ち上がる。

「やっぱり素直に家に帰らせる気はなかったんだ?」 

「君も覚悟はしてたでしょ?」

それはそうだ。敵に捕まって素直に帰れるなんて甘い考えはしていない。でもあわよくばなんて可能性に賭けたくなっていた。目論見は外れたが。

「でもね君は殺さないでいてあげるよ。せっかくのSシリーズだし。捕まえて研究の材料にしよう」

「個人的には逆の方が助かるんだけど?」

「ダーメ」

こりゃ腹決めるしかないかな。でも銃は地下室に置いてきたし武器もない。諦めたくはない。私の命も隊長の命も諦めるなんて嫌だ。

でも目の前で回る銃身が立ち上がる気力を失わせる。目の前の悪夢は容赦なんてしない。今までの私がそうだったように。

「畜生っ悔しいなぁ」

結局大切な物は何一つ守れなかった。家族は皆死んだ。わがまま一つ通せなかった。もっと生きたかったなぁ。

「大丈夫だよ。君に命は保証するから」

「結構だクソ野郎!」

ならせめて死を選ぼう。隊長には悪いけどそれでもここで玩具にされるなら潔い死を選ぼう。

私が隊長の体に覆いかぶさったその時だった。それはやってきた。それは音と衝撃と共に颯爽と現れた。

それは戦車だった。二台の戦車。私達が乗り捨てた戦車とは違うまだ新しいタイプ。だけどそれは間違いなく合理派の物で。それが導き出す答えは一つだった。

「生きてるかぁ!」

「無事ですかい!隊長!嬢ちゃん!」

それは死んだと思っていた皆だった。相も変わらず血だらけでボロボロだけど確かに皆だった。

「そっちこそ!」

「とりあえずもうしばらく伏せてろ!当たったらすまん!」

私はそれでさっきの衝撃の正体を悟った。これから来るものの正体もだ。素早く隊長を下にしてまた頭を伏せる。戦車から放たれたそれは私達を本当に助ける気があるのかと問い詰めたくなるほどのものだった。ガーデックに囲まれてなければとっくに死んでいただろう。

だがそのガーデック自身もバラバラに砕けていた。四体。二度の砲撃で四体ものガーデックが吹き飛んでいたのだ。

「凄いとは思うけど他に方法なかったの!?」 

「全員重症だ!文句言うな!」

「死人は!?」

「大勢!生存者はお前たち含めて12人!」

「最悪っ!」

「そうだ最悪だ。でもなぁ!」

戦車たちがガーデックの群れなど気にしないで侵入してくる。

「ちっ」

それに合わせてガーデック達も逃げ出す。入れ替わりで戦車が今度は私たちの前に立ちふさがった。

「とりあえず生きてる奴もいる。それを喜ぼうや」

そう言って笑った郷田さんの顔は優しかった。

「さてと…お前ら二人ほど出て隊長回収してこい。嬢ちゃんは先に逃げとけ!」

郷田さんと入れ替わるように戦車の中から二人出てきた。三谷さんと谷本さんだ。二人は私の方を見てよく頑張ったねと言ってから隊長を戦車の中に運び入れた。二人の体には痛々しいほどの包帯が巻かれていた。

「嫌です。戦車が操縦できるほどの人数がいるなら私も戦います!」

今さっきまでとは状況が違う。さっきは隊長一人の運転だったから私が全て誘導する必要があったが今回は観測、操縦、砲撃全てそろってる。私達が逃げる理由はないのだ。

「いや邪魔だから消えてくれ。普段の嬢ちゃんならともかくとして今の嬢ちゃんに頼める仕事はねぇよ」

また頭を出した郷田さんは吐き捨てるようにそう言った。その目は私を見ていない。目の前のガーデックにのみ視線が集まっている。

「でも!」

「でもじゃねぇ!」

突如郷田さんが吠えた。

「おい嬢ちゃん。お前今満足に走れんのか?走れないから敵に捕まってたんじゃねぇのか。違うか?」

それは事実だった。普通に歩く分には問題がないが走るとなれば体が動かない。恐らく重心制御に異常が出ていた。さっき隊長に転ばされたとき既に違和感はあった。あれくらいの攻撃で私が転ばされることはあり得ない。それでも転んだということは体に異常が出ていることの表れだった。

なによりそれを見破られる程度には今の私はおかしな挙動をしているのだろう。その事実がうっとおしい。例えそれが事実であっても私は戦いたい。皆と一緒に居たい。だけど郷田さんの声が、雰囲気がそれを許さなかった。

「こっからさきにバイクが数台置いてある。一つは俺のだ」

そう言って郷田さんは私に鍵を渡してくる。それは戦力外通知だった。

「さっさと帰んな。そんで帰って俺たちをまた助けに来てくれや」

顔は見えなかったがきっと郷田さんは笑っていた。戦車の中の皆もだ。顔は私に見せないけど確かに笑っていたのだ。

「必ず!必ず助けに来ますから!生きててください!」

私の言葉に返事をするものはおらず代わりに戦車のエンジン音だけが響いていた。



「行ったみたいだね」

ガーデックが郷田達に話しかける。

「なんだ?一々律儀に待ってたのか?お優しいねぇ?」

 「でっしょう~?」

 郷田とガーデックは笑っていた。それは和気あいあいとしたものではなく陰湿なものだった。

 「まぁそんなことは置いといて。君たちを始末してからじゃないと彼女は捕まえられないからね。戦闘に巻き込まれるのだけは避けたいしね」

 「そんだけ頭数がいりゃあ俺たち相手にしてもおつりが出るだろうに」

 「とぼけるなよ。本当はもう少し生き延びてる奴がいるはずだろう?そいつらはどこでなにをしてるんだい?」

 郷田はその問いに答えない。それはこの場において何かを用意しているという意味になる。

 「僕はね。君たちを買っているんだ。奇襲がほとんどとは言え、自分達の戦力の10倍以上の敵を相手に勝ち残った君たちは化物だ。尊敬すらする。だからこそ油断するつもりはないよ」

 ガーデック達が低く構える。隊列を組んでいる。恐らく戦車二台を囲んで攻撃するつもりなのだろう。

 「そりゃ光栄だ。でもこっちも死にかけがいるんでね。さっさと倒して治療の方させてもらうぞ。」

 そう言って郷田は戦車の中に入った。郷田の狙いは自分達を少なからず動ける状態にまで戻した医療施設だった。ここのキャンプには医療施設があり素人知識ではあるものの少なくとも郷田たちはまた痛みを忘れて戦える状態になっていた。

 沖田の体はチアノーゼを起こし呼吸にも異常出ている。輸血をしなければ死んでしまうことは目に見えていた。

 郷田はS12があてもなく逃げた結果沖田を死なすことを恐れた。それならばいっそ目の前の敵を倒してからキャンプで治療を受けさせた方が確実だと考えていたのだ。

 「これ以上嬢ちゃんに余計な物背負わせないためにも勝って帰るぞ」

 「「おう!」」

 こうしてグレイブとガーデックの最後の戦いが始まった。



 郷田さんのバイクは難なく見つかった。それは傷だらけで今までの戦いがいかに過酷だったかわかるほどだったが問題なく動きそうだった。強いて言うなら多少ハンドリングに異常がありそうだが今の私でも十分に運転できそうだ。

 エンジンは問題なくかかった。体をバイクに預けてアクセルを回す。急ぎたい気持ちがあるが速度を抑えた。確実な運転をこなす自信がなかったからだ。

 「でもどこに助けを呼ぶべきか…」

 順当に考えるなら本隊なのだろう。だけどガーデックという正体が未だ良く分からない敵に対して本隊が動いてくれる確証を持てない。かと言って埼玉の姉に連絡を取ったところでここに来るまでにどれほどの時間がかかるか分からない。結局は本隊に頼るしかない。

 キャンプ地を脱出してしばらく走った頃。未だに燃え上がる街のすぐ傍の橋を渡っている頃だった。

 「誰だ?」

 カメラのピントを合わせてみる。それは大型のバイクに武装を積んだアンドロイドだった。赤いジャケットを着ている。髪は金色で体に不釣り合いな大きなアサルトライフルを持っていた。

 「止まれ!」

 それは女の声だった。ついこないだ聞いたばかりの声だ。

 私は思わずブレーキを掛ける。この人が敵ではないことを理解しているからだ。いやまだよくわからないところはあるのだが恐らく敵ではない。

 「なにやってるんですかS2姉さん!」

 そこにいたのはS2姉さんだった。私を埼玉から千葉に帰らせた原因であり良く分からない人。正直怖い。何を考えているのか分からない上に狂犬だからだ。でも今の私にはそんなことを気にする資格はない。

 「ちょうど良かった。今援軍を呼びに行こうと思ってたんです。力を貸してくれませんか?」

 私はバイクを降りて姉に話しかける。

 相手が鬼だろうが悪魔だろうがこの際関係なかった。このまま行けば全員殺されることが私には分かっていた。まだ戦場の方から砲撃の音はしている。今はまだ持っているようだけどこのまま行けばどうなるか分からなかった。

 「姉さん?」

 だけど目の前の姉はそんなこっちの事情なんて知らんと言わんばかりにただ私の方をじっと見ている。それはS4姉さんがする、舐めまわすような視線ではなくまるで私を射殺すようなそんな視線だった。

 「悪いが妹、しゃがんでくれるか?」

 「何故?」

 姉の誘いを断る。嫌な予感がした。それもとびきりのやつだ。

 「そうか。なら力づくだ」

 そう言うなり姉は私の頭を掴んだ。見えない。反応すら出来なかった。かろうじて見える肘の動きが私の頭を掴んでいることを理解させた。

 姉の腰が回ろうとしている。投げだ。それも地面に叩きつけるタイプだ。

 瞬間的に姉の動きを理解した私は体を捻って最悪の事態を躱そうと試みた。だけど動かない。姉だ。姉は私の頭を万力のような力で抑えていた。それこそ体の自由が効かなくなるほどの力で。体勢も悪い。重心は後ろに傾いており掴まれた頭は上に引っ張られている。体を捻る余地が残されてない。

 頭部に衝撃。アンドロイドに脳はない。だけど人間と同じようにバランスを司るパーツは入っていた。それが完全に故障したことを私は感じ取っていた。

 今の私は地面に転がされているにも関わらず世界が揺れて見えた。カメラは動いてないのにだ。

 「すまんな。脚も貰っていくぞ」

 「やめっ」

 最悪の言葉。それを拒否するする時間はくれなかった。右足を足で抑えた姉はそのまま膝から下をもぎ取った。

 痛みはない。だけど痛みのようななにかを感じた。思わず叫びたくなるようなそんな何かを感じた。喪失感と怒りが混じり合った感情が私を襲う。

 「こちらコードネームS2。只今逃げ出したF-3020型アンドロイド、S12を確保した。現在第五特殊小隊はまだ戦闘を続けていると思われるが。……了解。それではS12を連れてそちらに帰投する」

 「なっ…」

 意味が分からなかった。いや理解していた。だけど目の前の状況を受け入れたくなかった。

 「というわけだ妹。お前の援軍要請は却下された。勿論私も助けるつもりはない」

 「…なんで」

 「うん?私がここにいる理由か?そんなものお前の確保に決まっているだろう。上官に対する暴行、バイク等のその他武装の盗難。追手が差し向けられないとでも思ったか?」

 確かにそれも気になっていたが知りたいことはそうではなかった。なぜ目の前で仲間が戦っているのに助けないのか。あなたにはそれを成し遂げる力があるのに。手を伸ばせば届く距離にいるのに。

 「それにだ。今から助けに行ってもこれはもう無駄だな」

 「は?」

 「よく耳を澄ませよ。確かに戦闘の音はしているが段々と聞こえる音が一方的になっているだろう?そしてお前のその状況、見て見なきゃ分からないが…多分ほとんど負けてるな」

 確かにさっきから聞こえてくるのは戦車の豪快な砲撃音ではなくさっきまで嫌となるほど聞いたガーデックの物が多い。それもほとんどがそれだ。認めたくはないがやはりグレイブ皆は劣勢なのだ。

 それでも五分。五分あればそこに辿り着ける!五分生き延びてくれたら誰かは助け出せる!

 「そんな目をしたところで私は助けにいかない。それに言わせてもらうが、そんなに助けに行きたいのならどうしてお前は逃げていた?」

 頭の中の何かが切れる音がした。

 「逃げてなんかないっ!」

 「そうか。でもな他の人間は戦っているにも関わらずお前だけがこうして一人ガラクタのように転がってる。どうせ転がるにしてもあてのない味方を探して転がるくらいならどうして戦場で転がらなかった?」

 「それは本隊に助けを呼ぼうと」

 「絶対に助けに来ない本隊を頼ったってか?こいつはお笑い種だ」

 そう言って姉は高らかに笑いだす。心底面白い物を見たように。

 「そうか。お前はまだ色々足りてないんだっけか。良い事教えてやるよ」

 姉が私の頭を掴む。

 「お前が居た部隊はな見捨てられたんだよ」

 姉は嫌な笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

 「そもそも見捨てるなんて問題ですらないな。ここがなんでキルゾーンなんて呼ばれているか知ってるか?」

 姉は私の頭を揺らしながら楽しそうに説明する。私はそんな姉の姿よりもさっきの言葉の事実の方が気になっていた。

 「それはなここが不穏分子の処刑場だからだよ」

 「不穏分子…?」

 なんのことかさっぱり分からない。恐らくは裏切りのことを言ってるのだろうがグレイブのメンバーに裏切りをするような人間はいない。

 「お前が今考えているような存在もそうだがもっと単純な話だ。犯罪者だよ」

 姉の言葉がますます分からない。

 「なんの話をしている」 

 「まあ最後まで聞けよ。ちゃんと説明してやるからさ」

 そう言って姉が話した内容は胸糞悪いまだ私が知らない世界だった。


 

 姉曰くそもそも合理派の東京テロは軍の一部の物が協力して起こした物らしくそれにより軍部は基地を乗っ取られたこともあり絶対的な人員不足に陥ってたという。そこで軍部が目をつけたのがアンドロイドを兵士として流用する計画。E型兵士の増産計画だった。だけど元あるアンドロイドを流用するのにもコストがかかり何よりその間合理派の兵士を抑え込む人間がいないという問題があった。

 そこで考え付いたのが民間からの募集。だけど民間の兵士を徴兵したところで即戦力にはならない。なにより自ら進んで戦う民間人は稀だった。そこで利用されたのがグレイブの皆を含む社会不適合者。刑務所に居たり、未決勾留の者を利用する考えだ。

 彼らは強かった。元が犯罪者ということもあり命を奪うことに躊躇いがない人間が多い。軍部は彼らに様々な優遇条件をつけて次々と彼らを解放した。

 だけど同時に問題も多かった。単なる素行不良に始まり、政治犯による裏切り、度を過ぎた過激な作戦行動など問題点が多いことも事実だった。

 だけどそんな事実を上層部は無視した。無視しても良いほどに彼らは強かったからだ。だけど現場はそうもいかなかった。

 彼らに呼応されるように民間上がりの兵も、元々軍属の兵も実力をつけていったがそれでも彼らには敵わなかった。

 優遇措置に対する不満、実力に対する妬みそれらが積み上がった結果彼らを危険地帯に飛ばす計画が現場で密かに計画された。

 その結果がキルゾーン。ついでに彼らを監督する軍部の人間中で不穏な動きをしている者の命を奪うことも同時に行えるということもあり現場は大きく喜んだ。

 今回もその結果だと言う。

 「まぁ犯罪者と言ってもピンキリだし事情もある。一概に言うことは出来ないがな。政治犯に影響を受けた民間上がりもまとめて組み込まれて送り込まれるケースもある。」

 「なんでそんなことが…」

 理解できなかった。どうして味方同士で争えるのか理解できなかった。合理派の敵は強く厄介だ。そんな中でどうして足の引っ張り合いが出来るのか理解出来なかった。

 「そりゃお前が原因だよ」

 「えっ?」

 「えっじゃあねえよ。生意気にも軍部の落ちこぼれと犯罪者共が将軍に直々に掛け合ってお前を埼玉に移動させたんだ。そりゃ現場からしたら面白くないだろう。ましてやちょうど使えるようになったときに限ってだ」

 隊長の顔が頭に浮かぶ。グレイブの皆の顔が頭を埋め尽くしていく。

 「わかるか?お前の存在が他の人間を殺したんだ」

 その顔が弾けて消えた。



 「私が殺した?でもそれを企んだのは現場の人間で、でも原因を作ったのは私で…」

 S2の言葉を聞いたS12はブツブツと独り言を繰り返す。

 「…壊れたか?」

 そんなS12の様子をじっとS2は見ていた。

 初めて会ったときは姉妹ということもありそれなり程度には仲良くするつもりだった。だけどS12を見てそれは消え失せた。

 「この程度で壊れるならどの道使い物にならないか」

 彼女の幸せそうな顔が心底ムカついたのだ。現場の苦しみを知らず、今まで守ってもらっていた彼女がS2にはどうしても我慢ならなかった。

 グレイブが将軍と付き合いのある特殊な組織であることはS2も掴んでいた。そしてそんな彼らが事を起こしたことも。そこから何が起きるのかも大体の想像がついていた。

 だけどそんなことを知らずに生きようとしているS12にムカついて思わず彼女を壊した。彼女が治療の後戦場に行くことも分かってだ。

 彼女が絶望を知ることを期待していた。もし絶望を知らなくても何か結果を残してくれると信じて彼女を壊した。だけど結果はどうだ。結局彼女は何も知らないままだ。相も変わらず優しさだけで生きていた。それどころかS2に助けすら求めてきた。

 自分が軍部の汚いところを利用しても彼女はなにも変わることはなかった。世界は優しいものだと信じて生きている。世界は汚くて、それを覆す力が彼女には備わっているのにそれに気づくことすらなかった。

 思わず真実を告げた。そして真実を知り彼女は壊れた。そんな彼女がこの先を生き延びれるとは思えなかった。

 「ほんっと申し訳ないね。第五特殊小隊の皆さん」

 そう言ってS2は放心状態のS12を抱えて研究所に戻った。千葉キャンプ地の対応は適当にすませるつもりだった。



 「様子はどうですか?」

 首だけになったS12を囲んで研究所の職員は唸った。あまりにもボロボロだったため他の研究所の職員も集めての大仕事になった。

 「ダメだな。再起動もしているのに一向に治らない」

 あのあとS2に運ばれたS12は体の故障個所を治してもらったが心の問題だけは治ることはなかった。

 起動してみればブツブツと人には聞き取れない言葉を漏らすだけの人形になってしまった。

 時折何かに怯えるように暴れるようにもなった。明らかに心理機能に異常があるのは確かだった。

 「とりあえずいつものように拘束具をつけて様子を見よう」

 結局のところ心理機能はどこまで行っても心の問題であり研究所がどうこう出来る問題ではないと言うのが職員一同の結論になりつつあった。

 その結果としてS12は午前中は解体の後メンテナンス。午後からは拘束具をつけてのカウンセラーによる会話という生活が続いた。

 そんな生活が一週間ほど続いた。そんなある時だった。突如千葉キャンプ地の人間が押し掛けてきた。

 「まだ使い物にならないのか!」

 それは服部だった。

 「ここは関係者以外立ち入り禁止です!」

 研究所の人間が慌てて止めに入る。

 「うるさい!こっちがお前たちにいくら払っていると思ってる!。高い金を出して救出したにもかかわらずこれか!」

 S2に救出依頼を出したのは服部だった。Sシリーズの暴走はSシリーズにしか止めることは出来ないと考えていたからだ。

 ぼーっとなにもない空間を見るS12の腕を掴む。

 「こいつは連れて帰る!どうせお前らが匿っているだけだろ!」

 「だからまだ駄目です!今のまま戦場に連れていっても使い物になんかなりませんよ!」

 「うるさい!」

 服部が研究員の体を突き飛ばす。その時だった。

 「…お…のせ…で」

 S12が拘束具を破って動き出したのだ。

 「なんだ一体?」

 尋常ではない様子に服部も怯える。今のS12には良く分からない凄みがあった。それは今まで見たことのないものだった。

 S12の体が大きく動く。 

 「ひっ」

 だけどその体の矛先は服部ではない。

 「大丈夫ですか?」

 「あ…うん」

 研究員だ。研究員の方に向けられたのだ。一週間動かなかった彼女は真っ先に服部ではなく研究員を助けた。

 「すいません。今まで迷惑をかけて」

 久しぶりにまともな会話をした彼女の顔は憑き物が落ちたような顔をしていた。それは優しく聖母のような雰囲気ですらあった。

 「もう大丈夫ですから」

 S12が服部目掛けて歩き出す。その歩きに迷いはない。

 「本日より千葉前線に復帰します。ご指示を」

 こうして彼女とグレイブに関する物語は一つの区切りを迎えた。この数ヶ月後彼女は味方に対し発砲するという事件を起こすのだがそれはまた別の話である。



さて…今回で一つサブエピソードの方は終わります。いつものようにQ&A方式で色々答えていこうかと思います。


Qなんか言うことは?

A大変申し訳ございませんでした!本来ならここまで長引く予定ではありませんでした。正直三話で終わらせる予定でした。なんなら一話で終われば良いなとまで思ってました。ここまで長くなった理由は作者にも分かりません!色々妄想が膨らんだせいです!


Q最後駆け足じゃねぇ?

Aいえ…本当はもう少し丁寧に書く予定だったのですが真面目に時間が取れず…そのため「あっ絶対ここもう一つくらいエピソード入ったよねという箇所がいくつかあります。今後修正していきますので平にご容赦を。


Qサブエピソードは続くの?

A本編を進めて一区切りがつけば続きを書こうと思います。


Q次の更新は?

Aしばらくは本編ですね。流石に一章も終わってないのはまずい。


Q諸々伏線っぽいの投げてるけど回収は?

Aちゃんとするつもりでございます!もう少しお待ちを!


Q兵器のデザインとか似たり寄ったりじゃない?

A真面目に本を読んでみれば逆にネタギレになるんですよね。不思議。誰かネタくれないかしら。


Q色々文法含めて怪しいところあるけど

A今後の更新の間に直します!


…こんなものですかね。あっいつもご感想、評価をつけてくださる皆さんありがとうございます。今後とも励みになりますので評価、ご感想はバシバシくださると嬉しいです!それではおやすみなさい!

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